僕の特別な日



今日は朝から、学校中が浮き足立っているみたい。
今日がそういう日だって事は僕だって知ってるけど、僕にとっては違う意味の日でもあるんだ。
いつもの時間に登校した僕は、そんな彼女達を横目に見ながら玄関へと向かった。

「おはよう、知風くん…あの……。」

ためらいがちに掛けられた声に、上履きに履き替えようとしていた僕は動きを止めた。
その前に、下駄箱に入れられていた包みが目に入ったけど、知らない振りをして彼女に笑顔を向けた。

「おはよう。え…っと、ごめんなさい…名前が出てこなくて…。」

当然だ…だって、会ったこともないんだから。
私立の進学高であるこの聖カテリナ学園は、一学年10クラスのマンモス校だ。
同じ学年でも、顔すら見た事の無い人が多い。

「あ!ううん…いいの。あの、これ…貰ってください!」

彼女が俯いたまま差し出した物は、綺麗に包装された包みだった。
下駄箱に入っていた物と同じ、今日のために用意された物。

「これって…”バレンタイン”の…だよね。」
「うん…そう、だけど…。」
やっぱりね…これはバレンタインの物だよね。
黙ってしまった僕を、不安そうに彼女は見ていた。
僕は急いで、笑顔を取り繕う。

「ありがとう。」

そう言うと、彼女ははにかみながら駆けて行った。


結局一日中、休み時間になると女の子達が来て、僕の手にはいろいろな包みが渡された。
それは全部、来月のお返しを期待する物で…僕にどうしてほしいと言うんだろう。
誰も、僕にとっての今日という日に、気付いてはいない。
時間は僕の気持ちには関係なく流れ、背中に重いカバンを背負って家に帰ろうとする僕を、引き止める声があった。

「よぉ、随分貰ったんだな、ちー!」

この声!この呼び方!
勢い良く振り向いた僕を、大好きな笑顔が見つめている。

「ちーは、人気者だな。皆に祝ってもらったのか?」
「え?祝って、って…。」
「だって、それ全部ちーの誕生日のプレゼントだろ?」

僕を『ちー』と呼ぶ人はたった一人…火足ちゃんしかいなくて、火足ちゃんは今日が何の日か知らないの?

「ねぇ、火足ちゃん。今日は、何の日?」
「何の日って…今日はちーの誕生日だろ?おかしな奴だな。」

あぁ、もう、いいや。
火足ちゃんの言葉で、僕の憂鬱はすっかり晴れてしまったから。
たった一人、一番大事な人が、僕にとっての今日を知っててくれるなら。

「火足ちゃん、今日、チョコ貰わなかった?」
「あぁ〜…なんかたくさん貰ったけど、腹減ってたから食っちまった。」

思わず吹き出してしまった僕を、火足ちゃんは怪訝な顔をして見てた。


もう…大好きだよ。火足ちゃん!


END



WEB拍手から、繰上げ。
バレンタインと言うよりも、
ちーちゃんBD記念ですね。
こういうイベントとBDが重なると、
大抵一緒にされちゃうのでは…。
ちょっと、寂しいですよね。

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