ここ連日、表向きには執行部の森林ボランティアと称して、日夜稽古を強いられている新人執行部の3人。
石見教官も、彼等が裏の執行部として入部した事を知っているので、ちょっとした居眠りとかは公務疲れということで
多めに見てくれるようだったが、今日の伽月の1現目からの居眠りはひどすぎたらしく、職員室行きが決定していた。
稽古も休みの午前授業の日、教官に捕まってしまった伽月の叫びも虚しく、拓実と飛鳥はさっさと下校。
書院に寄るという拓実と別れ、何をしようかと思いながら校庭を歩いている飛鳥を、後ろから呼び止める声がする。
「伊波君、今帰りですか?街で気晴らしでも…と思ったのですが、御一緒にどうですか?」
「あ…別に用も無いから、いいですよ。」
結奈みたいな優等生でも、気晴らしなんてするんだ…と、飛鳥はへんなところに感心していた。
そこへ、教官から開放された伽月が駆け寄ってくる。
「待てよ〜飛鳥…っと、あれ?結奈じゃん。今日は総代は一緒じゃないの?」
「いつも一緒というわけではないですよ。どちらかといえば、伽月さんと伊波君の方が仲良くらして…。」
「飛鳥は、あたしがいないと寂しがるからさぁ、なっ!」
2人の会話を聞きながら、結奈の隣をうかがった。
そう言えば、飛鳥が知る限りそこにはいつも総代の姿があった気がする。
そうか…今日は、いないんだ、と、その空間にいない彼の姿を浮かべた。
「…私達も、行きましょうか。」
今日はたくさん寝たから体を動かしたい、と走り去っていく伽月を見送り、2人は校門をくぐった。
街へ行く途中、不動庵で茶会の時に飾る花を貰った。
両手一杯に花を抱えて、結奈は嬉しそうに微笑んでいる。
そのまま奥津小路や、興和苑を2人で散策してまわった。
結奈は見かけによらず話好きのようで、その話題は全て九条総代の事。
花に囲まれて、笑顔で九条の事を話す結奈を、微笑ましく思った。
それと同時に、ここまで思われている九条のことも、考えていた。
この場にいなくても、その存在はこれほどまでに大きい。
「結奈さんって、本当に綾人さんの事が好きなんですね。」
声に出してしまった飛鳥の言葉に、結奈は耳まで真っ赤に染めて手にした花の中に顔を埋めた。
その仕草が女の子らしくて、こういうのを『乙女の恥じらい』って言うのかな?なんて、柄にも無く考える。
ふと、幼馴染の姿が頭の中をよぎったが、あいつは違うよな、と妙に納得してしまった。
ゆっくりと沈んでいく陽が、郷全体を朱に染めていく。
寮の門限もあり、そろそろ戻ろうと小路に差し掛かった所で、2人を呼ぶ声がした。
「よぉ、やっぱり飛鳥と結か…。ふ〜ん、なるほどねぇ…。」
「あ、綾人様!何を納得されてるんですか!」
2人を見比べ、口元に手をあてて意味深に笑うのは、先程話題の九条総代。
真っ赤になって反論する結奈の隣に立っている総代を見て、やっぱりそこに在るのがしっくりくるなぁ、と飛鳥は思っていた。
「郷司のところの花だな…。今度の…茶会用にか……。」
「綾人様!また、抜け出す算段を考えてらっしゃいますね…。次回こそ、参加してくださらないと……!」
「人聞きの悪い事を言うなよ、結。…それより、なかなか見事に咲いているじゃないか…。」
結奈が抱えている花束の中から数本引き抜き、芳香を楽しむように瞼を閉じて花を揺らす。
多分それは、結奈の話を誤魔化すためなのだろうが、その仕草があまりにも様になっていたので、つい言葉をかけてしまった。
「綾人さんと花って構図も、似合ってますよね。」
…………。
九条と結奈の視線が、飛鳥に集中する。
それから結奈は、ゆっくりと九条の方に視線を移し、にっこり微笑んだ。
「本当に、お似合いですよ…綾人様。」
その結奈の言葉に、花を握り締めたまま九条は少し俯いて…。
「ま…まぁ、俺はこの花の引き立て役にすぎないがな…。もう寮の門限だろう…ばれるなよ。」
「綾人様は…?」
「俺はもう少し、雑事が残っているから。先に帰宅してくれ。じゃあな。」
俯きがちにそれだけ言うと、九条は足早に立ち去って行った。
その表情は窺い知れない。
「…もしかして……照れて…る?」
「さぁ、どうでしょう。」
飛鳥の疑問に、結奈は含みを帯びた笑みで答えた。
花を手に恥らう総代…それもある種の『恥らうなんとか』
って、言うんだろうか……?
飛鳥の中で『花と恥らう』=『乙女』という公式が出来上がったのかどうかは定かではない。
END
<2004/8/18>
ゲーム内容とは、別物ということで…(^_^;)
総代は、こんな事で照れるはずないですよね。
「そうだろ?」とか言いそうだし(笑)
しいてあげれば「お前の口から、そんなことを…。」という
照れでしょうか?
結奈嬢が乙女かどうかもまた別の話。(強い娘だし…。)
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