ここは私立リリアン女学園。

武蔵野にたたずむ由緒正しきカトリック系お嬢様学校である。

今は師走。言葉どおり師も走るほど忙しい年末のこの時期は

当然、生徒達も冬休み前のテスト勉強などで大忙なわけで・・・・。



一年桃組福沢祐巳はため息をついていた。

容姿、学力などすべて平均点である彼女は

リリアン女学園の生徒会、{山百合会}のメンバーである。

別に生徒会の人間だからといって頭がよくなくてはいけないという

わけでは必ずしもないのだが、周りにいる人たちが成績優秀者ばかりともなると

やはり、焦ってしまうものである。

「突然、勉強ができるようになったらいいのになぁ〜」

と無茶なつぶやきをしてしまったりもする。

テストまであと約一週間。追い込み期間である。



今日一日、いつもどおり何事もなかったように勉強して過ごし今はもう放課後。

大好きなお姉さまに会って一緒に帰れないのは残念だけれど、掃除が終わったら

少しでもはやく帰って勉強をしないと・・・・・・・・・

「あっでも、調べ物があったんだ」

勉強中に少しわからないことがあり、図書室に行って調べようと思ったのだ。

祐巳は掃除が終わりしだい、図書室に向かった。

試験前の図書室は朝や放課後、勉強するための生徒で賑わっている。

寒い廊下を歩いて、図書室に着いた祐巳はそのことに少し驚いた。

勉強のための机や貸し出しカウンターを抜けて図書が並ぶ棚に進む。

「う〜んと、これかなぁ〜」

目の前にあった本を手にとってパラパラとめくってみる。

「ちょっと違うな〜。」

本を元にもどし、その隣の本をとってまたみてみる。

これも違う。なんだか時間を無駄にすごしているような気がしてきた。

「図書室って、いっぱい本があるけどその分いまいち探しにくいのよね。」

とつぶやいてみるが、静かな図書室の中なのでほんとに微小な音量である。

祐巳はいったん探すのをあきらめて、そこからひきかえした。

そして、貸し出しカウンターの近くにある検索用のコンピューターに向かった。

あまりコンピューターに詳しいほうではないが検索の仕方くらいはわかる。

キーボードをはじく音がでて、それにつられて画面が切り替わる。

表示されるのは館内全域の地図。

そこに自分が検索した種類の本の場所が映っている。



「えぇ〜と、あれによるとここらへんをさしていたはずだけれど・・・・・・」

祐巳は先ほどとは本棚一つ分挟んだ、通路で先ほどと同じように悩んでいた。

「うぅ〜これでもないよ・・・・」

コンピューターで検索できるようになっても所詮は使う人次第であるという事か。

まさに豚に真珠、猫に小判状態・・・・・・・・

っと色々考えていると・・・・・

「何かお探しかしら?」

「ひゃっ」

びっくりして、本を落としそうになったが、

なんとか、周りに迷惑をかけないような声におさえられたようだ。

振り向いた先に確認できたのは

短くあごの辺りで切りそろえられた髪、落ち着いた雰囲気、

涼しげな印象の生徒がたっていた。なんとなく上級生かな・・・というのが直感。

頭の中をフル回転して過去の記憶をひっぱりだしてみるが

会ったことがあるというわけではないようだ。

もともと人の顔を憶えるのは得意なほうではないのだが。

たぶん間違いない・・・・・・と、思う。

「えっ、えっと・・・・・」

とびっくりしてしまったことで、かけられた言葉

を聞き逃してしまい、答えあぐねていると・・・・・

「なにか本を探しているのかしら、福沢 祐巳さん」

「えっ・・・・どうして名前を・・・・・・」

「ふふふっ」

目の前の生徒は嫌味のない笑いをしてごまかす。

一応、ロサキネンシス・アンブゥトン・プティスールで山百合会の人間とはいえ

何をせずとも目立つ、薔薇さま方や祥子さまのような超人・・・もとい有名人

というわけではない。

まぁそこらへんの疑問はとりあえず横に置いといて、今日、図書室に来た

目的を果たすため、目の前にいる生徒にきいてみる。

「えぇ、ちょっと××に関する資料を探しているのですが・・・・・」

「そう。それで納得できる本は見つかったのかしら?」

「いえ、まだみつからないのですが。」

「じゃあ、ちょっと待っててね。」

そう言い残すと、祐巳の立っている場所から少し離れたところの、

本棚にある本を手に取りめくってみるとそれを

手にしたままこちらに戻ってきた。

「これなんかどうかしら、参考になると思うけど」

そう言って祐巳に本を手渡した。それをめくってみると、なるほど、

確かに自分が欲しかった情報がのっていた。

しばらくこの本を眺めていたが、まだお礼を言っていないことに気付き、

祐巳は頭をさげてお礼をいった。

「あの、どうもありがとうございました。」

「いいのよ、私は図書委員だしね。こういうのも仕事だから」

そう言うと、じゃあと言い残してその人はカウンターに戻っていった。

祐巳に背を向けてから、聞こえないように、

「また、お会いしましょう」

そう小さくつぶやいて。



そこに、そのまま立っているのもなんなので、

机に座って見ようと歩き出す。

生徒達が勉強する机の間を抜けて空いている席を探していると

「祐巳さ〜ん」

手を振るジェスチャーを交えて、小声で声をかけてくれる生徒がいた。

「桂さん!?」

「ごきげんよう、祐巳さん。」

「ごきげんよう。どうして、ここに?」

「そんなの決まってるじゃない。勉強のためよ。いつも私はそうしているわ。

私に言わせれば祐巳さんがここにいることのほうがめずらしいと思うけど。」

と、なんとなくショックに思えるようなことを言ってくれる。

「いつもここで勉強してるんだ」

「うん、わからないことがあったらお姉さまに勉強みてもらうんだ」

そう言って隣にいる生徒をちらりと見る。

よくみると、その人は前に紹介して貰った桂さんのお姉さまだった。

小さな声でごきげんようと挨拶をする。

桂さんのお姉さまもそれにあわせて挨拶をしてくれた。

とても優しそうで、傍目から二人はとても仲のよさそうなスールである。

「ここ座ったら」

桂さんの隣のイスはちょうどよく空いている。

なのでお言葉に甘えて座ることにする。

どうせ本の中身を詳しくみるために席を探してたところだしね。

「じゃあ、失礼して。」

と腰をおろす。

「祐巳さんテスト勉強はどう?」

「う〜ん、どうだろう。勉強しなきゃいけないことは確かだけれど。

とにかく悲惨な成績をとったらお姉さまに合わせる顔が・・・・・」

スールの契りをかわした祐巳のお姉さま。

小笠原祥子さまを思い浮かべる。

その近づきがたい強烈な雰囲気と、下手なことをしたら

スールの関係を解消させられるかもしれないとの不安から

最後の言葉が尻すぼみになってしまった。

このことを考えるとまたため息しか出ない。

すると桂さんが無責任に言ってくれる。

「祐巳さんも色々大変ね〜。」

うげっ、またプレッシャーをかけてくれる。

漫画かなにかだったら自分の頭の上に重い寸胴が

どーんと落ちてくる絵になっているに違いない。

「まぁとにかく、がんばりましょう。ここへは勉強しに来たのでしょう?」

「う、うんそうだね・・・・・・がんば・・ろう」

自分を奮い立たせるためにがんばろうというはずなのに、

力のないセリフになって、がんばれるのかわからない。

まぁここは悩んでいても仕方がない。悪あがきして少しでも成績あがるようにしなきゃ。

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

今までのこそこそ話をやめて、周りにならい、黙々と机に向かう。

「・・・・・・・」

集中して本をみていたが、ふと隣をみてみると桂さんが、

彼女のお姉さまと何やら話していた。

(・・・・・・・)

見ていてなんとなく妙な気分になった。

羨ましい・・・・・それが本音だろうか。

桂さんはお姉さまにわからないところを教えてもらっているようだった。

祥子さまとこんなこと絶対できないんだろうなぁ〜と思う。

そもそもあまり試験勉強をなさらないらしいし・・・・。

でも祥子さまとこんなことできたらどんなにいいだろうかと思う。

どんなに幸せだろうかと考えてみる。

祥子さまと一緒に何かをする・・・・ただそれだけで。

それ以上の事実は必要ないのだ。

(スールにも色々、形があるのはわかっているけど・・・・・)

スールになってまもないが祥子さまのことは大好きだ。

またさらにどんどん好きになっていく。

なんだか祥子さまに会いたくなってしまった。



その後、本の必要なところはメモしおわったので、まだ机に向かっていた

桂さんたちとは途中で別れて岐路に着く。

思いのほか長くいてしまったのか、外は結構、暗くなっていた。



家に帰り明日の学校関係についての事柄を終わらして、お風呂に入り

明日からも色々がんばらないとなぁ〜と考えながらベットにもぐりこむ。

眼を閉じる。その中でも自然と浮かんでくるのはお姉さまのことだったりする。

(祥子さま・・・・。)

まどろみの中、そのことばかり考えながら眠りに落ちていった。



翌朝、いつもより早く眼が覚めてしまった祐巳は試験期間中だから

ちょうどいいやとばかりに家をでて通学路に向かった。

このくらいの時間ならバスもそんなには混んでいないだろうしね。

駅でバスを乗り換えるために歩いていると

(お姉さまだっ)

前方を歩く人物がそうであると気付くまでにそう時間はかからなかった。

「お姉さま」

「あぁ、祐巳」

「ごきげんよう、お姉さま」

「ごきげんよう」

いつもと変わらず優雅な仕草のお姉さまをみていると、

こちらまでうれしくなって、気分はウキウキである。

「お姉さま、早いんですね!」

「あらそれを言うならあなただって、そうなのではないこと。」

まぁそれは確かにそうだ。

「でもお姉さまは朝が苦手なんじゃありませんでしたっけ?」

「そうね。でもだからといって別に朝早く起きられないわけではないわ。今日は借りていた本を

図書室に返そうと思って朝早めに家をでてきたの」

お姉さまは低血圧で朝が苦手らしい。なにせ、初めて祥子さまとちゃんとしゃべった事、

朝に祐巳をマリア像の前で呼び止めて、乱れていたタイを直して注意してくれたことを

覚えていなかったのはそれが原因・・・・らしいから。

「もう、だいぶ寒くなってきたわね・・・・」

バスに乗り込んでお姉さまはそう言ったきり、外を眺めているのか黙ってしまった。

中は予想通り時間帯が関係しているのか、かなりすいていた。

お姉さまと一緒の登校。お姉さまと一緒の時間。

会話はないけれど、それだけでうれしいから。遠くから見るだけじゃなくて、

隣にいることができるのは・・・・・・。

少しお姉さまに近づいて寄り添ってみる。大好きなお姉さまに触れていたいから。



バスがリリアンに着いた。

「ステップには気をつけなさい。」

「はい!!」

元気に返事をして、お姉さまの後に着いていく。

「そういえば祐巳はなぜ早く登校してきたのかしら?」

「えぇと、特に理由はないのですが・・・・・偶然早く起きてしまったのです。」

「そう・・・私と同じ図書館の利用というわけではないのね・・・・・」

「いえ、本当は放課後に行くつもりでしたが、せっかくですのでこれから図書館に行くつもりですよ。」

お姉さまも一緒のことだし・・・・・とは言えない。

「祐巳、先にお祈りしなさい」

マリア像のあるところまで歩いてきていた。

「では、お先に・・・・・・」

と、一歩踏み出しお祈りしようとすると

「あっ、祐巳お待ちなさい。」

「へっ・・・」

「その、気のない返事もやめなさいね。」

お姉さまはそう言って、目の前にいるマリアさまに負けるとも劣らない優雅で素敵な笑顔で、

祐巳に近づき、タイを直した。

「身だしなみはいつもきちんとね。マリア様が見ていらっしゃるから。」

お祈りをしおえて、今度はお姉さまの番。

その横姿をみてポ〜となってしまう自分になんだか危ない感じがしてしまうが、

そこらへんは考えないように。

「さぁ行きましょうか。」

「あっ、お姉さま待ってください。」

祐巳は尻尾をフリフリついていった。

目的地は図書室。Let’s go go!!



昨日となにも変わらない日常、校舎、そして昨日とほとんど同じままの図書室。

でも今日はお姉さまと一緒にいるだけで、祐巳にとっては全然違うから。

やっぱりお姉さまってすごい。

(昨日ここで感じていた感情が嘘みたい・・・・・・)

これからどんなことがあってもお姉さまの側は離れたくない。

ここは自分の場所でもあるから。祐巳にとって一番輝いている場所。

「もう終わったかしら。じゃあ行きましょうか。」

この気持ちをもっとストレートに伝えたいけど、まだそれはできない・・・・

それはこれからの課題だけれど・・・・

でも今の気持ちもなんとか少しでも伝えたいから・・・・

だから祐巳は図書室の中ということも忘れて元気に最高の笑顔で返事をした。

「ハイ、お姉さま」




え〜とようやくSSニ作目です。今回は紅紅でする。いや現生徒会では紅紅贔屓なもので。いいっすよね〜w
お互いホントに相手のことが好きというのがわかりますし、なんていっても主役ですから(ぇ
時間軸的にはいばらの森のちょいと前くらいを想定して書いています。図書室で勉強してますが、
自分は高校のときは学校の図書室や図書館、教室でがっつし勉強していました。家だと他の娯楽にあっさり負けてしまうので(笑
まぁそんな話はいいとして・・・・・・・相変わらず自分は文書きとしてはだめだめだと思わせる作品で(−w−
どうしても文章表現がうまくなくて、読んでてくどい文章と思われます。
もうちょいうまく書けるようになりたいっすね〜。次は旧紅白か旧白白の予定です。今書きかけは白白ですがね。
まぁ文のほうもなんとかがんばりたいです(−x−