悪霊シリーズ
スペース
「悪霊シリーズ」とは?
スペース
国営放送でアニメ化されている「十二国記シリーズ」でブレイクした、小野不由美主上の出世作。講談社X文庫ティーンズハートに収録されていたが、残念ながら現在は絶版。
小野主上にとってデビュー作から数えて四作目にあたる第一巻から、全八巻、足かけ三年に渡って発表されている。各巻のタイトルは以下の通り。
スペース
悪霊がいっぱい!? 1989年8月初版
悪霊がホントにいっぱい! 1989年11月初版
悪霊がいっぱいで眠れない 1990年3月初版
悪霊はひとりぼっち 1990年5月初版
悪霊になりたくない! 1991年3月初版
悪霊とよばないで 1991年10月初版
悪霊だってヘイキ! 上 1992年9月初版
悪霊だってヘイキ! 下 1992年10月初版
スペース
霊感女子高校生の谷山麻衣と、超美形ゴーストハンターの渋谷一也が、霊能力者の仲間たちと数々の怪奇現象を解き明かしていくティーンズ向けお耽美ホラー小説。のはずだが、後半になるほど小野主上のホラー趣味が色濃くなり、同時にシリーズを通して張りめぐらさられた伏線が収束していく、上質のエンターテイメントである。
1994年3月、講談社X文庫ホワイトハートに発表の場を移して、「悪霊の棲む家 ゴースト・ハント」上下刊が発売、こちらは現在でも書店で入手可能。前シリーズでお馴染みの登場人物たちは健在だが、麻衣の一人称だった語り口が三人称に代わったので、雰囲気はかなり違ったものになっている。
スペース
「悪霊シリーズ」には番外編が存在する。小野主上本人が編集していた情報ペーパー「京都私設情報局」、および猫猫組の同人誌「中庭同盟」に収録された短編がそれである。内容はファン向けの楽屋落ち話。以下の八編が確認されている。
スペース
いちばん見えない横顔 「京都私設情報局0号」初出、「中庭同盟」再録
Eugene 「京都私設情報局1号」初出、「中庭同盟」再録
千年の王国 「京都私設情報局2号」初出、「中庭同盟」再録
緑の我が家 The Green Home 「京都私設情報局3号」初出、「中庭同盟」再録
GENKI 「京都私設情報局4号」初出、「中庭同盟」再録
衛星の軌道 「京都私設情報局5号」初出、「中庭同盟」再録
白い白鳥のための告白 「中庭同盟」初出
彼の現実 「中庭同盟」初出
「中庭同盟」に関しては、「Q’s WEB SITE」さんの記事を参考にさせて頂きました。
※手元にある「京都私設情報局1号」では、作品名が見あたりません。コピー誌なので抜け落ちている可能性もあります。
スペース
「なかよし1998年8月号」より、いなだ詩穂さんの作画による漫画が「ゴーストハント」(こちらは中黒なし)のタイトルで連載開始。同誌2000年10月号で完結した「ゴーストハントー禁じられた遊びー」にて、いったん月刊誌連載は終了するが、単行本書き下ろしというかたちで漫画化は継続中。 個人的には文庫のイラストを描いている中村幸緒さんや小林瑞代さんより、いなださんの描くキャラクターが一番しっくりきます。
1997年10月からは、ラジオ番組「宮村優子の直球で行こう!」内でラジオドラマ化。CDも発売されているが、聞いてません。
スペース
「悪霊シリーズ」に想うこと
スペース
「悪霊シリーズ」の魅力は、キャラクターの魅力であると断言できる。小野主上の卓越した筆致によって、主要な登場人物だけで七人(八人? 後半ではさらに一人追加)の個性が描き分けられ、それぞれが生き生きと小説の中の役割を演じている。「十二国記シリーズ」や、S・キングの名作「呪われた町(原題:Salem's Lot)」へのオマージュとして話題をよんだモダンホラー「屍鬼」など、後年の小野主上の作品世界に見られる多彩で魅力的な人物描写へ通じる片鱗が、ここですでに明らかだ。
また豊富な知識に裏打ちされたオカルトの描写もすばらしい。当時の少女小説、ジュヴナイル小説で、ここまで深いオカルト世界を取り扱った作品があっただろうか。「悪霊だってヘイキ! 下」の最後に上げられている参考文献は、なんと百二十四冊におよぶ。これだけの本を読み、消化し、作品世界に取り入れる努力を惜しまない、それだからこそ小野主上の筆からは真のエンターテイメントが生まれるではないだろうか。
スペース
「悪霊シリーズ」において、不満に思う点もある。架空の心霊研究家オリヴァー・デイビス教授を説明するにあたり、実在の超能力者たちの名を出し、あたかも彼らが本物であるかのように描写したのはどうか? ローズマリー・ブラウン※1や、フレデリック・トンプソン※2あたりの霊媒ならまだ良いが、ユリ・ゲラー※3をはじめとして、アレックス・タナウス※4、エドガー・ケイシー※5などの超能力者たちを、肯定的に取り上げたのは感心できない。しかもその一方でジェイムス・ランディ※6ら、似非超能力者に対抗する手品師たちの活動を非難するような描写も見受けられる(「悪霊がいっぱいで眠れない」P106)。超自然現象・超能力を信じる、信じないは個人の自由であるが、一方的な情報提供は時に盲信を生みだす。盲信の先に何があるのかは、オーム事件を例を出すまでもない。対象が十代であることを考えると、霊媒・超能力者に関してネガティブな意見も、作中できちんと取り上げてほしかったと思う。
スペース
とはいえ、「悪霊シリーズ」はティーンズ向けホラー小説として成功した数少ない作品のひとつである。永らく絶版が続いている現在の状況は残念だし、もっと多くの人に読んでもらいたい。ネットオークション等で手に入れる方法もあるが、いなだ詩穂さんによる漫画が絵のレベルも高く、原作の雰囲気を忠実に再現していると思う。未読の方は、まずはこちらを一読することをお薦めします。
スペース
※1:Rosemary Brown (1916年〜2001年11月16日) 音楽教育を全くといって良いほど受けていないにもかかわらず、リストをはじめとしてベートーベン、ショパン、シューマンら作曲家の霊に導かれ、彼らの曲を作曲した霊能力者。1969年、BBCの番組中で作曲したリストの曲は専門家の手によって検証され、リスト作品の雰囲気があると言われている。クラッシックレコードの老舗、フィリップスが彼女の作品をレコード化し、日本でも発売していた。
スペース
※2:Frederic L. Thompson ブルックリンの金細工師だったトンプソンは、1905年のある日、突然に絵を描く衝動に駆られる。その絵は半年前に死去した画家ギフォード(Robert Swain Gifford)の画風そのものだったが、トンプソン自身は画家のことは全く知らなかった。そればかりかトンプソンはギフォードの故郷の風景を幻視し、画家自身の声を聞いたという。二人の医者がトンプソンのことを妄想狂と決めつけたが、Hyslop教授は三人の霊媒師に意見を求め、彼がギフォードに憑依されていると診断した。
スペース
※3:Uri Geller(1946年12月20日〜) 説明不要な有名超能力者。74年の初来日時には、日本にスプーン曲げブームを引き起こした。超能力者としてデビューする以前は、手品師として興行していたらしい。現在もイギリスで、スプーン曲げを中心としたショーをしているようです。公式サイトはこちら(英語のみ)。
スペース
※4:「悪霊になりたくない!」P47では、アレックス・タウナスと表記。米国の超能力者Dr. Alex Tanous(1926年11月26日〜1990年7月7日)のことと思われる。博士は生後十八ヶ月で超能力の片鱗を見せ、九歳の時には家族の友人の死を、十三の時には近所の子供の死を予言している。彼の超能力は未来予知に限らず、American Society for Psychical ResearchのOsis博士による幽体離脱の実験に参加し、信じるに足る実験結果を得たという。タナウス財団の公式サイトはこちら(英語のみ)。
スペース
※5:Edgar Cayce(1877年3月18日〜1945年1月3日) 普段は写真業を営む敬虔なクリスチャンでありながら、睡眠状態に陥ることにより超能力を発揮した。病に苦しむ人には治療法を、魂が病める人には癒やしを与え、他にも夢の活用法、超古代史、新しい時代への予言、科学工学といった様々な分野に関して、時代を超越した情報を残している。ひまし油湿布やピーナッツ油マッサージといったケーシー治療法は、現代にも伝えられている。日本エドガー・ケイシーセンターの公式サイトはこちら
スペース
※6:James Randi 米国の手品師。自称超能力者たちの超能力が手品を使った「芸」だとし、ユリ・ゲラーをはじめ有名超能力者のインチキを暴く超能力ハンター。自ら教育財団を設立し、似非超能力者の告発を続けている。財団が提示した科学的な条件の元で超能力を示せば百万ドルが提供されるが、今のところ成功した超能力者はいない。ジェイムス・ランディ教育財団の公式サイトはこちら(英語のみ)。
スペース

<<お薦め に戻る