君の側で 1



4月、はばたき学園高等部 入学式。
中等部からの繰り上がりがほとんどで、あんまり変わり映えしないメンバーの中、ちらほらと外部入学の見知らぬ顔も見える。
鈴鹿和馬もその繰り上がりメンバーで、退屈な式が早く終わらないかと欠伸をかみ殺しながら、理事長の挨拶なんかを聞き流していた。
 「新入生、全員起立!」
体育館中に凛と響き渡る声に眠気も覚めて、仕方なしに立ち上がった和馬の視線に飛び込んできたのが、見知らぬ彼女だった。

女子の列の中で、一人だけ飛びぬけた身長の女生徒がいる。
有沢も結構高い方だと思うけど、ありゃそれより高いな。
バスケ選手としては高い方ではない自分の身長に、少しコンプレックスを持っている俺は、背の高い女が苦手だ。
まぁ、勝手な理由で嫌われる彼女達には迷惑な話だろうが。
人より高い視線で真っ直ぐに前を見詰めている彼女から、俺はしばらく目が離せなかった。
 「でかい女…。」
それが彼女の第一印象。

入学式から、数日が経っていた。
部活が休みだったその日、俺はいつものように公園の広場で遊んでいる小学生達にバスケを教えていた。
マジでパスを出したボールを子供が受けそこねて、道路の方に飛び、縁石に当たりイレギュラーにバウンドした。
そこへ歩いてくる人影が見えて…。
 「あっ、やべっ!」
思わず叫んだが間に合わず、見事にその人物の頬にヒットした。
見慣れた制服が、その場にうずくまっている。
セーラーカラーから、当然女子だというのがわかる。
(面倒な事になったな…。ギャーギャー言われちまうかなぁ。)
内心そう思いながら、それでも心配な事に変わりは無くて。
 「いっ…たぁ…。」
 「おい…悪かったな…。大丈夫か?」
 「うん…私もボケッとしてたから……大丈夫。」
そう言って、すっと立ち上がる。
(こいつ…あの時の…。)
目線が同じくらいの位置にあり、俺の顔を直視する瞳に柄にも無く緊張する。
そんな事を悟られるのも癪だったし、苦手意識も手伝って少しそっけない言葉を返していた。
 「じゃ、おあいこって事で…。」
 「え、えー、ちょっと…。」
頬は赤く腫れ、涙目になって反論しようとする彼女の表情がなんだか憎めなくて、嫌味を言う気も失せた。
なんか、外見のイメージと違う…そんな気がしていた。
 「はははっ、うっそだよ。ほんと、悪い。帰ったら、ちゃんと冷やせよ。腫れるぞ。」
 「ん、ありがと…え、っと……。」
 「はば学だろ?俺も…って、見りゃわかるか。鈴鹿和馬、バスケ部だ。」
 「ありがと、鈴鹿くん。私、1年、橋本あきら。よろしくっ!」
あきらは、足元にあったボールを器用に弾ませて、俺にパスをよこした。
そのボールの扱いや、パスさばきが絶妙で、思わず感心してしまう。
後ろから、子供達が急かしている声が聞こえてきた。
 「俺、あいつら待たしてっから、行くわ。じゃな。」
 「うん。またね。」
子供達の方へ駆け出す俺と、家へと向かうあいつ。
苦手なタイプの女だと思ってたけど、やけにすんなり言葉を交わすことができたのは、我ながらビックリだ。
明日、一応声かけておこう。
ボールぶつけちまった責任があるからな…ただ、それだけ、だ。

翌日、俺は隣のクラスに顔を出した。
理由はある。昨日のことがあるから、様子を見に来ただけだ。
入り口で中を見渡したが、あいつの姿は見えなかった。
 「何してるの?鈴鹿くん。」
 「うわぁっ、こ、紺野!」
 「…あれ?すず…か…くん?」
男バスのマネージャーである紺野に後ろからいきなり声をかけられて、俺は叫び声を上げていた。
隣に立っていたのは、まだ頬に少し赤みを残しているあきらだった。
うろたえて何も言えなくなった俺に、あきらは自分の頬に手を当てて苦笑いする。
 「あ、もしかして気にしてくれたんだ…。あれからすぐ冷やしたんだけど、やっぱまだ取れなくて…
  でも、痛みは無いから大丈夫だよ。わざわざ、ありがとね。」
 「お、おぅ…それなら、いいんだけどよ…。」
やっぱり、苦手だと思う。
女子の視線を、自分と同じ高さから受けることに抵抗があった。
何とも無いっていうなら、もういいか…ここにいる理由が無くなったことで、急に居心地が悪くなる。
自分のクラスに戻ろうと思ったとき、背後から声が聞こえた。
それは俺の頭上を飛び越えて、目の前のあきらに向けられた声だ。
 「橋本…どうした?…ケンカか?」
俺の横をすり抜けて、あきらの横に立つ男…あきらより高い身長、整った顔立ち、緑がかった瞳、立居振舞がいちいち決まる男… モデルもやってるという葉月珪だった。
あきらと俺の顔を見比べて、何か問い詰めてる感じだったが、あきらに一笑されて安堵の息を漏らしている。
それまであきらの横にいた紺野が、俺のところへ来て小声で囁いた。
 「なんか、2人とも背が高いから、お似合いだよね。…鈴鹿くん?」
紺野の言葉を、どこか遠くに感じていた。
そして言われるまでもなく、俺はその2人がお似合いだと思い、少し悔しかった。
怪訝そうに俺を伺う紺野を残して、俺は自分のクラスへと足を運ぶ。
一瞬、葉月と目が合ったような気がして、その視線に攻撃的なものを感じたが、覚えが無いんで思いっきり無視してやった。
始業を告げるチャイムが鳴り、あたふたと教室に駆け込む生徒達と一緒にあきらと葉月の姿も消えた。
2人が並ぶ姿が瞳の奥に残されたまま、小さな欠片が胸に残り微かな傷をつける。
それが何を意味するものか、俺は知らない。


END

<2004/8/29>

多分、続きます。
ゲームの主人公と設定がまるで違います。
和馬も別人君みたいだし。
このまま和馬視点で続くと思われる…。
でも、イベント事にすべて3年分だと、
えらい長くなりますね。
いや、その前に、オイラがそこまで続けるか、
その方が問題かも…(苦笑)

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