「病気を考える(後編) 〜薬漬けの治療で見失っているもの〜」
前回の続きからです。

前回、病気が頻発する水槽と病気がでない水槽があるのではないかという話しをしましたが、今回はいよいよその核心に触れてみたいと思います。

前回冒頭でお話した2つのタイプの治療法、つまり、水槽に治療薬や塩を投入するか、もしくはリセットしてしまうという方法では、確実に濾過バクテリアに大ダメージを与えることになってしまいます。バクテリアが居なくなった水槽では、アンモニア(猛毒)→亜硝酸(猛毒)→硝酸塩(ほぼ無毒)という分解がなされる(生物濾過)機能が失われますから、それまでと同じように金魚を入れて同じようにエサを与えていたのでは、水槽の中の有害な物質(アンモニアor亜硝酸)の濃度が高くなってしまいます。このような状態が続きますと、金魚は有害物質によって肉体的、精神的ストレスを受けて弱ってしまい、その結果、病原虫や細菌の寄生を許してしまいやすくなると考えられます。

また、水槽自体の微生物環境という面から考えてみても、普通なら濾過バクテリアを主体に様々な微生物がバランスが保たれた状態で存在しているはずだと思いますが、リセット後の水槽の中では、濾過バクテリアほかの各種バクテリアが激減し、水槽内の微生物バランスが崩れてしまっていると考えられないでしょうか?そういう状況下においては、微生物環境がとても不安定で、金魚に対して病原性のある菌や微生物が、増殖しやすい環境になってしまうと考えられます。これは、ちょうど何年か前のO−157による中毒事件が頻繁した状況に似ていると思います。自然な状態では様々な種類の雑菌が生存競争でしのぎを削っており、特定の病原菌が激増するということは考えられません。ところが当時を振り返ってみますと、調理場等で中途半端に殺菌ということを徹底しすぎたため、調理器具等が一端無菌の状態になり、そこへO−157等の病原性細菌が何らかの要因で入り込み、無菌状態(敵が居ない状態)で激増し、食中毒事件を起こしたということが言われています。

以上のように、リセットされバクテリアが居なくなってしまった水槽では「有毒物質による金魚の衰弱」+「特定の微生物(病原菌)の異常増殖」によって、せっかく治療した金魚が再び病気になってりまう、という結果をもたらしやすいのではないかと思います。

毎回きちんと治療して水槽も消毒しているのに、たびたび白点病(尾ぐされ病)にかかる、という方は、このような「発病」→「治療」→「水槽リセット」→「発病」という病気の無限ループにハマっている可能性があるのではないでしょうか。確かに、一度病気が発生した水槽で、薬浴やリセットをしなければ、病原虫や細菌の密度が高くなったままでは、金魚を戻してもまたすぐ病気が再発するのではないかと言われる方もいらっしゃると思います。ごもっともです。では、どうすれば解決できるのでしょうか?

ここでちょっと発想の転換をしてみてはいかがでしょうか。「病気と無縁の飼育生活を目指す」ということは、「目先の虫や菌を薬で死滅させる」ということではなく「虫や菌が多少居ても、それが金魚に寄生しないように管理する」ことだと考えてみるのです。

そのためには、「金魚が健康的に過ごしており、病原菌が金魚に勝てない状態」を目指すことが大切です。そしてそれには、「アンモニア等の有害物質の濃度が上がらない」ことと、「濾過バクテリアが十分定着して、他の微生物(病原菌)の異常繁殖を許さない」という2つのポイントを押さえた環境にしなければいけません。では具体的にどうすればよいかということなんですが、よくよく考えてみると結局、飼育の基本、イロハの部分に帰着するんですよね。

(1)できるだけ広い水槽で飼う。また金魚をたくさん入れない
過密飼育はやっぱりダメということです。狭いと同じフンの量でもアンモニア等の濃度が高くなりやすいですから。水換えを頻繁にすれば密度が高くてもいいのでは?とおっしゃるかもしれませんが、たびたび水換えをするのは金魚にストレス大きいですし、そもそも人間(飼い主)に優しくありません。それに金魚の密度が高い(水槽が狭い)と魚同士がすれやすいので、スレ傷等から細菌性の病気が発生しやすくなります。
(2)濾過器の能力は余裕を持たせる
濾過器(濾剤)の能力・容量がちょうどだと、清掃、水換えなど何かあったときに濾過能力が低下して、アンモニア等の有害物質が貯まりやすくなります。また濾過バクテリアが水槽の中で十分にハバを利かせていないと、他の微生物(病原菌)に増殖させる隙をつくってしまうことになると考えられます。


ここまで読んで、「な〜んだ、そんなのあたりまえじゃん」と思われた方も多いでしょう。そうです、あたりまえなんです。でも、病気と仲良しの多くの方々は、それができていなくはないですか?冒頭で書いた貴方のお知り合いの病気がでない水槽をまたの機会に確認してみてください。飼育環境(飼育密度及び濾過能力)という面では、必ずや十分な余裕をもたせていることと思いますよ。

「発病」→「水槽リセット」の無限ループを脱して、病気知らずの生活を送るためには、結局、金魚飼育の原点に立ち返る必要があるのではないかと思います。目先の病気の治療のことに振り回されるのではなく、一歩立ち返って病気がでないようにすることを考えていくことは、結局、飼い主にとってもラクチンで、金魚飼育を長続きさせるコツではないかなと私は思います。それが今回の場合は、飼育環境の余裕ということなのだと思います。

さて、金魚の病気を考えるということについては、これでお話は終わりなのですが、せっかくですから、物事の根本にアプローチするということについて、もう少し考えてみたいと思います。あとちょっとおつきあいください。


あるAさんという人がカゼをひいてしまいました。Aさんが近所の内科に行ったところ、医者から熱冷ましと整腸剤と咳止めをいっぱいもらいました。Aさんはこれらのお薬を全てキチンと飲み、おかげで熱は少し下がり、お腹の調子も良くなったような気がしました・・・少々楽になったAさんは、普段どおりに仕事をして、夜も普通に就寝する生活を繰り返しました。でも結局なかなかカゼは完治はせず、1週間たっても症状があまり良くならなかったので、また同じ病院にお薬をもらいに行きました。結局カゼが完治するのに2週間以上かかってしまいました。

こんどはBさんがカゼをひきました。Bさんの近所の医院では、お薬は最低限の咳どめと熱さまししかくれませんでした。「夜寝れないときだけ飲んでください」とお医者さんは言いました。また「食べれるものをしっかり食べて、熱い風呂に入ったら、湯冷めしないよう早めにぐっすり寝てください」と言われました。Bさんは医者に言われたとおり薬は最低限しか飲みませんでしたので、ちょっとツライな〜と思いながらも、カゼでキツいので仕事をする気にもなれず、食べたいものを食べ、サッと風呂に入ってすぐ床につき、いつもよりぐっすり眠りました。すると翌日にはだいぶスッキリしました。そして2,3日後には、カゼもウソのように治ってしまいました。

この2つの医者を比べてみてどう思われますか?Aさんを診た医者というのは、すぐ目の前にある表面上の問題(熱、咳、下痢)をとにかく少しでも早く抑えてやろうということで、それに応じた薬をどんどん与えて見た目の成果を得ました、でもその症状の元となっているカゼという病気をどうするかということについては全く考えませんでしたので、逆にカゼ自体が治るのは遅れてしまいました。逆にBさんを診た医者は、表面上の問題(症状)にとらわれず、カゼの根本的原因を排除する対策をとりました。つまり熱さましや下痢止めは飲ませずに、ウィルスを体の発熱を利用して殺したり下痢で体外に排出させる一方で、ウィルスの増殖を抑えるように体力の回復を図る措置(食事+睡眠)を勧めました。このため、結局はウィルスが早く死滅してBさんの方がカゼを早く根治することができたということです。(でも医者として儲けるのは薬をいっぱい売ったAさんを診た内科のほうでしょうけど(汗))。

私が言いたかったこと、何となくおわかりいただけましたか?表面上の現象(症状)ばかりにとらわれ、見た目を取り繕う対処(薬をいっぱい飲む)をしたところで、現象(症状)は抑えられるかもしれませんが、根本の解決(カゼの治癒)にはなりません。つまり、物事を完全に解決しようとする場合は、その表面に見えるものの、もうひとつ奥に隠れる根本的な部分にアプローチしていくことが大切ですよということなんです。

金魚飼育では、一端飼育を始めて軌道にのると、なかなか水槽の大きさが適当か、とか、濾過器が十分機能しているか?なんてことは気にしなくなります。そして現状の金魚の状態に満足し、見かけの平静があたりまえになってしまい、ついつい管理を怠ったり、エサを多めに与えたり、最悪さらに金魚を追加投入したりしてしまいがちですよね。

しかしそういった表面上の現象にとらわれず、しっかり根本を見定めるよう心がけていくことが実はとても大切ではないのかなー、と私は思ったりしています。実はこれって金魚飼育だけではなくて、我々が普段生活している中でもたびたび直面する問題だったりします。人間の究極の命題ですね。でも、あまり話を広げると、無学な私にはもう手に負えなくなりますので、今回はこのへんで・・・。

超長文のワリにつまらないオチでしたね。(^^;

ではまた
語り部(かたりべ)ぷーさん