うんちく 「濾過のお話 @ 〜金魚飼育の基本法則〜」
金魚を飼育していると、たいてい濾過という言葉を耳にする機会がでてくると思います。濾過って一体何?ここではそういう疑問にお答えすべく、金魚飼育(アクアリウム)における「濾過」についてお話したいと思います。

★水槽における濾過とは・・・★

まず一まとめに濾過といっても、その原理によっていくつかに分けることができます。「物理濾過」、「生物濾過」及び「化学濾過(吸着濾過)」の3つですね。それぞれ順に解説してみたいと思います。

●物理濾過
これは、水中もしくは水槽外に濾紙のような働きをするものを設け、これに水をとおすことにより、水中に漂う目に見えるゴミの除去を行うというものです。たいていの濾過器では、スポンジやウール等の素材が入っていると思いますが、これが物理濾過の役割を果たします。濾材にゴミをひっかけるわけですから、当然少しずつ濾材にゴミが溜まって、目詰まりを起こしてしまいます。そこで、定期的な洗浄を行う必要があります。また、形が崩れてきたら交換しなければなりません。
●生物濾過
アクアリウムでの濾過というと、基本的にはこの生物濾過のことを指します。これは、濾過器内の濾材や底砂等に住み着いたバクテリアが、水中に溶けているアンモニア等の有害物質を分解し、金魚にとって無害な物質に変えるというものです。生物濾過を行うためのバクテリアは、条件さえ整えば、どのような濾材にでも住み着きます。上記物理濾過を行うスポンジやウールにも住み着きます。しかしながら、特に生物濾過を目的とする場合は濾材はリング状や粒(スティック)状のセラミック製濾材を使用することが多いです。というのも、生物濾過を行うバクテリアも、分裂を繰り返す一方で、時間が経つと死んでいき、その死骸が濾材にヘドロ状のバクテリアコロニーにこびりつきます。これが濾材を詰まらせる原因になるのですが、セラミック濾材ですと、濾材の周りに空隙が多く、多少コロニーが付いていても目詰まりしにくい特徴があります。またセラミック製であるが故に耐久性が高く、定期的に洗浄を行うことで繰り返して長期間使用できることなどが理由です。詳細は本文の続きをご覧ください。
●化学濾過
 人によっては物理濾過と言ってるのを聞きますが、原理は化学の授業で習う内容なので、ここでは化学濾過と称します。これは、活性炭等のミクロ単位の空隙を非常に多く有し、表面積がとてつもなく大きい吸着濾材を使い、有害な化学物質を吸い付けてしまおうというものです。空隙にため込むことができる物質量には限りがあるので、ずっと同じ濾材を使い続けると、許容量いっぱいになり、その後は、吸着した物質を裁縫出していきます。よって、効果を持続させるには濾材を定期的に新品に交換しなければなりません。水槽で金魚飼育をする場合、一般的には「生物濾過」及び「物理濾過」が行われていれば良く、化学濾過は特に目的を持って行う場合でなければ必要無いといえるでしょう。



・・・さて、この3種類の濾過のうち、最もわかりにくい一方で、アクアリウムにおいて最も重要といえる生物濾過について、しくみを詳細に解説していきます。



★生物濾過のしくみ★

金魚が生活を続けていくしていく上では、必ずエサを食べてフンをします。このフンや残りエサからは、アンモニアという魚にとって有害な物質が発生しています。よって、金魚が水槽の中で生活を続ける限り、そのままの状態では、水槽中のアンモニアの量(濃度)がどんどん高くなってきて、これが金魚に悪い影響を及ぼし、最悪の場合、金魚が死んでしまいます。ところが普通に見られる自然界の川や湖沼、海などでは、魚たちはエサを食べてフンをしているにもかかわらず、アンモニアの影響で死んでしまうことはありません。これはどうしてでしょうか?実は、川や湖沼、海等の中では、我々が想像もつかないような自然のすばらしいシステムができあがっているのです。そのシステムとは、水の中に棲む種々のバクテリアの働きによって、魚のフンや死骸、生活排水等から発生するアンモニアという有害物質がまず亜硝酸に分解され、さらに亜硝酸が魚にとって無害な硝酸塩に分解されされるというものです。この働きによって、魚を初めとする水棲生物は、川の中でアンモニア中毒にならずにずっと生きていられるのです。

厳密にいうと、自然界の川等の水の中では、アンモニアが分解されてできた硝酸塩の一部はさらに水草に栄養分として取り込まれたり、また一部はさらに分解されたりするしくみが存在します。(このしくみについては後述します。しかしながら水槽の中ではこのようなシステムを構築するのは困難です。よって本稿ではこのような話は割愛させていただき、バクテリアによるアンモニア(有害) → 亜硝酸(有害) → 硝酸塩(無害)という分解過程を金魚飼育における生物濾過と定義させていただきます。

さて、それではこの水槽中で行われる生物濾過(アンモニア→亜硝酸→硝酸塩)をもう少し詳しくみてみましょう。詳しくといっても私は専門家ではありませんので、学術的な記述はできません。また、わかりやすく書くために専門用語はできるだけ使わず、わかりやすい表現に換えている部分があることをご了承ください。

まず、何も無い状態の水槽に水と金魚を入れた段階では、基本的にバクテリアを初めとする生物はいません(厳密に言うとちょっと違うでしょうが)。そこへ金魚を入れることによって、金魚のフンや尿、残りエサから直接溶け出したり、あるいはそれらが微生物によって分解(腐敗)されたりすることで、金魚にとって有害なアンモニアが発生します。すると、水中にわずかながら居るか、あるいは空中から紛れ込んできた(ちょっとニュアンスが違うかもしれませんが、細かいことはお許しください)バクテリアのうち、「アンモニアをエサとする種類のバクテリア」が、アンモニアを食べてどんどん増殖していきます。この種類のバクテリアを「ニトロソモナス属」と総称しています。ニトロソモナスがアンモニアを食べると、分解されて亜硝酸が発生します(亜硝酸も金魚にとっては有毒です)。そして水槽内にアンモニアが分解されてできた亜硝酸が溜まっていきます。すると今度は「亜硝酸をエサとする種類のバクテリア」が増殖してきます。これらのバクテリアを「ニトロバクター属」と総称しています。ニトロバクターが亜硝酸を食べると、さらに分解されて、金魚に害のほとんど無い硝酸塩になります。このように「ニトロソモナス属」「ニトロバクター属」という大きく2種類に分類されるバクテリアの働きによって、
アンモニア(有害)→亜硝酸(有害)→硝酸塩(無害)
と分解される過程を「微生物」によって「水を無毒化する」という意味で「生物濾過」と呼んでいます。そして、これらの働きを担う「ニトロソモナス属」「ニトロバクター属」のバクテリアを総称して「濾過バクテリア」と呼んでいます。

なお、これらの濾過バクテリアは好気性といって、活動(有害物質を分解)したり、分裂(増殖)していくためには、水中にとけ込んでいる酸素が必要になります。よって、活動・増殖するためには水中に酸素がとけ込んでいることが大切です。ですから、濾過バクテリアの活動を活発にするためにも、特に水中の酸素濃度が低くなる夏場には、エアポンプ等によってエアレーションを行うことがは有効です。よく長時間(丸1日とか)濾過器が故障したり、スイッチを切ったままにしておくと、バクテリアにダメージを与えてしまうといわれているのは、このためです。水が滞って、酸素の供給が停止してしまうということです。
(参考:逆に、先述の自然界の川に存在する硝酸塩を分解して窒素として空気中に放出するのは、嫌気性のバクテリアです。嫌気性バクテリアが活動や分裂するためには、酸素の無い環境におかれる必要があります。ニトロバクターやニトロソモナスとは全く逆の環境が必要であるとえます。)

これら濾過バクテリアが水槽の中に増殖するための条件を整理すると次のとおりです。

●常に水中に酸素が溶けている状態にある

 →エアレーション、水草による光合成等
●常に水中にバクテリアのエサとなる物質が存在す
 →金魚のフン・残りエサ
●バクテリアが定着して活動する場所が存在する
 →濾過器の濾材、底砂など
●水温が高すぎたり低すぎたりしない(適温はバクテリアの種類によって異なる)
 →金魚が生育できる温度なら問題無し(ただ水温が低くなるとバクテリアにはダメージ)
●塩素や魚病薬など、バクテリアを殺してしまう物質が存在しない
 →水のカルキ(塩素)抜き、本水槽で魚病薬を使用しない

上記のことを考えると、バクテリアの働きを助けてやるために、水槽をどのような状態にしてやれば良いかということが自ずと解ってきますよね。

以上、金魚以外に何も見えない透明な水槽の中の水ですが、顕微鏡レベルではこのような自然界の営みが為されているのです。金魚を健康に保つには、先ずバ濾過クテリアを健康に保つこと。これがポイントですね。

なお、先にもちょっとだけ触れましたが、自然界の川や湖沼、海の中で起こっている、その先のお話に少しだけ触れてみたいと思います。

(参考)自然界の川における窒素の循環

川の水の中等でも、生物濾過が機能している水槽と同じように、好気性の濾過バクテリアが存在しています。この働きにより、魚のフンや死骸、生活排水等から発生するアンモニアは、亜硝酸を経て、硝酸塩に分解されます。ここまでは水槽の中と同じですね。この、好気性バクテリアによる分解によって生成された硝酸塩は、自然界の川や湖沼、海等では、その後次のようなルートを辿ります。

(1)水草に吸収されて水草の生長に利用される(これは水槽も同じ)
(2)嫌気性のバクテリアによってさらに分解され、気化して大気中に放出される。

(1)について、水草となった窒素は、一部は枯れて分解されることによりそれ自体がアンモニアの発生源となったり、また一部の水草は魚に食べられ、再び魚のフンや死骸となるという、川の水の中で窒素の循環サイクルができあがっています。

(2)につていは、濾過バクテリアとは異なる種類の、嫌気性のバクテリア(酸素の無い環境で活動&増殖する)の働きによって、硝酸塩が窒素などに化学変化し(還元という)、大気中に放出されます。この機能によって、川の中の窒素循環サイクルという閉じられたシステムの外側から流入した、余分な窒素分(生活排水や降雨等外から入ってきたもの)を再びシステムの外側に返す働きを行っています。この嫌気性バクテリアの働きによって、川の中には余分な窒素分が残らないようになっています(多少ニュアンスが異なるかもしれません)。このように、自然界では、川の中という閉じられたシステムだけでなく、その外側の世界も含めて、様々な植物や微生物、魚、水、大気等が関係する、とてつもなく大きな窒素の循環サイクルができているのです。


この自然界のシステムを水槽の中で実現できるかどうかということについて考えてみます。まず亜硝酸を水草に吸収させることはできますが、自然の川に比べてその量はたかがしれています。また硝酸塩を分解して窒素として空気中に放出する嫌気性バクテリアは、生息環境が特殊(濾過バクテリアとは異なり酸素が無い環境で活動&増殖する)であるため、水槽の中でその環境を完全に再現することはほぼ不可能といえます。よって水槽の中では、硝酸塩は一部を除いては分解・吸収されることなく、水槽内にどんどん貯まっていくことになります。この硝酸塩そのものは、先述のとおり、金魚にとって害はほとんどありません。ところが、硝酸塩が水槽中に蓄積していくと水のpHが少しずつ下がっていきます。よって硝酸塩が蓄積しすぎると、金魚に悪影響を及ぼすことになってしまいます。また、もう一つの悪影響として、硝酸塩の濃度が高まると、硝酸塩を栄養分として成長するコケの成長が盛んになってしまいます。そこでpHの低下とコケの発生を抑えるために、水槽の中に貯まった硝酸塩を水槽外に出す必要があります。そう、水換えですね。みなさんが日頃から定期的に水換えを行っているのは、ただ単に見た目のことだけではなくて、こういった理由があるからなんですね。つまり金魚水槽では、
「エサという形で水槽外から流入した窒素分を水換えという方法で亜硝酸として取り除く」

ということによって成り立っているといえるのです。

(追記)
この自然の法則は海の中でも再現されています。しかし海水中では酸素も溶けにくく、バクテリアにとってもより過酷な状況にあります。これは海と川の水が混じり合う汽水においても程度の差はあれ言えることです。一般に水中の塩分濃度が高くなればなるほど、条件は悪くなります。金魚水槽では1ヶ月もすれば水質が安定するのに、ミドリフグ等を飼う汽水環境では2ヶ月かそれ以上、カクレクマノミ等を飼う海水魚水槽では3ヶ月から半年はかかるといわれているのはそのためです。
  
 
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