4月、新学期。
中高一貫の天照館高校に、他校からの転入生が来ることになった。
異例中の異例の措置だが、それを推挙したのは我らが総代 九条 綾人様である。
さすがに郷の長老衆にも一目置かれる総代の肝煎りということで、オレも伽月もどんな人が来るのかと興味津々だった。
でも、新学期早々に行われる『精神鍛錬の行』の事を考えると、お気の毒としか言えないのだが。
石見教官に連れられてきたその注目の彼は、榊原 拓実という、人当たりの良さそうな穏やかな印象の少年。
総代がどうしても…と言うぐらいの人物だから、とてつもない猛者なのではと内心不安もあったが、それは無用のようだ。
彼の天照案内人にありがたくも任命されたオレは、さっそく放課後に彼を連れて校内を散策することにした。
その途中に立ち寄った、生徒会自治執行部室。
開いていた扉越しに、九条総代が険しい表情で書類に目を通している姿が見える。
長い前髪をかきあげる仕草、他の執行委員に指示を出す視線、何もかも自分とは遠く離れた存在にしか映らない。
壮行の宴の時、声をかけてくれたのは伽月の近くにいたから…それだけなんだろうな。
そう考えると、浮かれていた自分が虚しく思えた。
ちょっとだけブルーになってるオレの横で、そんなことは知る由も無い拓実が声をあげる。
「あれ…あの人?…九条さーん!」
「さ、榊原君、あの、ちょっと…!」
その拓実の声に総代は書類から視線を外し、オレ達の姿を見つけると真剣な表情から一転、笑顔を浮かべて席を立った。
「おぉ、拓実じゃないか…こちらから顔を出そうと思ってたんだが…すまん。」
「いえ、こちらこそ、ご挨拶が遅れまして…。」
普通に会話を交わす2人の間に入りきれなくて1歩引いていたオレは、その思いがけない言葉に自分の耳を疑った。
「実は今、伊波さんに学内を案内してもらっているところなんです。」
「そうか、それはよかった。飛鳥、拓実のこと、頼んだぞ!」
「あ…は、はいっ!大丈夫です!」
「はははっ、そうか。お前に任せておけば大丈夫だな!」
そう言って、からからと笑う。
オレのこと、覚えてたんだ…さっきのブルーな気分もどこへやら、その事実だけで充分だった。
『精神鍛錬の行』
それは、3人1組で規定の場に赴き、与えられた課題をクリアする事による、精神鍛錬を目的とした修養。
オレは伽月と拓実の3人でまわることになった…まぁ、伽月によって、強引に…だったのだが。
いつものように暴走する伽月に、オレと拓実は最初っから振り回されていた。
思えば、昨夜の天魔との遭遇だって、伽月の暴走から始まったことだし。
でも、そのことで拓実の隠された能力を知った。
力を見せたのはオレ達が初めて、ということだったけど、総代は最初から見抜いていたのかもしれない。
だから、長老衆にねじ込んででも天照館に呼んだんだろう。
総代が認めたる人…伽月は武術に関しては並外れた実力者だし、拓実だってそんなすごい能力を持っている。
オレは…この学園で武術や験力の修養はしてるけどそれも多分人並みで、一人だけ取り残された気分になった。
何だか、おまけみたいだ…。
伽月を追いかけて、やっと探し出した規定の場。辿り着いたのは、昇竜の滝。
その洞窟の奥へ進むと、そこに待ち受けていたのは…!
「なんの冗談だよ、総代!」
「俺は本気だよ、伽月。お前達の内に秘めている魂の化身、魂神を引き出すために…それでは、参る!」
冗談ではなく、活刀 楓を構える総代からは、確かに殺気にも似た気が感じられた。
総代は、本気…このままでは、あの刀で一刀両断されそうだ。
総代ほどの実力者なら、痛みを感じる事も無く一瞬であの世行きにもなりかねない。
そんなのは、嫌だ!いくら総代でも、オレは負けたくない!
古くから家に伝わる、歴道ノ霊宝と呼ばれる小刀。それを握る手に汗が滲む。
せめて、一太刀…やるしかないだろっ!
「よしっ!そこまで!」
総代の声が響いた。
結局、3人がかりでやっと総代に一太刀浴びせただけだった。
総代は殺気だけでオレ達を圧倒し、太刀筋は相当手加減していたに違いない。
一体、何を考えてこんなこと…。
それはこの後、執行部室に呼び出されたことで明らかになる。
「やはり、俺の目に狂いは無かっただろう?」
そう、自慢げに微笑む総代の横で、結奈が静かに頷いている。
「試すようなマネをして、すまなかった。今回の『行』の場を借りて、お前達の力を見せてもらったんだ。」
それから、鎮守人の役割、この郷が特殊な地であること、裏の執行部の存在を説明してくれた。
オレは、初めて聞かされたその事実に、戸惑っていた。
執行部に入部すると言う事は、将来の鎮守人候補として選ばれたという事らしい。
執行部なんて面倒だ、と入部を渋る伽月に、総代からとどめの一言が告げられる。
「聞いてるぞ、伽月、飛鳥…。無断外出違反ねぇ…それは、よくないなぁ。退学…良くて無期停学ってところかな…。」
意地の悪い笑顔で、ワザとらしい言い方をする総代に、伽月は当然食って掛かる。
「下手な芝居を…まんまとハメタくせにっ!」
「はははっ、人聞きの悪い…そういうのを逆ギレって言うんだぞ!」
飾らない笑顔でそれも難なくかわす総代に、絶対にかなわないと思った。
その後、結奈からそっと聞かされた言葉に、オレは一層戸惑う事になる。
「伽月さん、伊波君、そして榊原君。総代は以前からあなた達に可能性を感じておられました。」
総代が、オレにも可能性を…おまけじゃ、ないんだ。
オレはどこまでそれに応えられるだろうか…。
「執行部に…俺に、お前達の力を貸して欲しい…。お前達が活躍してくれる事、期待している。」
その真剣な眼差しを向けられて、断るなんてできないだろう。
それよりも、総代の期待に応えたい…その気持ちの方が強かった。
晴れて生徒会自治執行部員として迎えられたオレ達。
桜舞う麗らかな春の香に包まれて、オレの新しい生活が始まろうとしていた。
END
<2004/7/4>
管理人の転生学園プレイ記…なんでしょうか?
飛鳥のつぶやきは、全て私のつぶやきです(笑)
ちょっと違うのは、綾人様に攻撃する時、
毎度毎度、ごめんなさいしてたことですかね。
総代を攻撃するなんて、罪悪感いっぱいで…。
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