□崖の上のポニョ 感想

http://www.ghibli.jp/ponyo/

ということで見てきました。

結論から先にいうとハヤオスキー的には肯定評価。
ハウルやもののけ姫、千よりも高評価。
ただし、最初に出た感想は
「楽しめそうで楽しめない映画」でした。

以下ポイントを分けててとりあえず取り留めなく思ったことを書いて見ます。

まず肯定面

・作画

冒頭のくらげのシーンから圧倒される。
とにかく全体がよく動く。
ほとんど止め絵がないくらい動きまくり。
ポニョにいたっては定型なんて気にしない、形が崩れることをおそれずふにゃふにゃ動かす。
いままでのジブリスタイルを完全に捨ててきているのは驚き。

・美術

描き込みは多いもののリアル系から離れ、直線を排し手描き感が強調されている。
それが、やはりセルキャラのようにパリッと固まった絵とは違う動きまくるキャラとよくなじむ。
ここも過去のジブリスタイルから脱却している。

・過去作品からの引用・類似性

カーアクションがカリオストロ
ポニョがコナン走り
水没する町はパンダコパンダ雨降りサーカス
ばあちゃんたちは紅の豚、ほか色々
フジモトとそのアジトはホームズのモリアーティ教授、等々
ハヤオネタオンパレードでハヤオスキーにやり。

・ストーリー

見ている間はどちらに向いているのかわからないが、終わってみれば、上手く着地。
まとまりはいい。

・主題

ブレはない、と思う。
そして意外と説教くさくない、
珍しく印象的な台詞がなく、代わりにイメージや暗喩が占める部分が多くそれだけに、初見だけでは掴みづらい。
まだちょっと自分の中で消化しきれていないが読み解き甲斐がある。


ここまで肯定評価、以下疑問点、気になった点

・作画

動かしすぎて、かえってそれがうるさく感じられてしまう。
話に集中できないときもちらほら。

・母親のキャラ付け

場面、場面によって、妻、働く女性、母親という色々な顔を見せて面白いが、場合によって母親より他の顔を優先させるところがあり、捉えずらい。
というか自分主義にみえる。
とてもパワフルな女性で、紅の豚のジーナやラピュタのドーラが若くて子持ちならこんな感じという意味で、ハヤオ的ヒロインの系譜を読み解くことが出来るが、上述とのアンバランスさが気になる。
母親なのに母親に徹していないことが違和感になるのか。
ただ、子持ちの働く女性には共感されそうなキャラかも。
あえてのそういう狙いのキャラ付けなのかも。
ただ、最大の疑問は、 なぜ子供に自分の名前呼び捨てさせるのか?今風ねらい?
クレしんじゃないんだから、これだけは不必要だったと思う。

・舞台設定

なぜ現代日本なのか?
お得意の無国籍欧州風でよかったんじゃないのか。
作画、美術面でリアルを捨ててきているのだから、現代日本をイメージさせる部分は却って邪魔に感じられた。
特にフジモトの存在が浮きすぎ
そのため日常から非日常への飛躍が中途半端。
むしろ日常と非日常の融合を目指したのか、だとしても段階の踏み方を誤った気がしないでもない。
この点、非日常の中で日常を描き、そこからさらに非日常へ飛躍するパンダコパンダに劣る。

・付きまとう死のイメージ

現実に存在するだろうけど、保育園と介護施設が隣あっているのはかなり意図的だと思う。
古代魚が盛大に泳ぎまくっていて生を主張しても、それは既に死んでいる過去の存在。
その他諸々、表面的に明るく描いているけれど、残す死の影が異様に濃い。

特に気になったのは海に飲まれた介護施設のシーン。
膜で覆われていても中で魚が泳いでいて、空気で満たされているのか謎。
竜宮城のようなイメージ。
また、前段の描写がなく、ばあちゃんたちが理由も明かされず、元気に歩けるようになっている、楽園のような美しさと幸福感に満たされ、ソウスケとポニョの行く末を見守ろうとしている。
はっきりいってこの場面、天国をイメージさせる。
同じとこにいるお母さんも海に飲み込まれて、死んでるんじゃないかとさえ思えた。
余談ながらここのばあちゃんたちにとっての楽園っぽいイメージは、原作版風の谷のナウシカに出てくる墓所の過去を記憶する庭園のイメージにダブる。
ばあちゃん達は、そこで浄化され幸福に包まれていたクシャナの兄達にダブる。
またポニョとソウスケが通るトンネルはあの世とこの世の境目をイメージさせる。
ポニョがそこを通るのを嫌がり、その先にばあちゃんたちがいて、一度魚に戻ってしまうので余計に。

これだけ死をイメージさせながら、死を直接描かないことが、却って気味悪く、深読みを誘発させる。

・ポニョのお母さん

でかい。これも暗喩なのか?
にしては露骨、巨大綾波並みに。
ソウスケのお母さんと含めて母親イメージ、ハヤオの女性観が、色々読み取れそう。

・まとめ

全体を通して、かつて自分が大好きだったのびのびとした「宮崎駿」が帰ってきたかも!と思わせる反面、老いてあの世が近づいてきた監督の死生観と、現代的なテーマにこだわる姿勢と、そしてどっかねじれた現実認識がどろどろのスープのように溶け合って、見た目と口当たりがなんか違う不思議な味わいで、とにかく見終わったあと、しばらくなんて表現していいかわからない、困惑が残った。

以下、その他余談

・エンディング短い!役職のわからないスタッフテロップなんてありえない!あと定番のエピローグシーンがない。やっぱ全員死んだんじゃ・・・

・ソウスケの台詞が微妙におっさんくさく説明的、「しめた」とか「しめしめ」なんて言わないだろう五歳の子供が・・・

・ポニョ、やっぱりかわいくないよなあ・・・



以上、だいたいいこんな感じ。

まとめると、ハヤオスキーセンサーがビンビン反応するんだけど、勃起しきれない欲求不満が残るそんな映画でした。
肯定面と疑問点、気になった点が、映画を見ながら始終衝突し続けてしまって、なので「楽しめそうで楽しめない映画」というのが最初に出てきた感想になったんじゃないかと思います。

いやいや、でもですね、20年来のハヤオマニアの自分としては、もののけ姫以来の残尿感に比べれば数百倍楽しめたことは間違いないです。
なにせ、もののけ以降、もう一回みたいと思わせる作品がなかったのに、今回は、繰り返し見ようという意欲がぐんぐんわいてきてますからね。
そして感想書いててこんなにノリノリなのは久しぶり、これは語りたくなる映画であることは間違いないんです。
そういう意味では、たぶんすごい好評価ですよ。

あとこれ見るにあたって、パンダコパンダを見ておくのは必須ではないかと思います。

(2008/7/23)
B00005RUTA パンダコパンダ&パンダコパンダ雨ふりサーカス
杉山佳寿子, 熊倉一雄, 太田淑子

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