「知識を身につけるということ  〜「絶対的」から「相対的」への発想転換〜」
タイトルだけ見て、なにやら難しい数学か物理学の話しかな?と身構えてしまった方、ご安心ください。私もそちらの方面は大の苦手です。間違ってもそんな難しい話をするわけはございませんので・・・(^^;


さて、金魚飼育を行っている皆さん、普段の自分を振り返ってみてください。もちろんキレイでかわいい金魚をただボ〜ッと見つめている時間も多いとは思いますが、それ以外にも金魚を観察し、状況を把握して、これから何をするかってことを考えていることもかなりありますよね。そしてそれら一連の思考、判断の根拠として、みなさん普段から何気なく、本やネットで得たいろいろな知識を活用していると思います。

例えば、飼い始めの時なら、どれくらいの大きさの水槽で、どんな設備を使って、どのような種類の金魚を何匹飼うか、というところからはじまり、いざ飼い始めても、水の汚れ具合を判断し、水換えをいつやるか・・・1/3かそれとも全ての水を換えるか。金魚の調子がおかしくなったら、そのまま様子を見るか、塩水浴するのか、それとも魚病薬で薬浴させるか・・・。また魚病薬はどの製品をどのくらいの濃度で使用するか・・・等々、数え切れない多くの事柄を毎日、意識的にあるいは無意識のうちに判断し、それを元に実行していますよね。今回は、そのような飼育に係る知識や技術情報の捉え方、考え方、ということについて考えてみたいと思います。
(結局は難しい話になるのかな?・・・汗)

ここでいくつかのたとえ話を・・・

(例1)
あなたはすでに金魚を飼っているのですが、欲しい金魚がまだまだいっぱいあるので、とうとう新たに60センチ水槽を追加することにしました。本当なら欲しい金魚は10種類を下らないのですが、欲しいだけ買って入れるというわけにはいきません。健全に飼育できる適当な数というのがあります。ある飼育本によると、60センチ水槽で飼える尾数は3〜4匹まで、と書いてあります。でも、あなたはどうしても欲しい金魚を4種類まで搾りきれず、5匹買ってしまいました。このような場合、上記の飼育本の記載によれば、「60センチ水槽に5匹では多すぎる」ということになるのでしょう。
・・・でも果たして本当にそうなんでしょうか?

(例2)
金魚を飼い始めた頃は、エサをどれくらいやったらよいか、よくわかりませんよね。買ってきたエサの袋の裏を見てみると、「金魚が3分で食べきれる量を1日2〜4回与えてください」と書いてあります。そこであなたはある日、エサをいつもと同じ量だけ与えて、腕時計でどれくらいの時間で食べ尽くすか計ってみました。その結果は4分でした。あなたは「ちょっとエサが多すぎたな・・・」と反省しました。
・・・でも果たして本当にそうなんでしょうか?

(例3)
あなたの金魚が病気(白点病)にかかって、かなり弱ってしまいました。あなたはとりあえず飼育本に書いてあった、ヒーター加温と塩水浴を実施することにしました。本によれば、「この病気を治療するには、ヒーターで水温を30℃まで上げ、0.5%の塩水浴を行うこと」と書いてあります。でも貴方は、秋で水温が20℃前後と低くなっているし、金魚も弱っているので、「できるだけ金魚に刺激を与えたくないほうが良いのではないか」と考え、加温は27〜28℃、塩分は0.4%にとどめておくという方法にしようかと考えました。しかしあなたは、「もしかしたら温度は30℃、塩分濃度は0.5%にきっちり合わせないと、効果が無いのかもしれないのでは?」と心配になってきました。
・・・でも果たして本当にそうなんでしょうか?


ここでは上の3つの例を挙げさせて頂きました。これ以外にも、いろいろな場面で、同じような判断を強いられることが度々ありますよね。ここで気を付けなければならないのは、本やサイトに掲載されている、あるいは掲示板でアドバイスを受けた、「方法」や「数字」が、果たして絶対的なものなんだろうか?という点です。

例1の場合、飼育本では、あくまで初心者を含め多くの方が、一般的な飼育設備で飼う場合を想定し、またエサも絶え間なく与え続けて金魚が将来大きくなることを想定して、管理上無理の無い数字として3〜4匹という数字になっているということではないでしょうか?もちろん、飼育尾数(密度)が多くなれば、金魚が大きくなったときに、水の汚れやストレス等の影響が大きくなるということは当然考えられます。しかしそういった事情を承知の上、もし濾過システムを強化して水質管理を徹底して換水もこまめに行ったり、エサを控えめにするなどできるのであれば、飼育技術に自信がある人ならば、もう少し尾数を増やしても、絶対間違いということではないかもしれません。

次に例2の場合、エサのやりすぎは消化不良等を引き起こし、最悪の場合は死んでしまうということが念頭にあるわけですが、では、2分59秒で食べきれる量なら全ての金魚が絶対消化不良は起こさず、3分1秒かかって食べきる量なら全ての金魚が絶対に消化不良になってしまうなどということがありえますか?ちょっとどう考えてみてもそんなことはありえませんよね。水温をや水質といった飼育環境や、金魚の種類、個体差等によっても、適切な量は違ってきますし、だいいち金魚がエサの性状や成分まで計算して食べているわけではありませんから、食べやすいエサやおいしいエサは3分でもどんどん食べるでしょうし、食べにくかったり、あまりお好みでないエサなら、3分でもあまり食べれないかもしれませんよね。ですから、エサの袋に書いてある、3分で食べきれる量というのは、絶対的な数字ではなくて、あくまで基準として把握しておくにとどめて、あとは個々のケースに於いて、基準よりも多く与えても良いのか、又は少なくしておくべきなのか、ということを相対的に見て判断していく必要があるのではないでしょうか。

例3でも同じです。例えば「30℃以上でなければ、菌が死なない」というような病気であれば、30℃にするしかないのですが、そうではなくて、「とりあえず30℃が望ましいけど、20℃以上であれば効果が期待できる」というようなケースだってあり得るわけです。実際に白点病治療で温度を上げなさいと言われるのは、加温で菌を直接殺すのではなくて、温度を少しでも高めに保つことにより白点虫のライフサイクルを早め、魚病薬が効く時期を早く到来させるということが目的だったりします。この場合、温度が高ければ高いほどライフサイクルは早まって早期に白点虫を駆除できますが、そこまで水温を上げると金魚の体力が心配だという場合は、25℃くらいにとどめておくという考えもありうると思います。
塩についても同じで、駆虫や殺菌のためには、濃度は濃ければ濃いほうが良いでしょうが、金魚の体力も考えると、0.5くらいがちょうど良いという判断になっているはずです。0.5%なら効果があるけど、0.49%だったら効果が無いとか、0.51%だったら濃度が高すぎて金魚が死んでしまうなんてことは絶対無いはずですよね。塩水浴だって、金魚にとっては水質の変化という刺激になってしまうわけですから、金魚の体力が低下していれば、0.5%よりも下げたほうが良いはずです。たとえ低濃度でも、全くの真水よりは治療効果という面でわずかでも期待は高いですから。

以上の例から私が何を言いたいかというと、本や一般的にいわれている飼育に関する知識(数字)というのはあくまで基準であり、あらゆる状況で必ずしも絶対的にベストな数字では無いということです。場合によってはその基準を元に、増減するほうがより適切な対処ができることもあろうかと思います。

飼育経験の豊富な人が初心者にアドバイスをする際に、「60センチ水槽には4匹まで」とか、「エサは3分以上かかって食べるようならやりすぎ」とか「水温30℃、食塩は0.5%キッチリに合わせないと病気は治らない」みたいな表現をする人がいます。これは全くの間違いということでは無いとは思いますが、これが絶対的な数字だと相手に思わせるような決めつけた表現をするというのは避けるべきです。

また、質問する側としても、本に書いてあったり、人から教えてもらった数字を何の疑問もなく絶対的なものだと思いこむ態度では、その人はそこから飼育スタイルの拡がりや、技術の向上ってことが望めませんし、何か環境の変化などがあるたびに、同じ失敗、過ちを繰り返すことになってしまうと思います。

「60センチには4匹」、「エサは3分で食べる量」、「白点病は30℃に加温して0.5%の塩水浴」・・・等々。これらは、確かに金魚を飼育する上での大切な知識です。でもこういった知識に対して、絶対的なものとして丸飲みするのではなく、いつも「何故なんだろう?」、「もっと多かったり少なかったりしたらどういうメリット・デメリットがあるのか?」みたいなことを相対的に考え、知識、数字を自分の中でかみ砕いてから吸収していくように心がければ、本当の飼育技術として自分の血肉になることでしょう。

私は金魚飼育における知識・飼育技術というのは、「暗記する」ものではなくて「理解する」ものなんだと、いつも思っています。そういう意識を持ちながら、金魚と楽しい日々を過ごすうちに、最終的には、様々な状況において、飼育本や人に頼らず、その時々での最適な対処方法を自分で判断し実行することができる、いわゆる「金魚飼育のエキスパート」になれるのではないでしょうか?
  
 
語り部(かたりべ)ぷーさん