「ひかりちゃん」 奇跡なんてそう起こるはずはない。しかし去年のクリスマスに私は奇跡のような体験をした。
あの幸せはイエスズ様のクリスマスプレゼントだったのだろうか…



クリスマス、冬休みを間近に控えたリリアン女学園
しかしそれらをむかえるためには期末試験をのりこえなければならない。
期末試験前日。いつもと変わらずに銀杏並木を歩き、マリア様の前で手を合わせて登校する
「ごきげんよう」
「ごきげんよう、今日子さん」
二年菊組のクラスメイトと挨拶を交わして席につく。さすがにテスト前日というだけあって
みんな机に上に教科書やら参考書やらを広げて真剣な表情だ
「明日テストよね、今日子さんどう?勉強の程は?」
前の席に座っている子が尋ねてくる
「えっ、う〜んわからないわ。やれるだけのことはやってるけど・・・」
「まぁ今日子さんは優秀ですものね。羨ましいわぁ〜天は二物も与えるのね」
「そんなことないわよ。私なんて全然。他の人を羨むことだって・・・」
その時「ごきげんよう」と明るい声の挨拶とともに一人の生徒がはいってきた
黒須ひかりさん
高校二年で初めて(といっても自分は高等部からリリアンにはいったのであるが)同じクラスになった
女の子で明るく人懐っこい瞳が印象的な子である。
「ひかりさん、明日のテストどう?」
彼女の近くの子が声をかける。
「テスト!?う〜んわからないけどきっとだいじょうぶよ。それなりに勉強したし、いい点とれるはず」
「まぁ!余裕ね。羨ましいわ」
「そんなんじゃないけど・・・・・でもネガティブに考えたってしょうがないでしょ。前向きにw」
笑顔を向けてひかりさんが席に着く。
ひかりさんは・・・・・・
そこで担任の鹿取真紀が教室に入ってきた。
「明日からテストだからね〜。あんまり無理はしないでがんばること」
テスト前だからだろうか。HRもそう長くなることなく終了した。
またいつもの日常の始まりである。そして明日からもそうだと疑わなかった。



夕方、学校から帰宅し明日の試験の勉強をするために部屋に行き机に向かう。
なにか変だ。そう思いはじめたのはそれからすぐのことだった
お腹が痛い。我慢しようとしていたがだんだんひどくなり、うずくまるような状態になってしまった。
そして救急車がよばれ私は病院に運ばれた。
盲腸だった。
ベットの上で私は痛みと闘っていた。お医者さんが私と付き添ってくれている母に
病名と明日手術をするということを告げる
夜になり、母も帰宅すると私はひとりぼっちになってしまった。
盲腸の手術は簡単なもので、なにも恐がることはない。
そんなことはわかっている。しかしそれでも不安にはなってしまう
静かで暗い病室というのもそれを助長させている
お腹の痛みが少しやわらぎ思考回路が働きはじめたからか
明日のことなど色々考えてしまっていた
「‥‥っく、うっく」
その時女の子の泣き声がかすかに聞こえてきた
どうしたのだろうか。私はなんとなく気になってしまった
側に看護師さんもいるらしく二人で話している
その会話からその子も明日手術であることがわかった。
名前はひかりちゃん。12歳の女の子であるらしい
私と同じかぁ。そこでなんともいえない親近感を持ってしまった
またひかりという名前にも想うことがあったから
カーテンが引かれる音がして、看護師さんの足音が遠くなっていきやがてパタンとドアがしまる音がした
またガランとした静かな空気が広がる
そこで私は思いきって声をかけてみることにした
「そんなことくらいわかっているよね。わかっていたってどうしようもないことだってあるもの」
後半は自分自身にたいしていい聞かせた部分も少なからずあったかもしれない
「誰?」
ひかりちゃんが聞いてくる。先ほどよりも声がはっきり聞こえるようになっている。
「今日子よ」
リリアンの癖というわけでもないが、下の名前でこたえてしまう。
「盲腸で明日手術なの」
「あ、私も。明日、目の手術」
「うん、さっきの話聞こえてた。だから仲間発見って感じで声をかけちゃったのよね」
他にもあるのだかそれは言う事もないので言わないでおいた。
「ひかりちゃん学校楽しい?」
私はなんとなく聞いてみた。
「あんまり」
少し意外な答えが返ってきた。しかしその訳は来年受験だという彼女の言葉でわかった。
受験があると学校は少し殺伐となるのかもしれない。
リリアンはエスカレータ式になっているので受験体制はあまり整っていない。
そのためお嬢様学校ということもあってかのんびりした校風がある。
それから私はひかりちゃんにリリアンのことを話してあげた。
銀杏並木、そこにたつマリア像、お聖堂などの校舎の様子。さらに生徒会役員である薔薇様と呼ばれる生徒。
そして姉妹制度について・・・・・・・まぁ私には姉妹はいないけれど
「すてき。私、今日子さんの妹になりたい」
ひかりちゃんはこの独特の制度に興味を持ったみたいだった。
しかしひかりちゃんは12歳。私とは5つ違うことになるから、スールにはなることができない
でも明日手術をうけるひかりちゃんを励ますため私はひかりちゃんとスールになる約束をした
これでひかりちゃんの気が晴れればいいと思いながら
しかしひかりちゃんはリリアンに入れるかどうか不安そうだ
「大丈夫。きっと入れるわよ。そんな予感がする」
私はひかりちゃんの受験を応援する意味もこめて言った
私は目の前にいる(はずの)少女と同じ名前のクラスメイトを思いだしながら言った。
黒須ひかりさん
同じクラスだけれど、あまり親しいわけではない。
とても明るい性格で前向きで‥‥
そんな彼女が好きだった。自分にないものを持っている彼女にあこがれていた
しかし仲良くしたいとずっと思っていても、中々なれなかったのだ
自分の性格なのだが‥もう少し勇気を振り絞れないものかと何度思ったことか
でも今日ひかりちゃんと話して少し勇気づけられた。退院したらがんばれるだろうか
自分から変わろうとしなければ永遠にそのままなのかもしれない
見回りが入ってきたので話が途切れ、そのまま眠ってしまった
“明日から”がんばろうと思って‥‥ひかりさんのことを想いながら



目が覚めたとき、ひかりちゃんはいなかった。部屋のどこにも。
まるで最初から存在していなかったかのように。
「夢・・・・・・・だったのかしら」
私はベットの上で一人つぶやき現実を確認しようとしていた。
そこで以前黒須ひかりさんに聞いた話しを思い出した。
夢の話。夢の中でスールの約束をしたという話。
「もしかして・・・・・・」
私は鳥肌が立ちながらつぶやいた。
(そんな奇跡のようなことがあるのかしら)
でも現に昨日話したひかりちゃんはいなかった。
そして昨日の出来事はその夢の話しとあまりに酷似している。
奇跡・・・・・イエスズ様が起こした奇跡。
それは私のもとに降ってきたクリスマスプレゼント。
平凡な日常にくすぶっている私に勇気をくれた。
ひかりちゃんとの会話。幸せな体験。
今度、会ったら勇気をだして言えるだろうか。
いや、きっと言おう。
「ひかりちゃん」って


つわけで、こっちが本物なような気はします。たぶん(ぉ
でもどっちかはよくわからないのでまぁそこらへんはってことです