「お〜わったぁ!な、今日、奥津小路寄ってくだろ?」
授業が終わり、お役目の通達もない放課後。
終業のチャイムで飛び起きた伽月は、さっそく飛鳥の元へと駆け寄った。
「よっしゃ!それのった!」
真っ先に賛同したのは、晃。
そうなると当然、飛鳥もメンバーに含まれているということになる。
「なぁ、マコっちゃんも行くでしょ?」
伽月は、静かに帰り支度をしている誠にも声をかけた。
だが、誠は残念そうな顔をして伽月の誘いを断った。
「いえ、せっかくですが、今日は那須乃さんの買い物にお供しなければならないので…。」
「えーっ、いいじゃーん!今日ぐらい、那須乃なんかほっとこうよー!」
あんまりな伽月の言い分に、誠は苦笑する。
「今日、お饅頭半額の日なんだよー!みんなで食べに行こうよ〜!」
「あぁ、それでしたら僕達も買いに行きますよ。」
今日は奥津小路のお饅頭が半額の日で、少ない小遣いをどうにかやりくりする学生(伽月)が心待ちにしていた日である。
どうせなら大勢で賑やかに食べたいと、伽月は思っていた。
「はぁ、しょうがない…今日は特別、那須乃付きでいいからさ!一緒に食べに行こうよ!」
「あのぉ…それが……。」
誠は言いにくそうに、言葉を濁している。
そこへ…。
「若林!何をぐずぐずしているのです!…まったく、私を待たせるなど、言語道断ですわ!」
「あっ、那須乃さん!すいません…すぐに行きますので…。」
あたふたと教科書をカバンに詰め込み、誠は那須乃の元へと走っていった。
「どうして、この私が!こんな所まで出向いて来なければならないなんて!」
「じゃあ皆さん、すいません…また、のちほど!」
そう言い残して、2人は教室を出て行った。
「ワカも、苦労しとるんやなぁ…。」
涙を拭う仕草で晃が呟いた言葉に、飛鳥も同意するしか無かった。
伽月と晃に引きずられるように、飛鳥は奥津小路に来ていた。
お目当てのお饅頭屋は、学生達で賑わっている。
「もぉ〜!出遅れちゃったじゃない!さ、行くよぉ!」
気合入りまくりの伽月は、意気揚揚と人だかりの中へ飛び込んでいった。
そこに遅れて、晃と飛鳥も入っていく。
揉みくちゃになりながら、それでも自分の食べる分は確保していた。
これも、日頃の鍛錬の賜物なんだろうか?
とりあえずご満悦の伽月が、一つ目のお饅頭にかぶりつこうとした時、どこからとも無く高らかな笑い声が…。
「おーっほっほっほっ、見苦しいですわ、一之瀬伽月!」
「皆さん…どうも……。」
勝ち誇ったように口元に手を当てて笑う那須乃と、隣で申し訳なさそうに佇む誠。
誠の手には、お饅頭の袋が抱えられている。
「まったく、我先にと…あさましいですわ。それに、こんな所で食すなんて、意地汚い…。これだから”俗の者”は…。」
「なんだとぉ!そういうあんただって、ちゃっかり買ってんじゃん!」
「私は、自宅でゆっくりいただきますの。あなたのように、公衆の面前で大口開けるなんて、はしたないマネはしませんわ。」
伽月と那須乃の間で、バチバチと音を立てて火花が散っているのが見える。
今しも、験力が発動するかというそのとき!
「よぉ、お前達。どうしたんだ?お揃いで…。」
にこやかな笑顔で声をかける彼は、九条綾人。
天照館高校 総代。九条家 宗家。数十年に一人と言われる神子。
様々な肩書きをもっているが、本人曰く、いたって普通のいたいけな青少年なのだそうだ。
九条の横には、いつものように結奈がスタンバイ中である。
「楽しそうじゃないか。」
(火花バチバチなんですけど…。)
「俺も、いれろよ。」
(って、参戦ですか!綾人さん!)
なんて、飛鳥の心の声もお構いなしに、伽月と那須乃の間に割って入る。
それはそれで、火花も鎮火したという事で…まさか、これも計算のうちというのなら、さすが九条綾人、食えない男である。
さすがの那須乃も九条にはかなわないらしく、戦闘終了となった。
功労者は当然、九条綾人。LEVELアップである。
あらためて、ここに揃った執行部員達を見渡す九条総代。
飛鳥や伽月の手元に握られているお饅頭に気付き、ポンと手を打った。
「あぁ、そうか…今日は半額の日か…。」
だが、時すでに遅く、本日の販売は終了という張り紙が、虚しく風になびく。
「しょうがない…飛鳥、一口味見させろよ。」
九条はそう言うと、飛鳥がかじったお饅頭を一口食べた。
「あーーっ!」(by 伽月)
「あっちゃ〜!」(by 晃)
「あぁっ!」(by 誠)
「御前!なんてこと!」(by 那須乃)
「あ、綾人さまっ!」(by 結奈)
5人が同時に叫んでいた。
その理由は人それぞれなのだが、特に那須乃の叫びには、怒りが込められている。
「帰宅途中の公での飲食は、校則で禁じられているはずです!自らがそれに背くなど、総代としての資質を疑いますわ!」
「これくらい、いいじゃないか…頭が固いぞ、美沙紀。」
「総代が、そういう甘いお考えだから、下の者が調子にのるのです!秩序を乱してしまうのです!」
頬を紅潮させて一気にまくしたてる美沙紀に、九条は困惑していた表情を和らげた。
「お前が、ちゃんと考えてくれているのは、わかるよ。だがな、もっと力を抜いてみろ。
今、楽しいと思えることをしておくのも、学生としての本分だと思うがな。」
「………まったく…そんなことくらい、私にだってわかりますわ……。」
九条の言葉に含まれている意味は、執行部の者にはより深く感じとることができるだろう。
天魔との闘いに明け暮れる彼等にとって、学生としての束の間の時間。
さっきまでの勢いも幾分落ち着いて、那須乃は俯いてしまった。
「俺はこういう男だからね、お前の支えを頼りにしているさ。それに、お前も結構、好きだろ?こういうの…。」
「……!もう、よろしいですわ!行きますよ、若林!」
「は、はいっ!皆さん、では、また…。」
照れているのか、呆れているのか…那須乃は踵を返してすたすたと行ってしまった。
2人のやり取りを心配そうに見ていた誠が、急いでその後を追った。
「真面目だからなぁ、美沙紀は…。もう少し、気を抜いていいのにな。」
後姿を見送りながら、九条が呟いた。
伽月達はというと、お饅頭を食べながら事の顛末を見届けていた。
結奈も伽月のおすそ分けをちゃっかりいただいてたりする。
自分と九条のかじりかけのお饅頭をじっと眺めていた飛鳥が遠慮がちにポツリと呟いた。
「綾人さん…俺、一口かじってたんですけど…。」
「いいじゃないか、一口くらい…。細かい事は、気にするな。器が小さいぞ、飛鳥。」
(いや、そうじゃなくてね……。)
わざとなのか、素なのかわからない九条の返事に、飛鳥は心の中で反論していた。
「おそっ!今頃かいっ!」
すかさず、晃の突っ込みが入る。
食べてしまっていいものか悩みの種のお饅頭を前に、飛鳥は途方に暮れていた。
END
<2004/9/5>
いや、ただ、飛鳥のお饅頭を、
総代が横からつまみ食い…って感じに
したかっただけなんですが。
つくづく、短くまとめられない
自分の文章力の無さに呆れる…。
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