詩


コントラバスと天使

一八六八年
教会の鐘が鳴り響く大学都市
イタリアのボローニャで杉と楓から作られたコントラバス ラファエロ・フィオリーニ
幸運の天使に護られて大きな戦争をいくつもくぐり抜け
音楽家の手から手へ渡り二十一世紀のはじめに日本にやってきた
「君はここで仕事があるのです」と天使は囁いた
専門店の店先に有名な名前の他のコントラバスと一緒に並んでいたら
ふいに入ってきた人が三十秒弾いてみて買うことに決めた
「君の運命がやってきました」と天使は微笑んだ
音楽家はコントラバスを優しく低く歌わせる
暖かくて穏やかな音色は彼のハートそのものだ
天使は音楽家に聞いてみた
「あなたの音楽の目標は?」
「世界の平和だよ 
僕の演奏で誰かが平和な気持ちになったら
それはその人だけで終わらない
気持ちは人から人へ連鎖して時には大きなことを起す」
天使は彼の弾く旋律で魂たちが囚われていたものから解き放たれ
可愛い羽音を立てて好きなところに飛んで行くのを見て言った
「あれが音楽の力です私もあんなふうにして生まれました」
コントラバスは音楽家の腕の中で自分がそのことを忘れていたのに気づき
笑った

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