■「うわさのミニ巫女」大解剖 第三回


結実が麻由美と間違われてモデルとして呼ばれたことが発覚するというのが、本作の導入部として書かれるのだけれど、このファーストシーンのくだり、ページ数で24ページあたりくらいまで読んだ時点で、もう既に「やべえ、おもしれえ」と、心を掴まれてしまったといっても過言ではなかったと思う。

モデルに選ばれて浮かれる結実→岡枝高校写真部との待ち合わせでクラスメートの戸山と遭遇、ちょっと怪しい雲行き→モデルは人違いだったことが発覚→仕方ないのでこのままモデルをすることに。
という流れを、結美の内心のつぶやきをまじえてコミカルに描写していくのだけれど、よくよく考えなくても、間違われた結実本人にしてみれば、あまりとえいばあまりに居たたまれない状況におかれたわけで、その場で泣き出してもおかしくなかったのに、何とかその場では自分をごまかし、家に帰ってから結実は、みんなの前ではこらえていた涙を流してしまうのだった。

このシュチュエーションの作り方の上手さと、結実の感情の浮き沈みの描写の巧みさがとにかく際立つ。

もうひとつ、少し似たようなシュチュエーションが、二巻の「龍笛のひみつ」にもある。
せっかく一生懸命練習して吹けるようになった龍笛、いざ本番となったときに、本来龍笛を吹くはずだった達也が戻ってきて、本番で吹けなくなってしまう。
本人もひどく落ち込み、本当は悔しいし、本番で吹きたいと心から思っている自分に気づくのだけれど、周囲のことを気にして、平気なそぶりを見せ、ぐっとこらえてしまう。

こういった状況で結実は、その場で泣き出したり、反論したりという、感情を表に出した直接的なリアクションで状況を動かすことなく、自分の本心を隠したりごまかしたりしてしまう。
結実の感情表現が、まったくストレートでなく、どちらかといえば「感情表現が下手な子」といわれてしまうタイプの女の子で、それが丁寧に、そして面白く描かれている。

また結実本人は「自分が地味である」という自覚をもち、嫌々ながらやっている書道の性で友達ができづらいと思っている。
どちらかといえば、物語のヒロインとしては負の要素が多く、内面はやや屈折していて、自分を一歩引いた所においてしまう。
実際に結実になかなか友達が中々出来ないのも、友達が欲しい、ああしたいこうしたいと、心の中で思っていても自分への自信のなさから、中々一歩を踏み出せない、そんな性格が影響しているといえる。
それが、神社という場所にかかわることをきっかけに、真由美と話が出来て関係が進展したり、龍笛に挑戦したりと、少し積極的になることが出来て、地味で自信のなかった結実自身の世界が、すこしづつ広がっていく、というのが、本作のドラマ的な面白さではないかと思う。



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