扉をあけて



この時期にしては珍しくギリギリまで押し迫った案件はない。
すんなり通った企画の準備は年内に終了しそうだった。
部下達は、どうしてもこの日は時間で退社したいと泣き付いてくる。
大月は苦笑しつつそれを承諾する。
それほど時間に迫られた物ではない。
彼等の気持ちも解らないでもない。
こんな日に、いつまでも職場に縛り付けられるのも酷だろう。
ある程度の整理を終えて、彼等はいそいそと待ち人の元へ。
今日は、そんな日…巷はクリスマス一色。

毎年、この日は空見の家に呼ばれていた。
だが、今年は友達と家族ぐるみでパーティーを開くと言っていた。
姉からそれを聞き、大月は列席を控えた。
空見はそれでも来て欲しいとせがんでいる。
だが、せっかく同年代の友達と遊ぶようになったのだから。
そろそろ叔父馬鹿は返上しなければいけない。
いざそうなると多少の物寂しさも感じるが…。
どうせなら、一人で残業しても良かった。
ふと、休み明けには必ずやりますとの部下達の顔が浮かぶ。
その言葉に甘える事にして、大月は電飾に飾られた街を抜け家路についた。

部屋に帰り着き、熱いシャワーを浴びる。
冷え切っていた身体が、熱を取り戻す。
冷蔵庫の中の缶ビールを取り出し、一気に流し込んだ。
喉を滑り落ちる炭酸の、微かな刺激。
おぼろげな視界の中、窓の外を見やる。
何重にも滲んだ白い塊が、ひらひらとたゆたう。
まるで、水の中に沈んでいく、一粒の土塊。
ぼんやりとした意識に飛び込む、機械的な呼び出し音。

 「…はい…。」
  『あ…先輩。家にいたんですね。』
 「あぁ、江藤か…。どうした?お前は、外からか…。」
  『えぇ、まぁ、そんなとこです。』
 「何か、あったのか?こんな時間に…。」
  『それは、こっちの台詞ですよ。今日は空見くんのお呼ばれじゃないんですか?』
 「まぁな…友達とパーティーだそうだ。」
  『へぇ〜、めっずらし〜!あの、空見くんがねぇ…。』
 「…空見も、年相応になったということだ…。」
  『でも先輩、ちょっと寂しいでしょ?』
 「まぁ、多少はな…。だが、そうも言ってはいられないだろう。」
  『…慰めて…あげましょうか…?』
 「はぁ…冗談も大概に……。」
  『あ〜!本気にしてないでしょ〜!そりゃ、心外だなぁ…。』
 「お前のいつもの行いが原因だろう…。」
  『敵わないなぁ、先輩には…。今日は大丈夫だと思ったのに…。』
 「何が、大丈夫だ。」
  『……そんな落ち込んでる先輩、ほっとけないでしょう…。』
 「私が…落ち込んでいる…?」
  『そ!だから、先輩のサンタになろうかと…。』
 「ふっ…好きにしろ。」

いつもの軽い調子の後輩の声。
沈んでいた気持ちが、浮き上がる感覚。

  『お許しが出たということで…。』
 「何だ?」
  『扉、開けてもらえませんか?』
 「……?」

  『今、マンションの前にいるんですよ…。』


END


まほろば、クリスマス記念。
でも、2人ともまるで別人。
なんか、ありがちですか?
ま、いっつもなんですけど…(苦笑)
クリスマスということで、どうかお許しくださいませ。
(誰に聞いているんだろう…。)

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