「なんや、なんや〜、しけっとんなぁ〜。梅雨前線発生中かいな〜。…なぁ、和馬く〜ん?」
「…うっせ!構うな、アホ!」
「おぉっ!やっと、つっこみの真髄を会得したんか、自分!いやぁ〜、感心感心。」
5時限目が終わり、授業中からずっと机に伏せていた和馬の横で感心しきりの彼は、同じクラスの姫条まどか。
ただの軽口に聞こえるがこれは彼なりの思いやりで、昼休みに教室に戻ってきた時から様子がおかしい和馬を心配していたのだった。
和馬にもそれはわかっていたが、今はそれにノッて馬鹿騒ぎする気になれなかった。
「なぁ、和馬?みずくさいやんか、なんかあったんやったら、話ぐらい聞いてやっから…。」
「……なんでも、ねえよ…。ほら、先公くるぞ。」
そう言いながら、席を立つ。
「お前は、どうするん?」
「調子悪ぃんで、保健室で昼寝…んじゃ、よろしく!」
そのまま教室を出て行った。
「素直じゃ、ないねぇ…。」
残されたまどかは、首をすくめてため息をこぼした。
保健室の扉を開けると、消毒薬の匂いが鼻をついた。
先生は留守らしく、シンと静まり返っている。
空いているベットに倒れこみ、カーテンを引いた。
仰向けに転がって、目の上で腕を組むと、真っ暗な中に光の余韻がチカチカと瞬く。
――何やってんだ…俺…。
まさか、こんなことで自分の気持ちに気がつくなんて。
今まであんまり近すぎて、考えた事無かったしな。
あいつが誰かの隣で笑う姿を想像して、また落ち込んだ。
――応援してっから、さ。
俺は笑って、そう言ったんだ。
無理矢理作った笑顔は、さぞ滑稽なツラだったんだろうな。
守村は、いい奴だ。
頭も良いし、気が利くし、ドジなあいつにはピッタリじゃねえか。
俺が自分で決めたんだ。
一度口に出した事を、いまさら撤回なんてできねえって。
「……くん、す…かく…鈴鹿くん!」
遠くから呼ばれる声で、和馬は目を覚ました。
いつの間にか、マジで寝込んでいたらしい。
「鈴鹿くん、もう6時限目終わったよ。大丈夫?部活どうするの?」
「わかってる、って…うわぁっ!なんで、お前がいるんだよっ!」
自分を覗き込む顔が目の前に迫って、おもわず叫び声をあげる。
そこにいたのは、和馬の悩みの元凶である、橋本あきらだった。
「そんなに驚かなくたって、いいじゃない。失礼だねえ!」
腰に手を当てて、私は怒ってます!って顔で頬を膨らまして、そんな仕草や表情はいつも見てきたはずなのに、
なんでこんなに意識してしまうんだろう。
「なんで、お前がいるんだって、聞いてんの!」
「姫条くんが、鈴鹿くんが保健室に行ったって言ってたって、奈津実ちゃんから聞いたから。」
「はぁ?なんか、訳わかんねえ…ま、いいや。起こしてくれて、サンキュな!」
なるべく顔を合わせない様にして、保健室から出て行こうとした。
背中にあいつの声がかかる。
「今度の日曜の試合、応援に行くから、がんばってね!」
「おう!」
背中を向けたまま、手を振った。
あぁ、ホントに、お前の天然が、もどかしい。
日曜日、練習試合ではあるが、次の大会の前哨戦とも言える重要な試合だった。
そんな大事な試合だというのに、俺は実に絶不調。
その原因は、ギャラリーで大きな声をあげている彼女と、その隣で困った顔してる彼。
「こらー!鈴鹿くん!動き悪いぞー!」
昨日、俺は守村に言った。
「よぉ、明日さ、練習試合があんだけどよ、見にこねえか?…あいつも、来るってさ。」
「鈴鹿くん…?」
守村は、びっくりしてたみたいだけど、一応、応援してやるって言ったからな。
機会を作ってやるのも、仕事だろ……そうさ、仕事なんだ…。
結局、試合には辛うじて勝つことは出来たけど、俺は最後まで不調なまま。
コーチから目一杯小言をくらってやっと開放された頃、体育館の出口にあいつ等は立っていた。
シャワーを浴びるため、あいつ等の横を何も言わずに通り過ぎようとすると、案の定彼女が声をかける。
「鈴鹿くん、今日は絶不調だね。どうしたの?調子悪い?」
「まぁ、な…こんな時も、あんだろ?」
「……。」
守村は、黙ったままだった。
「守村!もう、遅いからよ、こいつ送ってやってくれよ!」
「え?鈴鹿くんも、もう帰るんでしょ?一緒に帰ろうよ。」
彼女は、当然一緒に帰るものだと思って待っていたらしく、俺の言葉に驚いた顔をする。
その顔はすぐに、不安げなものに変わった。
「鈴鹿くん、一人で無理しちゃだめだよ……。」
「…あぁーーっ、もう!いいから、帰れよ、お前等!ほら、守村、早くこいつ連れて行けって!」
本当に…もどかしい…守村の事も、考えろ!
「行きましょう、あきらさん。送りますから…。」
乱暴に叫んだ俺にちょっと怯えたあいつが、守村に連れられて帰っていった。
あんな顔、させたいわけじゃないんだ…あいつにも…守村にも…。
冷たい水をかぶって頭を冷やした…やっぱ…つれーな。
「鈴鹿くん、今日は部活は休みでしたよね。ちょっと、付き合ってもらえませんか?」
あの試合の日から数日後、あいつとも、守村とも、少し距離を置いていた俺は、突然守村から声を掛けられてうろたえていた。
守村は、いつも通りの落ち着いた、でも少し怒りが込められているような、そんな複雑な表情をしていた。
連れて来られたのは、ゲームセンター。
「勝負をしましょう。」
実は、守村とはたまにここで対戦ゲームをしていて、対戦成績は…まぁ、7割ほど勝ってはいたが、どうも守村は本気でやって
ないらしく、いつもさらっとかわされてしまう。
だが今日はなんだか、いつもの守村とは感じが違った。
いつになく真剣な眼差しに、俺もコントローラーを握る手に力が入る。
コインを投入し、派手な音楽が鳴り響いた。
画面の中のキャラクター達が、激しく拳をぶつけ合っている。
俺は、忙しなくコントローラーを操作していた。
そこへ、余裕なのか守村が話し掛ける。
「鈴鹿くん、僕等は友達ですよね。」
「な、なんだよ…急に……。」
「いえ…少なくとも、僕はそう思っています。だから…あなたの煮え切らない態度が許せないんです。」
「どういう、ことだよ!」
「あの日の彼女…ずっと、沈んでました。あなたに怒鳴られた事もそうですが、あなたを一人にしてしまったと…泣くんです。」
「………!」
「そして、僕に謝るんです。ごめんね、って。こんなとこ、見せてごめんね、って!無理に笑うんですよ!」
自分の操作するキャラクターが、敵の大技で吹き飛ばされる。
画面に、大きく【YOU LOSE!】の文字が躍る。
続いて【TO BE CONTINUE】と続きをうながす言葉がカウントダウンと共に点滅している。
「守村…俺等は、ダチだよな。」
「…そうですね。」
「スマネエ…俺、お前の事、応援できねえ!」
「もう1ROUND、いきますか?」
「俺が勝ったら…あいつを迎えに行っていいか?」
「僕に、勝てたら、ですね…本気で行きますよ!」
カウント0寸前に、コインを入れる。
【LEADY GO!】
同時に飛び出した。
絶対に、負けられない…そして、あいつを、迎えに行く!
END
<2004/8/8>
君のためにエールを〜和馬SIDEです。
本当は、最初の話だけで終わるはず…
だったのですが、なんか中途半端で。
続きを書いてしまいました(汗)
あぁ、ごめんなさい、守村君…。
和馬も本当はこんなにガマンする人じゃ
ないかもしれない…突っ込んでいきそうだし。
このコンビって、もともとゲーセンイベントで、
思いついたコンビだったんだと、再発見でした。
君のためにエールを へ
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