「濾過のお話@」では濾過という言葉の意味、濾過の基本について書きました。ここでは、濾過に関わるいろんなお話の実際について、私の考えも含めて解説してみたいと思います。 ★うわさ@★「空の水槽は魚投入前に1週間稼働させておくべきか?」 よく飼育本等には、「水槽立ち上げ当初は、濾過バクテリアが繁殖していないので、魚を入れる前に1週間ほど水槽内に水だけ張った状態で濾過器を稼働させて、バクテリアの定着を促しましょう」という記述を見かけます。しかしながら私はこの表現にはすごく疑問を感じます。そもそも濾過バクテリアは、エサとなるアンモニアや亜硝酸が全く無い状態では活動・増殖できないわけで、からっぽの水槽でいくら濾過器を稼働させたところで、さほどバクテリア増殖はなされないのではないかと思います。そこで私は、最初から金魚を水槽に入れて、濾過器を回すべきだと思います。そうすれば、僅かではありますが、バクテリアのエサとなるアンモニアが金魚から排泄されますから。それをエサにしてバクテリアも繁殖してくるというものだと思います。ただし注意しなければならないのは、最初は金魚を入れるだけで、エサは入れるなということです。エサを入れなくても金魚は少しずつ尿(アンモニア)を排泄していますから、水槽立ち上げ当初、まだ僅かしかいないバクテリアを養うエサとしてはこれで十分です。もしエサをやってしまうと、バクテリアの能力を遙かに超えたアンモニアが水中に溶け出すことになり、金魚が生命の危険にさらされてしまいます。こうやって1週間経った後は、バクテリアもだいぶ増えてきているでしょうから、少しずつエサの量を増やして、さらにバクテリアの増殖を促進すればいいと思います。 ★うわさA★「バクテリアは1週間で定着するのか?」 よく飼育本などに、「金魚を水槽に入れて1週間程度はバクテリアが定着しないからエサを与えないように」という記述が見受けられます。ということは「1週間経てば普通にエサを与えてもよい」と受け取れますが、本当にそうなのでしょうか? 濾過バクテリアは、エサと酸素が十分にある状態ではどんどん分裂して増殖していきます。このうち、アンモニアを亜硝酸に分解する「ニトロソモナス属」は1日に1回分裂する(倍増する)のに対して、亜硝酸を硝酸塩に分解する「ニトロバクター属」は2日に1回しか分裂しません。 (厳密にいうとちょっと違うかもしれませんが、大切なのは、ニトロソモナスよりもニトロバクターのほうが増殖スピードが遅いということです。) このため、飼い始め(水槽を立ち上げ)てからアンモニアが水槽中に検出されなくなるのは1週間程度と比較的短いのですが、次に亜硝酸が検出されなくなるまでは、3週間〜1ヶ月くらいかかると言われています。導入編で1ヶ月かけて少しずつエサの量を増やそうと書いたのはこのためです。以上を整理してみますと、水槽立ち上げからのアンモニアと亜硝酸、硝酸塩の消長は次のようになります。 (1)アンモニアは検出、亜硝酸は検出せず →ニトロソモナスが増殖中 (2)アンモニアの検出が減り、亜硝酸がわずかに検出 →ニトロソモナス、ニトロバクター増殖中 (3)アンモニア検出せず、亜硝酸の検出がピーク、硝酸塩がわずかに検出 →ニトロソモナス増殖完了。ニトロバクターが増殖中 (4)アンモニア&亜硝酸検出されず、硝酸塩の検出が増加してくる(少しずつpHが下がってくる) →ニトロソモナス&ニトロバクター増殖完了(濾過完成!!) この(4)の状態になるまでは、とにかくエサを控え、アンモニア&亜硝酸という有害物質が蓄積しないよう、頻繁に水換えをする必要があります。しかしひとたび(4)の状態になれば、有害物質はすぐに濾過バクテリアによって水槽中で分解されてしまいますから、水換えの頻度はずっと長くてもOKになります。 ★うわさB★「バクテリア定着までのエサやり&水換えはどうすればよいか?」 水槽立ち上げ当初から、水換えは具体的にどうやるべきか?「金魚の飼育方法」の項で説明しますが、生物濾過絡みということで、ここでももう一度考えてみたいと思います。 水槽立ち上げ当初から濾過バクテリア定着まで、何が問題になるかというと、とにかく濾過バクテリアの数が圧倒的に少なくて、金魚が自分で排泄するアンモニア等を分解する能力が水槽に十分備わっていないので、金魚がアンモニア等の有害物質に晒されるということになります。金魚すくいで採ってきた金魚を小さいプラケースにたくさん詰め込み、エサをドバっと与えて、翌日には水が真っ白に濁って全滅、なんてことが、子供の頃はあったような覚えがありますが、これは全てアンモニアによる中毒死だといえます。 では、どういうことに留意するかというと、次の2点です。 (1)アンモニアの発生源を絶つ→エサをやらない (2)発生したアンモニアは速やかに水槽外に排出→水換え ということですね。 (1)については、エサを入れない限り金魚はフンをしないわけですから(僅かには排泄するでしょうけど)、最初はエサをやらないでおこうというわけです。でもずっとエサをやらないと、いくら飢えに強い金魚でもいずれは餓死するでしょうし、そもそもバクテリアのエサとなるアンモニアも全く無ければバクテリアが増殖できないということで、3日〜1週間くらい絶食した後は、最初はごく少量のエサを与え、その後、少しずつ段階的に増やしていくようにすると良いでしょう。そうすると、濾過バクテリアがアンモニアや亜硝酸の蓄積スピードにさほど遅れをとることなく増殖していくことができると思います。 (2)についてですが、要はアンモニア等が金魚にとって危険なレベルまで蓄積する前に水換えをして、アンモニア濃度を薄めようというわけです。いくら(1)のように注意してエサを与えても、最初はどうしてもアンモニア等の濃度は高くなってしまいますからね。具体的な方法ですが、換水の頻度については、最初の1週間は2日に1回程度、1/3くらいの水を基本にしましょう。これでもアンモニアや亜硝酸が激しく検出されるようでしたらさらに回数を増やさなければなりません。こうやってバタバタしているうちに、アンモニアを亜硝酸に分解する「ニトロソモナス」は直ぐに定着してきます。そうしていると今度は亜硝酸の濃度が高くなってきます。そこでやはり引き続き頻繁な水換えが必要になります。亜硝酸を硝酸に分解する「ニトロバクター」は、「ニトロソモナス」に比べて増殖スピードが遅いため、しばらくガマンしなければなりません。 アンモニアは、過剰に蓄積すると水が白っぽく濁ったようになってきますが、亜硝酸はいくら蓄積しても水はキレイな透明のままですので、どれくらい蓄積しているかわかりません。ですので、少しでも水換えの頻度を少なくしたいなら、亜硝酸の検査試薬を買ってきて、毎日計測し、危険レベルまで濃度が高くなる前に換水するという方法が望ましいです。換水は一度に多量にすると水質が急変して金魚にも良くないので、1/3くらいにしておくのが良いと思います。どうしても試薬を購入したくないのであれば、毎日1回、1/3程度の換水を行うようにします。こうやっていると、ある日突然、亜硝酸が検出されなくなります。(試薬が無いと、このタイミングがわからない)本当に突然やってきます。この時がくれば、濾過システムは一応完成です。 ★うわさC★「パイロットフィッシュは必要か?」 熱帯魚飼育の場合、水ができる(濾過バクテリアが定着する)までに、比較的生命力の強い魚を少しだけ入れてバクテリアの定着を促すということが行われていますが、金魚自体が比較的強い魚ですから、金魚飼育の場合には特に必要無いと思われます。魚を少ししか入れなくてもエサをたくさんやってしまえば、瞬く間にアンモニアは増殖してしまいますし、逆に魚をたくさん入れても、エサを控えれば、アンモニアの発生は抑えることができます。金魚飼育の場合は、最初から水槽に入れて、エサを少しずつ増やしながらバクテリアの定着を待つという方法でよいのではないでしょうか。(そもそも金魚以外のパイロットフィッシュなんて入れると、後からその魚をどうするか困ります) ★うわさD★病気が発生したら水槽リセットするのか? 病気がでると、本水槽に魚病薬を入れたり、別の容器で薬浴させて、その間に本水槽を丸洗い&日光消毒(リセット)するという方が結構いらっしゃると思います。これは絶対的な対処方法なのでしょうか? このような水槽リセットをするということは、結果的に水槽の中の濾過バクテリアを含む全ての微生物が死滅してしまい、上述の「うわさ@」の状態からスタートしなければなりません。もちろん、病気の種類や程度によっては、水槽のリセットは避けられない対処方であることは解ります。ただ、いかなる病気でもすぐにリセットするのはちょっと考え物ですね。一度濾過バクテリアが定着してしまうと、少々水換えしたり濾過器のメンテナンスをしても、すぐにバクテリアが復活するようになります。しかし、これが水槽リセットとなると、バクテリアも完全に死滅しますので、また@からやりなおして、毎日毎日の1/3水換えの日々です。基本的に、白点病や尾ぐされ病、松かさ病等の病原細菌等は水のあるところならどこにでもあり得るもので、水槽の中から完全に消してしまうということは難しいと思います。また、特に細菌病は水質の悪化が原因だったりするので、部分水換え(汚れがひどい場合には底砂等を軽く掃除)するくらににしておいたほうが賢明だと思います。魚病薬を使用したり、水槽リセットしたりせずとも、水換えだけで尾ぐされ病が治ったという話も結構耳にします。 そもそも濾過の完成した健全な水槽では、濾過バクテリアをはじめ、様々な微生物がせめぎ合いながら競争・共存しており、そういった環境下では、特定の病原菌が以上増殖するの難しいはずです。逆にリセットした微生物が居ない水槽では、微生物環境が非常に不安定で、すぐに特定の微生物(病原菌を含む)が異常増殖してしまう可能性があるといえるでしょう。 ということで、水槽リセットは極力避け、各々の水槽に適した濾過バクテリアが定着した状態をキープすることを第一に考えるるよう心がけるのがよいのではと思います。 ★うわさE★「濾過バクテリア入り資材は必要か?」★ これについては賛否両論ですが、私の考えとしては、全くもって不要と思います。濾過バクテリアといってもこれは総称のことで、実際には種類は非常に多く、それぞれの水槽の水質や水温に合わせて、最も適したタイプが定着していくと考えられます。ですから、「バクテリア入り資材」に入っている濾過バクテリアは、最初水槽に何もバクテリアが居ない状態ではそれなりの働きをしてくれるかもしれませんが、その後は水槽の環境になじまず定着しないかもしれないし、もっと言うなら、その後増殖してくる土着(元々そこに居るという意味)のバクテリアと生存競争してしまい、濾過システムの完成の妨げになることが考えられます。また、このような資材の多くに入っている濾過バクテリアは、遺伝子操作されて数代までしか生きないといわれています(つまり数回分裂したらみんな死んでしまう)。ということは、結局最終的には、その商品を入れ続けるか、いずれかは土着の濾過バクテリアを定着させなければいけない時がくるということです。それなら最初から何もいれずに、じっくりと土着のバクテリアの増殖・定着を待った方が、コストもかからないし、結局は近道だと思います。 中には、このようなバクテリア入り資材を使わないと、水槽立ち上げ時に水槽のアンモニアが分解されないから金魚に良くないとおっしゃる方がいらっしゃいます。ではどうすればいいのでしょう?簡単です。エサをやらなければいいだけの話ですから。金魚の場合、絶食には比較的強く、健康な金魚なら1週間くらいは絶食しても平気です(腹減って暴れるでしょうが・・・)。それが心配だとか、飼い主の精神衛生上良くないというなら、絶食は3日でもいいいです。そしてその後少しずつエサを増やしていく。そうすることで、バクテリアの増殖スピードとエサの投与量が上手くバンランスを保って、無理なく生物濾過システムを完成させることができると思います。 ★うわさF★活性炭は入れっぱなしで生物濾材になるのか? 濾過器によっては、濾材として活性炭が入っていたりします。活性炭の働きとしては、基本的には吸着による化学濾過が主体となります。よって生物濾過という面から見ると、「活性炭がバクテリアのエサとなる物質(アンモニア等)も吸着してしまい、バクテリアの繁殖の妨げになる」という否定的な説もあります。また一方で、「一通り物質を吸着した後は、活性炭自体がバクテリアの住処となって生物濾過の機能を発揮する」という説もあります。いずれも真偽は定かではありませんが(ご存じの方がいらっしゃったら教えてください)、活性炭は、物質の吸着や水のアルカリ化など化学的に影響を及ぼし、これが微生物環境にも少なからず影響するということも考えられるので、使用にあたってはその点を含んでおくことが必要です。例えば、活性炭を濾材として使用している水槽に、水づくりや魚の健康資材のようないろんなものを添加しても、その物質が吸着されて意味が無くなってしまうということも考えられます。また、活性炭を入れた場合と入れない場合で水質が微妙に異なると、それぞれ繁殖するバクテリアの種類が微妙に異なる 〜例えば、活性炭使った状態で元気だった一部のバクテリアが活性炭を抜いて水質が変わることで死滅してしまう(考えすぎかもしれませんが)〜 ということも起こりうるかもしれません。まあそれが水槽維持にとって深刻かどうかというのは別問題ですけどね。というようなことで、 私としては、活性炭のような吸着作用や、化学性(pH等)に影響のある資材というのは、特に意味もなく使うよりは、最初から使わないほうが良いのではないかと考えています。水槽立ち上げやリセット後の不安定な時期に、期間限定で余計な有害物質を吸着するというように補助的に使うというのはそれなりに意味があると思いますけどね。 以上、今回は濾過にまつわるいろんな噂話を検証してみました。 |