「金魚の居る生活 〜人は何故、金魚を飼うのか〜」
ご存じの通り私が金魚を飼い始めたきっかけは、子供が金魚すくいで和金をもらってきたことにはじまります。以後すっかりハマってしまい、飼い始めて1年半近く経ち、2シーズンを経過してみて、熱しやすく冷めやすい私にしてはめずらしくいまだに熱が続いています。こうやって日々金魚を眺めたり管理を続けていく中、「どうして金魚に対しては、飽きずにずっと続けていられるのか?」と時々考えることがあります。

「かわいいから」とか「好きだから」というのが正直なところかもしれませんが、それだけで終わってしまっては、このコーナーにふさわしくありません。そこで今回は、無意味といわれそうではありますが、「金魚を飼うということ」を他の趣味等との比較を基に、掘り下げて語ってみたいと思います。
まず趣味全体の中での金魚飼育の位置づけ、それからだんだんと視点をミクロ化していき、ペットの中の金魚飼育、アクアリウムの中の金魚飼育、という視点で見ていきたいと思います。


1 趣味としての金魚飼育

 「金魚を殖やして売ることで生計をたてている」という一部の人を除いて、金魚を飼うことは生活に癒しや活力を与える趣味の一つであるといえると思います。では、金魚を飼うということは、他の一般的な趣味に比べてどういう特徴があるのでしょうか?

◆趣味の中での金魚飼育の特徴
 @いわゆるペット。表情の変化やしぐさ、心の触れ合いを楽しむ。カワイイ。
 A趣味として家の中で完結する=お手軽である
 Bお金がかからない(必須は水槽とフィルターだけ。あとはエサ代くらい)
 C世話をする必要がある(世話も楽しみの一つ?)

金魚を飼っている人は当然@はあると思います。
それから、Aについては、癒しの要素が高いペットですから、やはり家の中でいつでも触れあうことができるということは重要ですし、何かと目も行き届きやすくなります。
またBは、趣味として永く続けていくためにはとても大切なことです。自分の分をわきまえない高額な出費を伴う趣味というのは、一生の趣味として続けることが難しくなります。
Cについては、その世話が楽しいからやっているという人も多いのではないでしょうか?それは、水槽の掃除をしたり、水換えをしたりすることによって、自分の愛魚を快適にしてやることができた、という充実感が与えられるからでしょう。


2 ペットとしての金魚飼育

それでは、今度はちょっと視点を近づけてやって、趣味の中でも代表的な「ペット」としての「金魚飼育」はどういう位置づけになるのでしょうか。

◆ペットの中での金魚飼育の特徴
 @見た目がキレイ&表情がかわいい(気持ち悪いという人も居るが)
 Aフンや毛で家や家具を汚さない
 B決めた場所(水槽の中)にずっと居る
 C吠えたり鳴いたりしない
 D臭わない
 E病気を写さない(衛生的)

@は、まあ、犬を飼っている人にとっては犬がいちばんキレイでかわいいのでしょうけど・・・。
A〜Dを見てあらためて思いましたが、金魚は人間にとって何て都合の良い生き物なのだろうかと、つくづく思います。Dも、水が臭うという意見も聞こえそうですが、外部フィルターにして水槽自体はフタをしてしまえば、まず人間の鼻のレベルでは気にならない程度まで臭いのレベルを抑えることが可能です。
それから意外に見落としがちなのがEです。室内犬や猫を飼っていた方ならわかると思いますが、とにかくダニその他、病気やアレルギーの基をまきちらす原因となりがちです。特に小さいお子さんが居る家庭では気を遣います。その点、金魚は水に手を突っ込んだりしない限りは全く衛生的です。
こうやってみると、好き嫌いは別として、金魚がペットとしていかに優れた素質を持っているかということが再認識できます。


3 アクアリウムとしての金魚飼育

では、最後にさらにもう一段階ミクロな視点で考えてみましょう。ここが一番重要です。今までの説明では、魚類なら何でも最高、という理論になってしまいます。金魚を飼っている人は、何故多くの魚たち中から金魚を選んだのでしょうか・・・。

ペットにはほ乳類とか鳥類等という分類がありますが、それで言うなら金魚はさしあたり「魚類」ということになるでしょう。この魚類を飼うのが「アクアリウム」の代表的なスタイルです(中には水草水槽なんてのもありますけど)。魚類といっても、その種類は多種多様。では、そのような魚類を扱うアクアリウムの中での「金魚飼育」は、どのような特徴があるのでしょうか?

◆アクアリウムの中での金魚飼育の特徴
 @同じ品種でも個体毎に外見的な違い(個性)が大きい
 A性格も個体によって様々
 B表情やしぐさが多様
 C人なつっこい(エサのおねだり等)
 D飼育管理にあまり精度を要求されない(ズボラでOK)
 E環境適応性が大きい(水温、水質等)=飼育器具が簡易で済む
 F成魚になれば病気にも強い
 G比較的環境に優しい(海水魚や水草レイアウトに比べて)

@〜Cが、多くの愛金魚家の方々の意見だと思います(違うかな?)。他の熱帯魚も、例えば美しい姿形・模様のディスカスやエンゼルフィッシュ、色とりどりのグッピー、鮮やかな色合いのスズメダイ等々・・・。確かにこれらは美しいのですが、それはあくまで種としての美であって、個体それぞれに目立った特徴があるわけではありません。その点、金魚は、同じ親から産まれた同じ種類のものであっても、色合いや形、性格等が本当に様々で、それが「世界で私だけの一匹」感というものを醸し出しているのではないでしょうか?その個体差や性格のバラつきが金魚の最大の魅力だと思います。

次にD〜Fについてですが、とにかく他の熱帯魚、特に海水魚等については、魚が水質に非常に敏感で、ちょっとした管理のミスも命取りになるケースがままあります。ところが金魚については、一部の難しい品種(土佐錦や地金等)を除いて、飼育環境にはさほどうるさくありません。少々水換えが遅れて硝酸塩が溜まろうが、いちどに1/2水換えしようが、フィルターが目詰まりしていようが、よっぽどの過密飼育等で無い限り、体調をくずしたりすることはありません。さらに、温帯産淡水魚ですから、低水温にも高水温にも順応するため、ヒーター等も基本的に必要ありません。また、照明も1灯式があれば十分ですし、フィルター、底砂の種類なども幅広く適合します。エサもペットショップに売っている一番安いもので十分です。このように金魚を飼育するにあたっては、初期投資や以後の維持費が安くて済みます。このように金魚は、少々ズボラで貧乏な管理をしていても元気に生きてくれますし、逆にもちろん、器具設備に凝ったり、普段の観察・管理等手をかけようとおもえばいくらでも手をかけれる、なんとも人間に都合の良い魚なのです。飼い始めては死なせることを繰り返していては、「もう飼うのや〜めた」となってしまいますが、金魚の場合、知識の無い人でも比較的飼育が成功しやすく、そのことが金魚を選ばせる(定着させる)要因になっていると思います。

最後にGについてです。
まず、海水魚との比較です。海水魚を飼育するには、3.5%(水1リットルに海水の素(主成分:塩)を35g溶かす)という相当濃い塩分濃度の人工海水を作る必要があるわけですが、これを金魚などと同じように水換えしていたら、その都度多量の塩を淡水系の自然環境に垂れ流すことになってしまいます。例えば60センチ水槽で50リットルの水槽なら濃度3.5%では1.8kgの塩分が含まれていますから、これを1/3水換えすれば、なんと600gもの塩を排水口から流すことになります。これが環境にとって良いわけがありません。昔聞いた話では、みそ汁一杯の塩分を風呂桶1杯の真水で薄めないと、淡水魚が棲めるようにならないのだ、というような話しを読んだのを覚えています(魚種によるでしょうが・・・)。それから考えると、600gの塩を排水口を通して川などに垂れ流すと言うことがどれほど影響の大きいことでしょうか。
またある日、海水魚飼育しておられる方のHPを何気なく覗いていたとき、「魚が病気になってしまったため、毎日1/3の水換えをして治療している」という話が書いてありました。彼にとっては仕方の無いことなのかもしれませんが、私には信じられませんでした。その1匹の海水魚の命を救うために、数え切れないほどの淡水系の生物の命を奪っているのですから・・・。そこまでしてやらないといけない趣味って・・・。
それに、消費電力だってたいへんなものです。海水魚の多くはヒーターで一年中25℃〜28℃くらいの水温をキープしてやらなければなりません。これ以外に、水流をつくるための強力なポンプ、夏の水温上昇を防ぐクーラー等も設置しなければなりません。また、魚だけでなくイソギンチャク等も飼おうとすれば、何百ワットというメタルハライドランプの強い光りが必要です。省エネなどという言葉とは全く無縁の世界です。
底砂や濾材だって、金魚は自然の鉱物である「大磯砂」やセラミック濾材を使うことが多いですが、海水魚飼育では、生き物に由来するサンゴ砂やライブロックなどを使っており、これを採取することは少なからず自然環境の破壊を伴うといえます。

次に水草水槽との比較です。海水魚ほどではないですが、やはり金魚と比べると、多くの消費を伴います。水草レイアウト水槽をある程度やり込んでいくと、どうしても強い光と濃い二酸化炭素濃度を必要とする種類の水草も必要となってきます。これを維持してくために、多くの水草レイアウト水槽では、ごくあたりまえのように何本もの蛍光管を連ねた明々とした照明と、人工的な処理による二酸化炭素の注入が行われています。特に二酸化炭素は今地球上でどうやって減らすかということを議論している時代ですから、いくら自動車の排ガスなどと比べれば微量だといったところで、それを敢えて作り出して利用する(吸収されるのは一部で、多くは無駄になる)ことに対して疑問を抱かざるをえません。

趣味の世界というのは人間のエゴですから、多少の環境破壊や自然系のエントロピー増大を伴っても、それを正当化する風潮があります。もちろん金魚飼育だって、ポンプを動かしたり、蛍光灯を点灯したりという、そういう側面はあります。でも、ポンプや一灯式蛍光灯の消費電力なんてたかがしれています。海水魚や水草ではその程度が大きいということです。海水魚や水草水槽を維持している人は、そういうことを理解した上で(中には何も考えずにやってる人もいるでしょうが)自分が癒やされるための趣味としてやっていると思いますが、私には今のところそこまでやろうという気がおきません。金魚飼育においても、多少の消費はあります。しかしながら海水魚や水草の維持からすれば微々たるものだと思います。

金魚を飼育している人の多くは、このような環境破壊の事などを意識している人はほとんど居ないと思います。しかしながら、多大の消費を伴い環境破壊につながっている趣味は、コストが多くにかかるわけですから、そういう面で負担を感じるはずです。そういう意味で、金魚の飼い主が負担を感じないのは、コストがかからないから。そしてそれはつまり、自然環境に対しても優しいということなのだと思います。以上から、金魚飼育は、環境へ与える影響(=コスト)が比較的少ない割に飼い主が満足感を得ることができる、非常に効率の良い趣味であると言えます。

※注意していただきたいのは、私は「海水魚飼育や水草レイアウト水槽の維持は悪い」ことで、「金魚飼育は良い」ことだと言っているわけではありません。それぞれ一つの趣味の領域ですからやるやらないは個人の自由です。ただ、環境に与える影響が異なり、そのことは認識すべきであるということを言っているだけです。



さて、以上のように考えてみると、そもそも金魚を飼育するということはどういうことなのか、何故私をはじめ多くの方々が金魚の飼育を続けているのかが見えてきました。

@金魚はその表情や個性など魅力がたっぷりである
A飼い続けることの労力的、金銭的、環境的負担が少ない
 (→つまりは趣味として効率が良く、環境にも優しい)

今回こうやって考えてみて、金魚自体の魅力、趣味としての金魚飼育のすばらしさを再認識することができました。この魅力的な金魚との生活を、私はおそらくこれからも永く続けることになるでしょう。
  
語り部(かたりべ)ぷーさん