室内から一歩外へ出ると、肌を刺すような冷気に思わず身がすくむ。
北の地方では、もう雪の便りが聞こえてくる頃。
まだこちらではその気配は見えないが、近い内にそれは訪れるのだろう。
12月に入り、世間もさすがに気ぜわしくなっている。
あと数日にせまった一大イベントに備え、街はきらきらと飾りたてられていた。
繁忙期の嵐の前の静けさか、定時に退社した大月は、街中に乱反射する光の中に…
…天使を、見た。
淡い色合いの、細く柔らかそうな髪が、冷たい風に流れる。
その流れに合わせるように、光の粒がきらきら、きらきら…。
ゆっくりと振り返る彼の瞳の中に、電飾がハレーションをおこす。
「あれ…大月さんじゃないですか?お仕事の帰りですか?」
「やぁ、知風君。君は…塾の帰りかい?」
「えぇ、そろそろ追い込みですから…。厳しいですよね、受験生って。」
「受験……そうか…君は、外部も視野にいれているんだったね。えらいね。」
「いいえ、そんな…。」
知風は、照れたように頬に手を当て、そして遠慮がちに尋ねた。
「大月さん、今日は歩いてお帰りですか?僕、途中までご一緒しても…いいですか?」
「あぁ、構わないよ。送って行こう。」
「本当!?ありがとうございます!」
そう言って、微笑む。
きらきら、きらきら…光が踊る。
「僕…せっかく江藤先生が聖カテリナに入るために勉強を見てくれたのに、外の高校を受けようなんて…。
すごく申し訳なくて…。」
「そういえば、中学入試の時に江藤が家庭教師をしていたんだったね…でも、ちゃんと合格したのだし。
君がキチンと考えたうえで、他の高校へ進学するというのは、いけないことではないさ。
むしろ、楽ではない進路を選ぶのだから、それはすごい事だと思うがね。」
「…江藤先生から、聞いてたとおりですね、大月さんって…。」
「え?」
「とっても親身になってくれて、優しくて…江藤先生が、好きになっちゃうのもわかる気がします。」
「ち…知風、くん?」
静かな住宅地、知風の家への帰り道。
庭先に飾られたリースやツリーには色とりどりの電灯が瞬いている。
その明滅する小さな灯りが、大月を見つめる知風の涼やかな顔を照らす。
きらきら、きらきら…。
「大月さん?」
「な、なんだい?」
「大月さんは、江藤先生とはどういうお付き合いなんですか?」
「き、き、君…!」
「…恋人、ですか?」
「な………!」
「そんなにびっくりしないでくださいよ、大月さん!今時の中学生なんて、こんなの序の口ですよ。」
愉しそうに笑う知風の顔を見て、大月は小さく息を吐いた。
眼鏡に手を当てて、少し考え込む。
「悩んじゃいました?あんまり悩むと、その…薄く、なっちゃいますよ。
僕、嫌だなぁ…。薄くなっちゃった大月さんなんて…!」
「う…す………。」
「…くすっ…。冗談ですよ。本当に大月さんって、反応が可愛いですよね。」
「知風君!大人をからかうものじゃ…!」
「ごめんなさい…僕、大月さんと一緒にいられるのが嬉しくて…つい、はしゃいじゃって…。」
「い、いや…私も、少し大人気ないな…。」
「やっぱり…優しいんですね、大月さん。僕…江藤先生が、羨ましいな…。大月さんの、隣にいられて…。」
「君って子は…。」
「でも僕、江藤先生も、大月さんも、大好きですから。」
もはや返す言葉もなく、大月は唖然とする。
知風は、周囲から溢れる灯りに包まれて、にっこり微笑む。
なにもかも許してしまいそうな、憎めない笑顔。
そして、家の前まで送り届けると、名残惜しげに振り返る。
「また、ご一緒できます…よね?」
大月がゆっくりと頷くと、知風は安心したように笑った。
少し毒を持った気まぐれな天使に翻弄されて、夜というのに明るい光が溢れる道を歩く。
街中を照らす、眩しいほどの照明の中に、彼の姿を思い浮かべた。
きらきら、きらきら、光に包まれ、白い羽根を広げる天使の姿を。
END
えー…っと、なんでしょうか、これ?
ちーちゃんに、もてあそばれるハニー。
だんだんちーちゃんが壊れていくような…。
それでも、ちーちゃんは見た目天使ですから。
本当は真面目な物になるはずだったのに、
軽く終わらせてしまいました。
一応、クリスマスということで。
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