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魂の叫び6

本日の一言
(提供:姉ちゃん)


クライマックスを迎える場所


その日私は那須にいた。読みかけの本は下巻の後半に差し掛かり、 私はクライマックスを迎える場所を探していた。
黒磯にあるCAFE「S」はとても素敵な場所。年月を経て飴色に 光る机、暗めの照明、ブラインドの隙間から入る雪に反射した鈍い光。
その場所を選ぶには意味がある。「大人はゆっくり、子供は静かに」という コンセプト。ここなら間違いない。ここで私はクライマックスを迎える。
決心した私は勢いタクシーを飛ばし「S」に向かう。
アパートを改造した店舗の二階に上がる、席を選ぶ。他人と出来るだけ 遮断された場所。外が見えるところ。隅にある1つのテーブルを目指し 急ぎ足で着席。オーダーした後、私は本に没頭した。
読みながらもう無意識に黙々と食べ、飲み、 そして私はついにクライマックスに差し掛かった。
目には熱いものが込み上げ手は震える。私は今、まさに、撃沈される運命にある 船の上にいる。男たちの心は静かだ。2000人の人々の命、 抗えない運命。予感しながらも、それでも最期まで戦おうとする誇り高き 海の男たち...

と、その時、

「こちらの皿、お下げしてよろしいですか?」

私は、いっきに現実に引き戻された。
その場所はありふれたCAFEだ。周りでは若い子たちがお茶を飲み明るく 笑いさざめいている。何の憂いも無い午後のCAFE、外には車が走り、 通り過ぎていく。

その場所を選ぶには意味がある。全てのことには意味がある。正確には 「あった」。
従業員は純粋に職務を遂行したにすぎない。開いている皿があれば、 すみやかに下げる。
でも、でも、少し考えて!
私は、色々な場所からそこを選んだ。その店の雰囲気、古い建物のもつ 優しさ、そしてどこか外界から遮断された空気。
ほんの1時間くらいの時間に、私の皿を下げないことがどれほど 店の損失になるの?私の損失は、他の人には分からない。特に店にとっちゃ どうでも良いこと。でも、私はそこを選んでしまった。 少ない時間を割き、本を読むという私にとって大切な時間の、大切な クライマックスをそこで迎えることを選んだ。
そして私が選ぶだけの価値をその店に見出していた。そういう場所であった。 今は、違う。
何はともあれ、そのCAFEが素敵な所であることはかわない。でも私は その本を読み返し、その場面に来るたびに、耳の奥で「そのお皿...」 が思い出される。

CAFE、というか喫茶店って、どんな場所なんだろう。 大切な時間を過ごす場所として選んでしまったのは前時代的な私の幻想なのだろうか。
私のわがままを聞いて欲しい。一人の客が来た。その人はおもむろに 本を読み始めた。その本は、もう残りページわずかだ...そんなときは どうか広い心で、読み終わるまで声をかけないでほしい。心からのお願い。 その場所を選ぶには意味がある。だから、ちょっとだけ私のわがままを 聞いてください。

ちなみに私が読んでいた本は、浅田次郎の「シェエラザード」でした。 良い本です。皆様も是非どうぞ。


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