「適正値の真実 〜pH調節の意義〜」
「pH」ってご存じですか??

いきなり何?って思うかもしれませんね。金魚の飼育経験がある程度あり、こうやってインターネットで金魚のサイトを見て回っていらっしゃるくらいのみなさんでしたら、「何を今更・・・」って感じかもしれませんね。もしたとえ詳しくは知らないまでも、1度や2度は聞いたことがあるのではないでしょうか?

今回は水槽の中のpHについて考えてみたいと思います。

まず最初に、pHとは?ということから説明します(ご存じとは思いますが)。ちょっと難しい話になるかもしれませんが、用語なんかがわからなければ読み飛ばしていただいても、本筋には何ら問題ありませんので、肩肘張らず、ラクに構えて読みすすめてください。

pHというのは、一言で言うと、「水の中でイオン化している(≒簡単にいうと水に溶けている)水素イオン(H+)の濃度」を示す数字です。中学の理科の授業でも、水素イオンはH+で酸性、水酸化イオンはOH-でアルカリ性というようなニュアンスで習ったと思いますが(概ね間違いではありません)、pHというのは、このうちの水素イオンの濃度(こちらのほうが重要)を表しています。ただ、その数字が直接濃度に(反)比例しているわけではなく、濃度を表すある部分の数字を整数に指標化した数字です(pH1が1%、2が2%とかではないということ。後で具体的に書きます。)。水素イオンは水の中の様々な化学変化にとても重要な役割を果たしていますので、その濃度をこのように一般的に見やすい整数の指標値(pH)で表すことにはとても大切な意味があります。当然水素イオンの濃度が高くなれば(pH値が低くなれば)水は酸性になり、逆に水素イオンの濃度が低くなれば(pH値が高くなれば)水はアルカリ性になります(原理は難しいので省略)。

と、ここまでのお話は、金魚を飼育するにあたって絶対知らなければならないということでは無いのですが、大切なのはここからです。つい先程書きました、pHの値にどういう意味があるかということなのですが、pH値が1違うということは、1%違うなどということではなく、水素イオンの濃度が10倍も違うということなんです。さらにpH値が2違うとなれば、水素イオン濃度で100倍の開きがあるということです。pHが3違えば1000倍の濃度差があるわけですね。

金魚の「生育に適した」pHは一般的に6〜8と言われています。実際に生育可能なpH値はもう少し広範囲になるのではないかと思います。(特に酸性側では比較的平気で生きていると思います)。水素イオンの濃度で100倍以上の開きのある水に適応できるなんて、金魚の環境適応力はたいへんなものです。ただ、注意しなければならないのは、このように広い範囲のpHに適応できる金魚さんも、ゆっくりとしたpHの変化には対応できるのですが、急激なpHの変化にはめっぽう弱いことが知られています。pHショックというやつですね。

ここまでお話したところで、こんな話をしてみたいと思います。ショップの水質調整剤のコーナーでの一コマ。
  男A「俺んちの水槽、なんかやたらpHが高いんだよな〜、
     もうほとんど8に近いって感じ。やっぱマズいよな〜。」
  男B「そりゃヤバイね〜、金魚はpH7が一番いいんだぜ。
     このpH下げる薬使ってみろよ。俺んとこは逆にpH低
     すぎるから、このpHを上げる薬を買おうと思ってたと
     ころなんだ」
  男A「そっか、そんな便利な薬があるんだ〜。pHって大事ら
     しいからな。でもお前、ほんとにいろいろ知ってんな〜。」
  男B「いやいや、でも、やっぱ長年飼ってるんだから、こうい
     った薬も使いこなせないとな〜」

・・・実際、私は、こういったのに近いやりとりを聞いたことがあるのですが・・・ちょっと問題ありだと思いますね。pHについて、このような考え方を持っているこのお二人は、遅かれ早かれ、いずれpHショックで金魚さんたちを☆にしてしまうかもしれません。

たとえpHが高いとか低いといっても、普通の水を使って普通の飼い方をしている水槽で、pH6〜8の範囲をはずれることは、まず考えられません(もし少々はずれていても、それが有毒な物質によるものでなくて、しかもpHが安定しているなら問題ないと思います)。換水を激しくサボると水槽の中に硝酸塩が蓄積して酸性側に傾き、pHが5に近づいたりすることがあるかもしれませんが、これは管理方法の問題ですから論外ですね(それでも金魚さんたちは平然と生きていると思いますが)。

以前の語部でお話した「謎の商品」につながりがあるような話なのですが、つまり、上にあげた二人のように、pHという数字をあわせるだけのために、意味もわからずpH調節剤を使うということ(pHという数字そのものに囚われすぎること)は、全く意味のないことだと思います。

考えようによっては6でも8でも(もうちょっと極端に言えば5.5でも8.5でも)金魚が元気ならそれていいのではないか、と私は思います。

一般的な金魚飼育において、実際にpH調節剤を使う必要があるとすれば、たとえば「薬浴用の隔離水槽を設置」したり、「新しく金魚を購入」する場合など、とりあえず緊急に水質(pH)を合わせたいときに限るのではないかと思います(それでも調節材なんて使わなくても、慎重な水あわせでも十分対処できますけどね)。

pH調節剤を常時使わなければ維持できない水槽・・・こんなのって何かおかしくないですか?

ここで、金魚とpHにまつわるお話をもうひとつ。

某HPの掲示板で、金魚水槽に珊瑚を入れてもよいだろうか?という書き込みがあったので、私が返答したものの引用です。(一部修正)

  >金魚を含むお魚水槽では、徐々に硝酸塩というのが
  >貯まっていくのですが、これが水に溶けた状態です
  >と水が酸性になっていくという性質があります。水
  >が少々酸性あるいはアルカリ性に傾く事自体は、金
  >魚の適応性で対応できると思いますが、問題なのは
  >ず〜っと水換えをしていない水槽では水がかなり酸
  >性となっているため・・・(中略)
  >一方で珊瑚ですが、これは主成分にカルシウム分が
  >含まれるから、当然水中ではそれがすこしずつ溶け
  >出して、水を少しずつアルカリにしていくというこ
  >とはイメージ的におわかりになると思います。
  >そこで金魚水槽に珊瑚を入れておけば、水が中和さ
  >れて良いのではないかと考えてしまう人もいらっし
  >ゃるようなのですが、これはあまりオススメできな
  >いと考えます。水槽の中にpHに影響する余計な物質が何
  >も無い状態で中性なのと、逆にいろんな物質が含ま
  >れていて中性に保たれているのとでは、後者の方が
  >明らかに金魚にとって良くない状態だと思います。

と、かなり省略していますが、以上のような感じで書かせていただきました。何が言いたいか、ということなんですが、私は珊瑚を入れること自体が絶対問題だとは思っていません。それでやや高めのpHで安定するなら、そういう飼い方もあるのではないかと思います。何がいけないのかというと、硝酸塩が貯まるため水が酸性になるので、それを珊瑚を入れて中和するという考え方です。

硝酸塩で酸性になるのが問題なら、こまめに水換えするのが一番良い方法です。そもそもそんな目的で珊瑚を入れたところで、十分に中和できないかもしれないし、逆にpHが上がりすぎて中和どころではなくなってしまう可能性だってあるのです。化学反応とりわけpHって本当に微妙な世界だと思います。

それと、この書き込みには、次のような続きがあります・・・

  >極端な話ですが、料理を作っている最中に、塩を入
  >れすぎて辛くなったことをイメージしてください。
  >砂糖を入れて味を中和しようとすることもできます
  >が、塩も砂糖もたくさん入っているので、健康にも
  >悪いですよね。それなら最初から塩を少な目にして
  >おけばよかったじゃないか、と。同様に、病院で、
  >ある症状を抑えるために薬をどかどか飲ませ、その
  >副作用を抑えるためにまた別の薬をどかどか飲む。
  >薬は本当に必要な最低限の量にしておいたほうが良
  >いのは明らかですね。
  >これと同じことが水槽でも言えるのではないかと思
  >います。硝酸塩で酸性になるから珊瑚で中和すると
  >いう考えには賛成できません。

何事でもそうですが、水槽の中もシンプルが一番だと思います。その状態でpHが7から多少ずれていても、無理に矯正させようとせず、そのままで自然に飼育するほうが、飼い主にとっても楽ですし、金魚にとってもよっぽど良いに違いないと信じています。

金魚はさすがにフナの血を引いているだけあって、一部の品種を除いて、基本的には非常に強い偉大な魚だと思います。飼い主が思っているよりはよっぽど強い魚のはずです。pHという数字に踊らされて、飼い主ががちょこまか手を加えても、金魚にとっては迷惑なだけかもしれません。金魚の偉大な力を信じて、もっと気楽に金魚を飼ってみるのもいいのではないでしょうか?

(補足)同じ金魚でも、土佐金や地金、品評会目的のランチュウなどを飼う場合は、水質がかなり影響するようですので、今回の話はあてはまらないかもしれませんのでご注意を・・・。

  ・・・続く
  
語り部(かたりべ)ぷーさん