低髄液症候群の医学的意義と、私の診療所の治療方針 入場者数

はじめに
私は内科の開業医で,鞭打ち症後遺症として低髄液症候群を患い、篠永先生に文字通り、命を救ってもらいました。 今は、ほぼ7割位まで体調が戻り、仕事にも復帰を果たしました。 
ここでは、T:低髄液症候群の医学的意義
     U:私の診療所の治療方針 について述べてみたい。
T 低髄液症候群の医学的意義
これまで、この問題については、篠永先生が多く、各メディアに述べられているので、私なりの意見を述べてみたい。
(a)新しい学問、脳脊髄循環学の提唱。
イギリスの開業医、ウィリアム、ハーベイの話を聞いていただきたい。

・・・「ウィリアム、ハーベイは、人の血液が体内で循環することを初めて医学的論文として述べたことで有名 な16世紀の学者ですが、彼の発見は、その後200年間、1827年まで殆ど認証されませんでした。」・・・

今日、私たちが、常識となっている血液の循環学の普及を考えると、実に不思議な感じがする。人の血液が心臓をポンプとして心臓から送り出され、動脈→毛細血管→静脈を介して還流することが常識になったのは、実に19世紀以降のことなのである。


今回、篠永先生により明らかにされた、鞭打ち症後遺症の主な原因が、髄液漏出であるという新しい知見は、鞭打ち症後遺症の症状の多彩さと、その症状の深刻さからみて、人の髄液の役割の重大さを示唆していると思われる。髄液が脳を物理的に支えている事、髄液が循環している事や、髄液のもつ生理作用がここに初めて、人の精神、及び肉体に強烈な影響を与えていると推定され、以後、髄液生理学、髄液循環学の新しい学問分野が開かれることと確信する。
 
髄液圧、髄液の成分、髄液の循環量、産生と吸収、どれも、これまで臨床学の研究対象としては、余り問題にされなかった分野であるが、ここに篠永先生が洞察された如く、髄液漏出は、例えば、慢性頭痛、慢性疲労症候群、自律神経失調、うつ病、不眠障害、産後の肥立ち等の、体調不良、スポーツ外傷に伴う不定愁訴、小児のさまざまな心身症的疾患と関係している可能性が大である。

髄液減少による、脳の浮力低下の障害として、脳生理の異常、例えば、下垂体肥大、プロラクチンの分泌亢進が、これまで、わかっている。その他、脳内のセロトニン、ノルアドレナリンや、他の脳内ホルモンも研究されなければならない。

髄液の生理学としては、髄液漏出患者と、健常者の髄液の組成の比較、例えば、各種アミノ酸成分分析、髄液中の浸透圧、微量のホルモン、未知のホルモンの検出などがあげられる。これにより、これまでに解明されなかった、疲労や、頭痛の程度を定量的に証明出来るかも知れない。

 篠永先生の今度の発見の功績は、極めて大きいと考えられる。
U:私の診療所の治療方針

私は消化器の開業医であるが、先に述べた如く、鞭打ち症後に、低髄液症候群にかかり、肉体的、精神的に、非常に悩まされた。他の患者と同様、平塚で篠永先生の診断、治療を受けるまで、長きに渡って(約4年)、各病院、各科で通院、治療を受け、多くの内服薬を服用した。その経験により、私の診療所での、基本的な低髄液症の治療を述べたい。

 現在、当診療所より、約20名の患者を他病院に紹介し、低髄液症の治療を受けてもらった。効果は約50%程である。その他、200〜300人程のブラットパッチを必要とする予備軍がいるが、受け入れ先の問題もあり(東北、北海道地区では、数ヶ所しか治療施設がない)、
 日常生活が極めて困難な人や、自殺の恐れが強い人は、別にして、これら症状の深刻でない患者は当診療所で治療している。当外来での治療方針を述べてみたい。

 低髄液症の症状が多彩なので、患者さんの訴えにより様々工夫が必要とされる。基本的には、髄液漏出のための脳の浮力減少による脳機能のストレス状態、機能不全が病態の本質的な原因で、それにより神経系の興奮、循環不全、筋肉の硬直が引き起こされている。慢性頭痛は、最も重要な症状のひとつだが、これに対しては、まず抗うつ剤をお勧めする。基本的に低髄液症の患者さんは、常時、強烈な痛みにさらされているので(首、肩、腰)、この痛みに対して脳内モルヒネ及びセロトニンをはじめとする、脳内伝達物質の疲弊状態があると考えられる。抗うつ剤は、このうちセロトニン、及びノルアドレナリンの作用を保持し、痛みの閾値を下げる作用がある。そのため、これにより頭痛が緩和されるケースが多い。ブラットパッチ(硬膜外自己注入)は圧倒的な治療効果を持つので、この治療を受けるに越したことはないが、残念ながら私の施設では出来ないので、低髄液症の治療としては、点滴療法(ソリタT1500m?)がよく行われている。これには3つの利点がある。

@    補液で髄液量を増やす効果。

A    体温より低い点滴液が体に入るための鎮静効果。脳の興奮を鎮める。

B    病院で治療を受けているという安心感が与えられる。多くの患者さんは各科で相手にされないケースが多い。そのため低髄液症候群と告げられ治療を受けているということだけで、患者さんはとても安心感を持つことが出来る。これにより、点滴中に眠りにおちいれば、さらに効果が期待できる。(点滴中にはデパス1錠とSG顆粒1包を必ず服用させている。)

 パキシル、デプロメール、トレドミン等、うつ病の薬を飲むことに抵抗を感じる患者さんには、うつ病の為ではなく、頭痛を緩和する目的の薬であることを、よく説明している。例えば、帯状疱疹後の肋間神経痛の疼痛は、抗うつ剤で改善されることは良く知られている。

 抗うつ剤によりかなりの症状は緩和されるが、全身の筋肉の硬直と、それによる脳の興奮状態には、抗不安剤(安定剤)が効果的である。例えば、デパス(0.5mg)36錠があげられる。不眠に対しては、私はデパス(安定剤)で対応しているが、睡眠剤でも良い。一時的な頭痛、頚部痛は、SG顆粒(1g)を頓服で内服してもらっている。筋弛緩剤も必要であるが、デパスで対応している。ミオナール等整形で使われる筋弛緩剤は、消化器を傷めるので、私は余り使用しない。これら抗うつ剤、抗炎症鎮痛剤、抗不安剤の組み合わせで、かなりの症状の緩和が期待される。

 繰り返しになるが臨床経過中で大切なことは、外来で様子を見て、日常生活で困難な状態になりつつある患者さんや、自殺願望が見られる患者さんに、早くブラットパッチの治療を受けさせることである。当院よりも、自殺者が出たことがあり、この事が私の心に深く忘れない症例として、残っている。医師としての心がけとしては、患者さんの訴えを良く聞き、まず素直に低髄液症の存在を認めて、患者さんの治療に努力する姿勢が何より大切と考えている。