あなたに伝えたいこと



最近の僕は、どこか変です。
今まで、このイベントは僕にはあまり縁の無いものだと思っていました。
女の子達が趣向を凝らした贈り物を考えているのも知っています。
中等部の頃は、部活の仲間や、同じクラスの女の子が、こんな僕にも用意してくれました。
いくら僕でも、それが「義理」だとわかってますから、僕は彼女達にお茶をご馳走するんです。
一応、それぞれの印象にあわせたハーブティーを選んで煎れてあげるのですが、これが結構好評だったりするので、 最初からこれがお目当てなのでは?って気もしたりします。
でも、喜んでいただければ僕も嬉しいですし…。
僕にとってのこのイベントは、その程度の認識しか持ってなかったのですが…。

最近の僕は、このイベントが近付くにつれて何故か落ち着きません。
どこかで期待してて、でもそんなはずは無いと落胆して。
ワクワクとガッカリを繰り返しています。
こんな気持ちは、初めてです。
どうしてこんな気持ちになるのか、何回も考えました。
何回も考えて、結局同じ答えに辿り着くんです。
僕は、あなたからのそれを、とても欲しいと思っています。
たとえ「義理」だとわかっていても、あなたから貰いたいと思ってしまいます。
僕は、なんてあつかましい事を考えているんだろう!
あなたは誰とでも仲が良くて、男友達もたくさんいます。
きっと、みんなにあげるんですね。
その中の一つでいいからと、望んでしまうんです。

入学当初、あなたは図書室で本当に困った顔をして、教科書とにらめっこしていました。
見覚えのない方だったので、外部入学なのでしょう。
きっと、氷室先生の宿題ですね。
僕にも覚えがありますから、その気持ちはわかります。
あまりに困っているようなので、僕は思い切って声をかけてみました。
するとあなたは、大きな瞳をさらに大きくして、驚いたように僕を見つめます。
その瞳に、僕は息を呑んでしまいました。
あなたは今にも零れてしまいそうなくらい、その瞳に涙をためていましたから。
思わず逸らした視線に、開かれた教科書が映りました。
それは僕のクラスのほうが先に習っていた問題で、僕も解くまでに苦労しました。
だからあなたに教えてあげる事が出来たんです。
本当に、すごい偶然でした。
あなたはとても喜んでくれて、その笑顔に僕まで嬉しくなってしまいました。
それからですね…あなたは僕を見かけると声をかけてくれて、一緒に勉強したり、一緒に帰ったり…。
休日には、遊びに誘ってくれたりもしました。
知っていますか?…僕は、あなたが近くにいてくれるだけで、とても嬉しくなってしまうんですよ。

イベント当日、女の子達は渡すチャンスを窺いながら、男の子達もいつ渡されるのかと、みんなそわそわしています。
僕も、柄にもなくドキドキしてしまって…おかしいですよね。
休み時間に女の子達が来て「放課後に部室に行っていい?」と言いつつ、包みを渡してくれました。
それは、あなたでは、ありません。
なのに僕は、放課後は部室にいました。
『僕にあげるとお茶がもらえる』という噂でも出回っているんでしょうか?
部室にはいつになく人が集まっています。
「このまま喫茶店でも開けそうだな。」なんて、鈴鹿くんや姫条くんが冷やかして行くものだから、苦笑いしてしまいます。
彼等はこの学園の有名人で、たくさん貰っているでしょうし…あなたとも仲がいいし…。
きっと、彼等はあなたから貰っているんでしょうね。
そんなこと考えてしまって、自分が嫌になりそうです。
彼等は悪くない…貰うに価する人なのだから。
でも、僕は……。

やっと人が途切れた頃、僕はため息をついていることに気が付きました。
疲れて、いるのかな…。
いろいろと考えてしまったけど、今日という時間はいつもと同じように過ぎてしまいます。
そろそろ片付けなきゃ…一人残った部室で、誰にでもなく呟いて。
ふと、入り口に誰かいるような気配がして、僕はそちらを窺いました。
そこには、今日僕が会いたかった人が…あなたが立っていて…。
 「あの…守村くん。今、大丈夫かな?」
 「え?!…あ、はいっ。」
ビックリして、声が裏返ってしまいそうで、恥ずかしいです。
 「忙しそうだったね。ずっと、人で一杯だったから…。」
 「あの…はい。ここ何年か、この日はこんな感じで…。」
 「そう…なんだ。」
あなたは、なにか言いたそうで、言いにくそうで…。
どうしたんですか?
もしかして、あなたの想いが伝わらなかった…なんて事が…?
そんなこと!
僕は、たくさんの中のひとかけらだけでもいいから、それを欲しいと願っているというのに…。
 「…どうか、しましたか?何か困った事でも…?」
僕の口から、本心が出ることはありません。
本心を隠して、優しい振りをしてしまいます。
こんな自分が、嫌になる…。
でも僕は、それ以上に嫌なんです…あなたが困った顔を見るのは辛いです。

あなたは瞳を伏せてしばらく黙ったまま、そして静かに口を開きます。
 「あの、ね…私、守村くんにと思ったんだけど、すごく貰ってるみたいで…どうしようかな、って。」
 「え?」
それは、どういう意味ですか?
あの、それって?…ダメです…僕は、勘違いしてしまいそうです。
 「でも、いつもお世話になってるし…一緒にいてくれるし…やっぱり、このままじゃ…。」
 「あの…。」
 「受け取って、くれる?」
俯いたままあなたがそっと差し出したのは、綺麗に包装された小さな包みで。
 「これって…手作り、ですか?あの…本当に、僕に…。」
 「…うん。あんまり上手じゃなくて、恥ずかしいけど…。貰ってくれると、嬉しいな。」
既製品ではない、心の込められた贈り物。
あなたは、知らないでしょう?
僕が、今どれほど喜んでいるのか。
ずっとずっと望んでいた物を、本当に手にする事ができるなんて。
あまり嬉しくて、涙が出てきそうです。

僕は、あなたに伝えたい事がたくさんあります。
今はまだ、全部伝える事はできないけど。
あなたが僕にくれるもの、ひとつひとつを大切にして、きっとあなたに伝えます。
だから、今はこれだけで…。

「ありがとうございます。あの…お茶にしませんか?僕と、一緒に…。」


END

<2005/2/13>

バレンタインは、なぜか守村くん。
和馬すきーのはずだったのに、何故?
どうやら、さっくんも好きだったようですね(^^ゞ
ラストの台詞が、彼の精一杯らしい。
文体をいつもと変えてみました、というか、
守村くんの口調だと、こんな感じになってました。
石田さんvoiceが思い浮かんでくれると、
嬉しいなぁ…なんてね(^_^;)

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