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各少数民族の特徴

 山上に住む人々はこう歌う。「美しい山の上こそ、我らの真の天地である」と。
 山の民とは、中国、チベット、ミャンマー、モンゴリア系の民族である。各民族は言葉も習慣も異なり、生活上の価値観も違う。各民族たちは集団で中国南部、ミャンマーやラオスから移動する。敵を逃れ、より良い暮らしを求めるためだ。どこで暮らしても民族の誇りと古来の風習を守り続け、現代社会から離脱した独立独歩の生活を送っている。
   (ウィチット・クナーウット監督映画:「山の民」より引用)

※最近、この解説文を無断転載するサイトが増えています。必ず事前許可を得てからにして下さい。
【一例】
・某女子大生:卒論でそのまま流用。しかし、リス族とアカ族の写真を取違えて作成。そのまま大学内のサーバーにアップ
・某通販サイト:民族衣装の販売用に無断流用
・某旅行記サイト:少数民族の村訪問時の解説用に無断流用

リス族(Lisu):タイ語でリーソォー              

 人口約31,000人。標高600m以上の山に住み、主にチェンマイ県、チェンラーイ県、メーホンソン県、カンペーンペット県に110あまりの村を形成している。
中国雲南省(約47万人)、ミャンマー、ラオスにも分布。チベット東部を起源とし、約200年前に移動を開始し、中国雲南省やミャンマーのシャン州の2つの地域に移住。約70年前にサルウィン川沿いにミャンマーからタイへ移動して来た。
 言語はチベット・ビルマ語派イ語群に属する。

 タイの少数民族の中でも最も華麗な存在で、その民族衣装は原色の布を縫い合わせた、とても華やかな衣装である。これは祭り用の服でなく普段着だというから驚きだ。
 清潔好きの民族としても有名で、他民族が山の頂上や尾根付近に村を作るのに対して、リス族は、渓流沿いの川に近い場所に村を作り、毎日の水浴と洗濯を欠かさない。
以前はケシの栽培で現金収入を得ていたが、政府の取り締まりが厳しくなった昨今では、通常の換金農作物を作っている。

 名前のつけ方には特徴があり、長女ならアミマ、次女ならアルマ、三女ならアサマというように名前が固定している。男性も同様。

 結婚は一夫一婦制だが、「嫁さらい婚」の風習があり、若者は、楽器を演奏しながら気に入った娘に近づき、ナンパを行う。言葉を使わずに彼女の心をとらえ、目と目で話が決まり、成功すれば林の茂みへと消え入る。
その後、仲間と一緒に女性を家からさらっていき、話をつけた上で数日後女性の両親に正式にプロポーズに行く。
 農業技術も高く、他民族より比較的裕福なため、リス族の男性はアカ族やラフ族の女性と結婚できるが、逆にアカ族やラフ族の男性がリス族の女性を娶るには、結納金が高すぎて難しいという。
 婦人は大変勤勉で我慢強く言葉少なく静かであり、数10キロの荷を担いで町までの長い道のりを歩く。


アカ族(Akha):タイ語でイーコォー    

 人口約50,000人。メーコック川流域やメーサイを中心としたチェンラーイ県にほぼ集中して約120の村が あり、標高1,000m以上の高地に、山頂近くの斜面にへばりつくようにして集落を形成する。
高床式の家に住み、男女の部屋が別々なのが特徴。
 中国雲南省、ミャンマー北部、ラオス西北部にも分布し、中国ではハニ族の中に含まれる。現在もミャンマーから続々と国境を越えてタイ国内に移住してきている。
 言語はチベット・ビルマ語派イ語群に属する。

 タイ国内のアカ族は、その衣装によってウ・ロ・アカ族(U Lo Akha)、ロイミ・アカ族(Loimi Akha)、ウ・ビャ・アカ族(U Bya Akha)の区別がある。
 女性の民族衣装は、銀貨や銀細工、ビーズ等ををあしらったカブトの様な重い帽子をかぶり、黒いミニスカートに脚絆といういでたちで、帽子は農作業はおろか就寝時もこのままだ。帽子を脱ぐと悪霊が頭から入ってしまうそうだ。
 アカ族の女性は温和で素朴、やさしくてサービス精神に富み、働き者で知られる。

 アカ族は最も奇妙な習慣を持つ山の民で、あらゆる物に精霊が宿ると信じている、典型的なアニミズムである。
村の霊、山の霊、悪霊の他、光や風にも霊が宿るという。水の霊を恐れるために水浴をも嫌う。
村の入り口には、日本の鳥居と同様の門が築かれ、木製の男根と女性器の木偶が村の神様として祀られている。これは悪霊や疫病から村人を守り、子孫の繁栄や穀物の豊作を祈願するものである。
 奇祭として知られる村の大ブランコ乗りの儀礼は、豊作を願って稲穂が風に揺れる姿をブランコにイメージさせる「類感呪術」という説と、体を振ることで体内に潜む悪霊を振り払うという説と、昔アカ族の村に女の子が生まれなかった頃、森の中でブランコに乗った妖精を見つけて村に連れてきたことをお祝いするという説があり祈祷と、お清めの場で豚を殺して4日間儀礼を行う。

 アカ族はいわゆるフリー・セックスで、自由恋愛の民族で、どの村にも男が娘を抱く広場、ハントする場所がある。若い男女は毎日ここに集まり、黄昏の刻から親交を深め、めでたく成立したカップルは、闇に包まれた森の繁みの中へ消えていく。
ただし、双生児が生まれた場合は悲惨で、その赤ん坊は不吉なものとして殺さねばならない。生んだカップルも、村を追い出され、出産した家は焼き払われる。
 こんなカレン族の村にも、キリスト教の布教が入り、改宗した者もいる。民族衣装を着ていないアカ族は、銀のカブトや衣装を邪教の教えに基づくものとするキリスト教の考えに従った者である。


カレン族(Karen):タイ語でカリィアン、またはヤーン。自称はパガニャウ     

 人口約35万人でタイの山岳民族最大規模の人口を擁する。全体ではミャンマー東部のカレン州やカヤ州を中心に、3百万の人口を擁する。ミャンマーでは「コートレイ共和国」の建国を宣言し、約半世紀にわたって独立闘争を展開している。この「カレン民族同盟」を中心とするカレン独立軍には、日本人の戦士もいる。
誇り高く正義感の強い民族だが、気質は穏やかでやさしく、女性は純情可憐で恥ずかしがり屋が多い。
 言語はチベット・ビルマ語派カレン語。
 標高600m以上の山に住み、ポー・カレン、スゴウ・カレン、ブエ、トンスー、パネエサンスなどの支族に分けられ、”首長族”と知られるパダウン族もカレン族の一派である。このうち、タイ国内にはポー・カレンとスゴー・カレンがいる。ミャンマーでのカレン族迫害が激しくなった18世紀末頃からサルウィン川を渡ってタイに流入してきており、メーホンソンを中心に、チェンラーイ、チェンマイ、ターク、カンチャナブリなどの各県に広く分布している。
 少数民族の中では数少ない、”ケシを栽培しない民族”、”象を調教できる民族”として知られる。
 以前は高床式のロングハウスに親族の複数世帯が集住する慣行があったが、現在では核家族化が進んでいる。
 宗教は、平地居住のカレンは仏教徒が多く、山地居住のカレンはアニミズム信仰が多く、ミャンマー側のカレンはキリスト教徒が比較的多い。

 女性の民族衣装は、未婚者と既婚者で異なるのが特徴。未婚の女性は、処女性を意味する白の木綿で織ったワンピース風の貫頭衣を着る。衣装は1枚しかなく年に1度、新年の祈りの際にしか新調しないため、水に濡れても乾くまで着ている。
既婚者は紺を基調とした丈の短い上着に、赤系統を使った巻きスカートといったツーピースに変わる。これはアカ族と違って、婚前交渉を厳しく禁じているカレン族の性文化と深く関連している。もちろん婚姻は一夫一婦制だが、離婚も許されないそうだ。
 年頃の娘を持つ家は、娘の寝室の床に小さな穴を開けてやり、夜這いに来た男はこの穴から手を入れ合図をして、娘に応じる気があれば、外へ出かけておしゃべりに興じることになる。


ヤオ族(Yao):タイ語でヤオ。自称はミエン(Mien)   

 人口約41,000人。ナーン、チェンラーイを中心に、チェンマイ、ランパーン、メーホンソンの各県に約170の村がある。
 言語はミャオ・ヤオ諸語に属するミエン語。
 中国では、「瑶族」と書き、四川省、湖南省、貴州省などを起源とし、漢民族の圧迫などにより移動を開始。雲南省やヴェトナム、ラオス、ミャンマーなどを経て1920年代頃から一部がタイに住み着いた。
中国・チベット系民族で2,000年以上も中国南部に住んでいるので、中国文化の影響を受けており漢字や漢語が普及している。

 宗教的には、アニミズムより道教の影響が強い。容貌は中国人と似て、女性は色白で切れ長の目を持った美人タイプが多い。
 衣装はタイの気候では暑苦しいと思われるような、赤いモールの襟のついた厚手の濃紺の上着に、細かなクロス・ステッチの刺繍の入ったモンペ風のズボン、頭には細かな刺繍入りの布をターバンの様に巻き付ける。
この刺繍の技術こそヤオ族の少女にとって、親から学び受け継ぐべき重要な事項で、男たちは刺繍の腕前やセンスの良さで、結婚相手を考える。このため、娘たちは小さい頃からこの刺繍の習得と錬磨に励む。

 ヤオ族の恋愛観は、きわめてオープンで、彼らの語彙の中に、「強姦」という言葉がないと言われるほど、思春期を迎えた男女は、奔放に恋を渡り歩く。
正式に結婚していないカップルでも同棲が許され、子供ができた後に別れたとしても、連れ子を伴って新しい恋人の元へ行ける。男の側も誰の子であれ、子供は貴重な労働力として、跡取りとして歓迎する。
家名を存続させるためには男の子が必要で、男子が生まれない場合は、もう一人の妻を持つことができる。
 また、アカ族など他民族から養子を買う習慣もあり、買われた子供はヤオ族として大切に育てられる。


モン族(Hmong):タイ語でメェーオ    

 人口約11万人。中国では雲南省、貴州省、四川省に居住し、苗(ミャオ)族の一支族をなす。通称メオ族の名で知られるが、彼らにいわせるとメオは蔑称で自称はモン族。
ミャンマー南部に住む、モン・クメール系のモン族(Mon)とは全くの別民族。
 言語はミャオ・ヤオ諸語に属するモン語。
 聡明な点ではヤオ族と同じであるが物静かではなく戦闘的であり、中国との戦争が1,000年も続きミャンマー、ラオス、そして19世紀半ば以降にタイにやってきた。
戦闘的であるばかりでなく、頭脳明晰なため一番問題を起こしやすい民族である。
 現在タイ領内には、チェンコンなどラオスとの国境地帯を中心に、ペチャブーン、チェンラーイ、ナーン、プレー、ランパーン、メーホンソン、チェンマイ、タークなどの各県に200近くの村落がある。
 産業は農業の他、女性の手先の器用さを利用して、モン族独自の民族衣装や帽子、バッグ、アクセサリーなどの民芸品を作り現金収入の一助にしている。またケシ栽培の巧みさでは山岳民族随一といわれている。

 タイのモン族は、その民族衣装の特徴から青モン族(モン・ユア)と白モン族(モン・ドー)に大別され、文化、習慣、言語に若干の相違が見られる。
青モン族の女性はろうけつ染めによる濃紺のひだスカートが特徴で、これに色鮮やかなクロス・ステッチやアップリケが施してある。
一方、白モン族は通常はスカートをはかず、幅広の黒いズボンに青モン族と同じ青地に刺繍を施した前垂れを掛けている。冠婚葬祭など特別の場合に、大麻で編んだ白い無地のひだスカートをはく。

 モン族の結婚観は非常におおらかで、15,6歳で自由恋愛を許され、夜這いの風習がある。カレン族と違い女の子は、気に入った男性なら夜中に自分の部屋に迎え入れ、一緒に一夜を過ごす。
婚前交渉で子供ができると、女性としての能力を示したことになり、称賛される。他民族との通婚の習慣はない。
 子供が多いと貧乏に拍車がかかるので、ボランティアが家族計画のためにコンドームを配布して指に装着して使用方法を説明するが、実際の行為の際にも指にはめて行うので効果が無いそうだ。


ラフ族(Lahu):タイ語でムゥーソァー(狩人の意味)。自称はラーフー    

 人口約82,000人。中国雲南省(25万人)、ミャンマー(11万人)にも広く分布。
チベット東部または西南中国が起源といわれ、中国雲南省方面から移動を始め、ビルマ、ラオスなどを経由して19世紀末頃から一部がタイに流入してきて、チェンマイ、チェンラーイ、メーホンソン、タークの各県に定着。
 言語は、チベット・ビルマ語派のイ語群に属するラフ語。
 宗教的には、キリスト教の布教が最も浸透している民族である。
 産業は、焼き畑農耕による、米、穀物、野菜作り。唐辛子や綿、コーヒー豆などの他、現金収入のためにケシ栽培を行う村もある。
 住居は、高床式で寝室と居間に分かれ、トイレはない場合が多い。床下に放し飼いにされた豚や鶏などの家畜がすみやかに処理してくれる。
他の山岳民族に比べて多くの支族に分かれていて、それぞれ文化、習慣が少しずつ異なる。

【ラフ・ナ族(黒ラフ族)系】
▼ラフ・ナ族:チェンマイ県ファン郡から、メーコック川流域にかけて多くの集落があり、タートン村からチェンラーイへ下る途中の川沿いに大きな村がある。他にはターク県メソット、チェンラーイ県北部のミャンマー国境沿いにも村がある。
 民族衣装は、黒を基調とした巻きスカートのツーピースだが、正月以外はあまり着ることがない。これもラフ・ナ族の大半が敬虔なクリスチャンであることからも良くわかる。
▼ラフ・ニ(赤ラフ族):メーホンソン県のパイ、ソポンからミャンマー国境にかけての標高1,000m以上の高地に集落が見られる。チェンマイ県ファン郡からチェンラーイ県メースァイ郡にかけての一帯にも多くの村がある。
 民族衣装は、リス族との近縁を思わせるようにカラフルで、黒または青、緑などの生地に裾まわりや袖に赤いふちどりをした衣装が特徴。素材はヴェルベットが多い。
 宗教は、アニミズム信仰が強く、ラフ・ナ族よりも標高の高い険しい山中に村を構えることが多い。
▼ラフ・シェレ族:メーホンソン県ソポン近郊の山に7つの集落がある。他にはチェンマイ県ファン郡西部とメカチャン近郊にも数カ所ある。

【ラフ・シ族(黄ラフ族)系】
▼ラフ・シ・バ・ラン族
▼ラフ・バ・ケオ族
他に、ラフ・ク・ラオ、ラフ・ア・ガ、ラフ・ラ・バ族の存在が確認されている。



【参考文献】

※ 各民族の特徴は、下記2冊の書籍及び、タイ映画の「山の民」を参考に作成いたしました。発行年度からわかる通り、情報としても大変古く、また錯誤もあるかも知れないことをあらかじめ、お断りしておきます。また、各民族の人口に関しては、三輪 隆さんの許可を得て、三輪さんのホームページより最新の情報(1996年タイ社会福祉局調べのデータ)を転載しています。


 世界美少女図鑑 アジア編1 「タイ・黄金の三角地帯」
 三輪 隆 著 2,800円 1989年8月15日発行
 発行 巡遊社
 発売 星雲社 03-3947-1021(在庫僅かです)





 地球の歩き方 FRONTIER
 「タイ北部山岳民族をたずねて」
 ダイヤモンド社 1,480円 1990年11月10日発行(廃刊)