部活を終えての帰り道、すっかり陽が落ちてしまった空には半分ほどの月と、それを囲んで星が瞬いている。
見下ろすはばたき市の街並が、イルミネーションで飾り付けられキラキラと輝いている。
そんな時期…あと数日で、俺はひとつ、大人へと近付く。


予測不能なB・D



毎年の事ながら、俺は自分の誕生日がちょっと嬉しい。
早く大人って奴になって、本場で活躍したいよなぁ!
誕生日がくるってのは、それに近付いているってことだからさ。
大人になるって実感はあんまりないけど、それでもひとつずつ着実に進んでいるって気はするし。

 「待って!鈴鹿くんっ、今、帰り?」

聞き覚えのある声に振り向くと、玄関から走ってくる姿が月の明りに浮かぶ。
はばたき学園は中等部と高等部を備えた私立の学校で、俺を含めてほとんどの生徒は中等部からの繰り上がり。
で、あいつは数少ない外部入学の生徒だから、4月からのつきあいになる。
まだそれほどの時間はたってないけど、何かと声をかけられたり…一緒に出かけたりもしてる…。
気軽に話せる仲のいい友達ってところ、なんだろうな…あいつにとっても。
でも、手芸部にいるあいつが、こんな時間まで残ってるなんて珍しいな。

 「一緒に帰ろう!」
 「あぁ、そうだな。」

他愛の無い話をしながら、街を見下ろす坂道を一緒に歩く。
これって、結構…なんか…あれ、じゃないか?

 「そういえば、鈴鹿くんの誕生日って、いつ?確か、もうすぐ…だったよね?」
 「お、おぅ!そうだけど…。」

いきなりの話題に、心臓が跳ね上がる。

 「で、いつ?」

小柄なあいつが、上目遣いに俺を見上げる。
なんで、こんなに緊張すんだよ、俺!

 「…12月4日……だけど…。」
 「そっか!本当に、もうすぐだね!」

自分のことみたいに、嬉しそうに笑うあいつ。
そんな笑顔されたら…期待しちまうじゃねえか…。
…いや!そんなこと、ありえねえし!
第一、ただのダチなんだから、こんなに気にすることねえじゃん!
普通の、世間話…だよな。
そんなこと、俺が考えてるなんて知らないあいつは、もう街のイルミネーションに瞳を奪われている。
んで、そのまま、別れ道。

 「じゃ、またね!」
 「おぉ、じゃな!」

後姿を眺めながら、俺は深呼吸をひとつ。
火照った顔に、冷たい風が心地いい。



 「おはよーさん、和馬くん。」

席に着く早々、まどかが声をかけてくる。
こいつも外部組だけど、その人懐っこい笑顔にすぐ気が合い、一緒につるむ様になってた。
でも、まどかがこういう話し方をする時は、何かからかおうと企んでいる時だ。
ちょっと、気ぃしめてないとな。

 「もうすぐ誕生日やろ、自分?」
 「ん?あぁ、そうだけど…。なんで知ってんだ?」

なんだ?最近、誕生日ネタ多くねえか?

 「ふふん、そんなん調査済みやって!はば学有名人の誕生日なら、み〜んな、な!」
 「なんだ、そりゃ?」
 「実は、俺な…ホンマはな……。」
 「…なんだよ…あらたまって…。」

俺を見るまどかの顔は、すごく真剣だった。
思わず息を呑んで、次の言葉を待つと…。

 「俺、実は…『林家○ー』やねん!」
 「………。」
 「なんや…突っ込みどころやろ、ここは!修行が足らんなぁ、自分…。」
 「…訳わかんねぇ。」

呆れて机にうつ伏せた俺の頭上で、まどかが話を続ける。

 「ちなみに、あの娘は○月△日が誕生日で……。」

まどかが『あの娘』と言うのは、多分あいつのことだ。
俺の肩が、ピクンと反応する。

 「あ、アカン!ウソ教えて、抜け駆けするっちゅう手もあったんや!しもた〜!」
 「………。」
 「根が正直モンやからなぁ、俺って…。つい、口が滑ってもうたわ。」
 「………。」

顔を上げてまどかを見ると、横目でこっちを見ながら口端を上げる。
やられた!とは思ったけど、その話も気になるし…。

 「…それ、マジかよ?」
 「それに、ちょーっと小耳にはさんだんやけど、誰かさんのプレゼント、用意してるらしいしなぁ、あの娘…。」
 「プレゼント…?」
 「12月4日までに…とか、言ぅとったなぁ。そう言うたら、自分もその日が誕生日やないか?」
 「な!な・な・な・何、言ってんだよ!そんなの、偶然だろっ!」

何でお前がそんなこと知ってるんだよ!本当に偶然その日が誕生日の別の奴かもしれないし、俺のだとは限らない。

 「まぁ、ええわ。でも、そいつも悪い奴っちゃなぁ。貰うもんもろうても、あの娘の誕生日、過ぎてもうてんし…。」

そうだ、まどかの言う事が本当なら、あいつの誕生日はもうとっくに過ぎてる。
自惚れかもしれないけど、もしあいつが用意してるのが俺のだったら…。
知らなかったとはいえ、俺、あいつにやってねえし…。
知ったからには、やっぱ、やった方がいいよな…プレゼント。

 「まどか、その話、信じるからな!」
 「失敬な奴っちゃなぁ、自分。なんや、俺がいっつも騙しとるみたいやないか。」

その日、俺は部活も早々に切り上げて街へと向かった。
あいつの喜びそうなもんって、何だろう…。
あいつへのプレゼントを考えながら、俺は自分の自惚れを信じたかった。


 「本当に、世話の焼ける奴っちゃなぁ、和馬も、あの娘も…。」
 「あんたも、どうせ世話焼くんなら、もっとわかりやすいやりかたにしたらいいのに…。」
 「何でも簡単にわかったら、おもろないやろ!それに、なんだかんだ言って、面白がっとったやないか、自分も。」
 「まぁね。」

悪戯っぽく笑うまどかの横で、奈津実が苦笑いする。
和馬とあの娘がなんとなく惹かれあっているというのを、知らないのは本人達だけで。
おまけに誕生日まで近いというのも、まったく彼等は知らなかったから。
お互いの気持ちにも気付いていない彼等にちょっとしたプレゼントを。

 「ありがたく、受け取れや、和馬…俺からのバースデープレゼントや。」

予測不能なBIRTHDAY…その日は、もうすぐ。



END


<2004/11/23>

和馬B・D記念!
1年目のB・Dぐらいですね。
月1ペースでデートしてると、大体この辺で友好状態になります。
でも、自分のB・Dで登録すると、絶対に1年目のプレゼントはありません(T_T)
和馬B・Dより、数日前なので…。
まどかとなっちんからのB・Dプレゼントになってしまいましたね。
珠ちゃんの存在を、すっかり忘れてます。
はたして、和馬はこれで幸せなのでしょうか?

【和馬生誕企画】 鈴鹿ふぇすちばる
主催者:ゲン子様(Autumn grass)

無事、終了しました!ご苦労様です!
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