しばらくしてアスランは細くて丈夫なヤシの木を何本か持って戻ってきた。そしてもう一度樹木の間に消えたかと思ったら今度はたくさんの長い樹皮を腕に抱えて帰ってくる。それらを見たキラの顔に疑問が浮かんでいるのを察してアスランは優しく微笑んだ。
「これで寝床を作るんだよ」
「それで?」
「ああ。ジャングルでは地面に寝るわけにいかないだろ?もし地面に寝てしまったら蛇や毒蜘蛛の餌食になってしまう。だから寝床を作るなら地面から離さないといけないんだが、この木と樹皮でそれができるんだよ」
 アスランはそれだけ言って早速ベッドを作るための準備をしていった。ベッドを作るのにちょうどよいと見定めた小さめの木4本の強度を叩いて確かめていく。そしてまずはその4本の木の枝や葉っぱをナイフでそぎ落としていき、何の動物も寄ってこない安全な幹だけに変えてしまった。次にその内の2本の木の間にヤシの木を水平状態に浮かせて樹皮で固定させていく。アスランの手にかかると樹皮はまるで紐のように柔軟で強度のあるものに変わっていき、樹皮がしっかりと木と木を結びつけた。そして横に浮いた1本のヤシの木に並行するように隣の木2本の間にアスランはまたヤシの木を水平状態に寝かせてくくりつけていく。この時点で4本の支柱に支えられた2本のヤシの木が地上80cmほど上で横向きに結び付けられた。アスランはその平行した水平のヤシの木2本の間にまた樹皮を何重にも何重にもクロスさせて、仕上げとばかりにそのクロスさせた樹皮の上に大きいヤシの葉を何枚も重ねていった。キラが何もできないでいる内にアスランはてきぱきとそれらを組み合わせて簡易的なハンモックのようなものを作り上げてしまった。
「すごい」
 キラの口から自然と歓声が漏れる。アスランは汗を流しながら空の天気を気にするように一度顔を上げ、またヤシの木を一本手に持ってその簡易ベッドよりも60センチほど上に更にヤシの木をくくりつけ始めた。そしてもう1本のヤシの木を隣のもう1組の木の間にまた同じようにくくりつけていく。そうして簡易ベッドよりも上に取り付けた2本の木の上に簡易ベッドを覆うようにパラシュートを調節しながら広げていく。そのパラシュートはまるで屋根のように簡易ベッドの上に覆われ、これで雨もしのげそうだった。完成した寝床を見ながらキラは感動してまじまじとそれを眺めていた。その間もアスランは近くの木でまた同じようにもうひとつのベッドを作っていく。全てが終わった時に一段落してアスランはようやく息をついた。
「これで寝床は大丈夫だろう」
「アスラン、君ってすごい」
 キラはアスランの思わぬ技術に興奮してつい拍手が飛び出した。アスランは和やかに苦笑して肩をすくめる。
「アカデミーで習ったんだよ。ジャングルの知識も全部アカデミーで習ったものだ。ザフトの兵士ならみんな知ってるよ」
 その言葉にキラは拍手する手をぴたりと止めて恥じるようにアスランをねめつけた。
「どうせ僕は何も知らないよ。アカデミーを出ないでザフトに入ったコネ軍人だからね」
「キラ、俺はそういう意味で言ったんじゃない。お前は知識なんかなくても十分すごいパイロットだよ。戦闘中のお前には何度苦労させられたか」
 焦ってフォローを始めるアスランに、キラは不意に悪戯そうな笑みを浮かべる。
「嘘だよ。僕なんかまだまだ何にも知らない未熟な兵士だもの。君の方がずっと先輩だって分かってるよ」
 じわじわとした暑さが二人を襲い、わずかな風が湿っぽい空気を二人へと運んでくる。キラはアスランを見つめ、ふんわりと笑った。
「アスラン、僕のベッドも作ってくれてありがとう」
「キラ…」
 アスランはキラの笑顔に胸がきゅっと変な風に縮み、顔が自然とほころんでいく。二人の間に長年信頼してきた者同士にしか生まれない温かい愛がこぼれんばかりにあふれ出した。キラはベッドが完成したことで二人分のパラシュートが手からなくなって開放され、突然元気が沸いてくる。
「アスラン、僕にも何か手伝わせて。君にばかり働かせるのは悪いから」
 そうしてキラはアスランに教わり今は動物除けのための火を熾(おこ)していた。枝と枝を摩擦させて小さな火がようやくともった時にはキラの全身からは先ほどを超えた汗が流れ落ちていた。ジャングルの湿っている枝で火を熾すのは本当に難しいものだったので、火がついた時には大きな喜びが沸き上がる。キラは教わった通り慎重にその火を大きなものへと膨らませていった。最終的にはぼうぼうと火がともりキラの顔が達成感で笑顔に染まる。
「できた!」
 その間アスランは綺麗な水を確保するために二つの簡易水筒を持ってどこかへと出かけていた。キラの火が完成した頃にアスランはたっぷり満たした水筒を持って戻ってくる。水筒の水は洞穴近くの岩でろ過された湧き水を汲んできたようだった。アスランはキラに水筒を渡し微笑んだ。
「キラ、火がたけたのか。すごいじゃないか」
「アスランが丁寧に教えてくれたからだよ。アスランも水、ありがとう」
 キラは猛烈に喉が渇いていたので早速口に水筒を当てて飲んでいく。冷たく透き通った水が喉を通っていき全身が潤っていくようでキラは幸せな気分になった。二人はその後それぞれの簡易ベッドに向かい合って座り、パラシュートの背面に入っていた栄養調整用のビスケットを食べて簡単な夕食をとる。空はもうとっぷりと夜に移り変わっていてジャングルの中は真っ暗だった。微細な月の光が差し込んではくるが樹木の下はまさに深淵の闇である。しかしキラが一生懸命おこした火はまだ元気よく燃え盛っていたので二人の周囲は明るかった。
「もう夜だからミネルバが来るとしたら明日になるな。こんな暗くては俺たちを探すにも探せないだろう」
 アスランは食事が終わり、赤服を脱いで簡易ベッドの下に適当にしくとベッドに横たわった。キラは静かな木々のどこかから響く虫の音に耳をすませていた。昼ごろ感じていた不安はもう消えている。水と食べ物を得て体が満足したせいか、段々とこの熱帯雨林に慣れてきたのか、落ち着いた気持ちでアスランにゆっくりと頷いた。
「シンたちならきっと悪態をつきながら僕たちを探してくれるよね」
「ああ、きっと探す前からぼろくそに言われているんじゃないか。たぶん今も悪口を言われてると思うぞ」
 アスランはかすかに笑って目をつぶった。シンの悪態を想像してキラの顔にも笑みが広がる。
「うん、『何で俺があの役立たずの隊長とフェイスの先輩を探さなきゃいけないんだ!』とか言ってるだろうね」
「はは、本当にその通りで面目ないけどな」
 キラが自分の簡易ベッドに体全体を預けると、樹皮で支えられたベッドがぎしりと軋み、しかし柔軟にキラを受け入れてくれた。キラが体を横たえると寝心地がいいとは言えないがしっかりとしたベッドの感触にキラは安心するように息を吐いてアスランに微笑んだ。
「後でみんなに謝らないとね。…おやすみ、アスラン」
「ああ、おやすみ」
 そうして二人は温かな明かりを感じながら、蒸し暑いジャングルの中で一時の眠りに落ちていった。




 数刻後、キラは暑さで寝苦しいながらも熟睡の中で寝返りをうつ。しかし突如として指に痛みを感じて目が覚めた。気が付いたら片腕がだらりと簡易ベッドから垂れて地面についている。
「なに?」
 地面に垂れていた手を慌てて引っ込めるが、指からずきずきとした痛みが広がりキラはベッドから上半身を起こした。夜もしんしんと更けているようで辺りは真っ暗だったが足元では小さな火がまだぼんやりとともっている。キラは自分の手をその光に照らし観察してみた。すると薬指から一筋の血が流れていて、そこが痛みを伴ってキラをさいなんでいるようだった。
「どうしよう」
 隣を見るとアスランが背中を向けてぐっすりと眠っている。キラの指は明らかに何かに噛まれてしまったようだったが、そんなことで寝ているアスランを起こすのは忍びないと思ってキラは自分で消毒しようと簡易ベッドからこっそりと抜け出した。足元を見る限り、危ない生物はもう去ってしまったようだった。この噛み口からして自分を噛んだのは蟻か蜘蛛だと判断する。蛇ではないようなので、仮に地面にまだ蟻や蜘蛛がいても靴を履いていれば安全だと判断する。キラは水筒を取り出して血が出ている指に綺麗な水をかけていった。しかし深く噛まれてしまったようでずきずきとした指の痛みが止まらない。キラはすっかり目が覚めてしまったので簡易ベッドに座り込み熱帯雨林が奏でる音をぼんやりと聞いて時を過ごす。しかしせっかくアスランが安全なようにとベッドを作ってくれたのに寝相が悪くて腕を落としながら眠るなんてと自分を責める気持ちがふつふつと沸きあがってきてじっとしてはいられなかった。
 そしてふと足元の火がもうすぐ消えそうなことに気付き、キラはアスランが焚き木用に持ってきた木を探してベッドの周りを静かに探し歩く。ようやくそれを見つけて小さくなってしまった火に燃料をくべた。すると火は徐々にまた大きくなり周囲を明るく照らしていく。
「キラ、何してるんだ?」
「起きちゃったの?ごめんね」
 キラが炎の前で立ち尽くしていると、アスランが簡易ベッドから出てきてキラの隣に並んだ。
「どうしたんだ?眠れないのか?」
 心配そうに自分を見つめてくるアスランにキラは視線をさまよわせる。アスランが安全なようにと頑張って簡易ベッドを作ってくれたのをずっと見ていただけに、キラはその努力をむげにするような自分の失敗を言いたくはなかった。
「何でもないよ。もう寝る。アスランも寝て?起こしてごめんね」
 キラはそう微笑んでアスランに背中を向ける。しかしアスランは何かを察したのか、キラの腕を掴んで引き止めた。
「キラ、」
 キラが振り返るとアスランの真剣な目がキラを真正面から見つめていてキラの心臓が刺激的な協和音で波打った。アスランはキラの腕を掴んだまま離さない。
「キラ、どうしたんだ?」
 キラはアスランのこの表情をよく知っていた。昔から大切な幼馴染のこの表情はかつて何度となく見てきたものだった。この顔はアスランが本当に真剣に人を心配している時の表情だった。キラは熱帯雨林という無限の緑色に囲まれながら、世界で一番惹かれてやまないその緑色の瞳に縫いとめられて魔術にかかったように自然と口が開いていく。
「さっき、寝ている時に…何かに指を噛まれちゃったみたいなんだ」
 アスランはそれを聞いてさっと表情を変え、キラの指を自分の前に持ち上げる。するとキラの指からはまだだらだらと血が流れていてアスランはそれを確認し顔を歪めた。キラが申し訳なくてアスランから視線を逸らしていると、アスランは躊躇いなくキラの指を口に含み、その血を吸い上げ始めた。
「ひゃ…っ…アスラン!?」
 アスランはキラの戸惑いも無視して指を吸い続けた。キラは痛みに顔をしかめるが、同時にアスランに指を吸われている事実に顔が真っ赤に染まっていく。体に火がともったように全身が熱くなった。心臓がどくどくと脈打って暴れまわり、キラは何とかアスランの口から指を離そうともがいた。
「ア、アスラン!そんなことしなくても大丈夫だって…!」
 アスランはようやくキラの指から口を離して、吸い上げた血をぺっと地面に吐き捨てる。キラが安堵して指を安全地帯に戻そうとしたら、アスランはキラを睨んだ。
「キラ、まだ駄目だ」
「え?…あ…ッ」
 もう一度アスランの口に指を含まれてしまってキラは限界を感じて頭の中がぐるぐると回っているような混乱に陥った。この状況がまったく理解できない。言い訳のしようがないほど自分の心臓がうるさく高鳴っていて体が震える。友人に消毒してもらってるだけだと自分に言い聞かせても体の熱は増すばかりだった。体中と同じように指まで赤く染まらなければいいと願いながらキラはアスランがこの行為を止めてくれるのをひたすら待った。指先から自分の動揺が伝わってしまいそうで恐怖を感じる。ようやくアスランはキラの指を口から離し、毒を含んだキラの血をもう一度地面に吐き出した。そしてアスランはキラの手を穏やかに離してやる。
「これで毒を吸い出せたと思う」
 キラはどくどくと指の先まで脈動が早まっていて、なんとかそれを抑えようと努力しながらお礼の言葉を搾り出した。
「あ、ありがとう、アスラン…汚いでしょ、ごめんね」
「汚くないよ。それよりお前まだ指が痛むだろ?ちょっと待っててくれ」
 アスランはポケットから小さな欠片を取り出してそれを口に含み、軽く噛んでからそれを自分の手のひらにぽんと出す。そしてキラの手を取って指の傷口にその欠片をすり込んでいった。すり込まれた時は少し痛みが走ったが段々と時と共に指先から痛みが引いていきキラは目を見開いた。
「あれ、痛みが薄くなってる…」
「そうだろ?このヤシの樹皮は鎮痛作用があるんだ。昼間見つけたから念のため取っておいたんだ。また痛くなったら塗ってやるから」
 キラは優しいアスランに胸がいっぱいになり、きゅんと音がしそうなほど心臓が激しく踊っていく。昔からアスランは何かあった時にはすぐにキラを助けてくれたが、それは今も変わっていないようだった。アスランは使い終わった小さな欠片を地面に捨ててキラに不思議そうな表情を浮かべた。
「でもキラ、お前何で噛まれてしまったんだ?やっぱり俺の作ったベッドが…」
「ううん違う、アスランのせいじゃないんだ!僕の寝増が悪くて…腕を落として寝ちゃってたみたいで…そのせいで…」
 本当に自分のせいだったのでアスランの反応が怖くてキラは段々と声が小さくなっていく。しかしアスランは柔らかく笑うだけだった。
「そうか。たいしたことなくてよかったよ。もしキラに何かあったら俺は生きてはいけな…」
 そこまで言ってアスランの言葉が急に止まる。キラが顔を上げてアスランを見つめたら、アスランは自分の発言に驚いたような表情を浮かべた後、その顔が徐々に赤く染まっていった。そしてそれにつられるようにキラの顔もまた際限なく紅潮していく。二人の間に今日何度目かという不自然で気恥ずかしい沈黙が再び降り立った。照れくさいようなむずむずとした雰囲気に二人の鼓動が早まっていく。キラは猛烈に喉が乾いていることを不意に自覚して水筒にぎこちなく手を伸ばすがその中が空なことに気が付いた。アスランもそれを目に留めて自分の水筒をゆっくりと差し出してやる。
「これ…飲んでいいぞ」
「あ…うん…ありがとう」
 キラはアスランから渡された水筒に手を伸ばすがアスランの手を意識しすぎて受け取る際に水筒を取り落としてしまう。
「あ、ごめん…っ」
「いや…大丈夫か?」
 キラがかがんでそれを拾い上げ、かすかに震える手で水筒の口を開いた。アスランもこの水筒の口から水を飲んだのかと思うとそれだけで緊張が増していく。友達同士だというのにこの不自然な緊張にキラは顔を赤らめたままその緊張を断ち切るようにぐいと水を飲みあげた。水筒をアスランに返して二人はまた黙り込んでいたが、キラがそろそろと口を開く。
「あの、じゃあ寝ようか?」
「あ、ああそうだな」
「うん、起こしてごめんね…あの、色々ありがとう」
 二人は自分の簡易ベッドに戻っていくがキラが簡易ベッドに乗ろうとした時、アスランが心配そうに声をかけてきた。
「キラ、お前一人で寝れるか?」
「えっ?」
「いや、別に変な意味じゃなくて、だってお前一回そんなことになってるから心配で」
「だ、大丈夫だよ!ほんとに気を付けるから!心配してくれてありがとう、アスラン」
「それならいいんだ。じゃあおやすみ」
 キラはドキドキしながらベッドに入り体を丸める。今度こそ絶対にアスランに迷惑をかけないように気を付けようと断固として心に決める。しかし鼓動は中々治まらず、頬の紅潮も相変わらずでキラは頭上を覆うパラシュートを少しだけずらして空を仰いだ。木々の隙間から見える星空が美しくて少しだけ心が落ち着いてくる。ふと流れ星のようなものが流れた気がして何かを願いたくなった。だけどその願いは言葉にはならずにキラの心で消えていく。隣ではアスランが頬を染めたままキラと同じようにもんもんと夜を過ごしていた。しかしお互いのそんな状況は互いには伝わらず夜は深まっていくばかりであった。






 朝になりキラの頭がぼんやりと覚醒していく。あの後は熟睡できたようで気持ちのいい朝だった。ゆっくりと目を瞬きキラが寝たまま伸びをするとアスランに穏やかに声をかけられる。
「おはよう、キラ」
「キラさん、アンタいつまで寝てるんですか」
「こら、シン!隊長に失礼よ!キラ隊長、おはようございまーす!大変でしたねー大丈夫でしたかぁ?」
 様々な声が重なってキラは瞬間的に頭が覚醒し、がばりと跳ね起きた。
「なになに!?え?もうみんな来てたの!?」
「ああ、30分前にミネルバの音がしたから俺が合図を送ったんだ。そしたらここまで来てくれた」
「まったく勘弁してくださいよ。行方不明だから探しに来てみれば、当の隊長はのん気に寝てるなんて幻滅です」
「ご、ごめんね」
 キラは簡易ベッドから抜け出して急いで地面に降り立った。見回すとシンとルナマリアが銃を持ちながら野営の後片付けをしてくれていた。アスランも自分の簡易ベッドを取り外している。キラは顔を青ざめさせて急いでシンたちを手伝おうとするが、「もう遅いです。あなたは自分の寝床でも片付けてください」とすげなく追い払われてしまった。




 その後4人はミネルバに戻り、ことの次第をキラはようやく聞くことができた。どうやら整備士が偵察型ジンとミネルバの接続ケーブルを最悪な方向で間違えて放置していた時にキラがこれまた最悪なタイミングで偵察型ジンのOSをいじってしまったらしい。それでジンとミネルバ両方に連動して不具合が生まれ、ジンが故障をきたした時とほぼ同時期にミネルバ本艦もエネルギーラインで不具合を起こして動けなくなっていたようだった。そんなになるほどの不具合が起きたのはやはりキラが接続ミスに気付かないまま相当深くまでOSをいじってしまったからであり、整備士も個別に怒られたがやはりキラも自ら艦長に頭を下げに行かざるを得なかった。謝罪が終わりキラが落ち込みながら艦長室から出てくると、アスランが部屋の前で待っていてくれた。
「キラ、大丈夫か?」
「アスラン…」
 キラは顔を俯けてアスランにも謝った。
「ごめんね。やっぱり僕のせいだったみたいだ…。今が戦時下じゃないから大事に至らなかったけどこれが戦闘中だったら…。君にもみんなにもすごく迷惑をかけちゃって…」
 ひどく落ち込んでいるキラにアスランは優しく笑いかける。
「誰も怪我をしなかったんだから大丈夫さ。それに艦長からの罰はもらったんだろ?」
「うん…罰としてミネルバにある全てのモビルスーツのOSを個々のパイロットに合うように改良しろだって…」
 大変な仕事をこれ幸いと与えられたキラは今後の睡眠時間を思って肩を落とした。しかしこれも自分の行動の結果だと受け入れ顔を上げる。
「まあ頑張るしかないよね。前からみんなのをいじりたいと思ってたし」
「俺も手伝うよ」
 アスランが柔らかく笑ってキラを励ましてくれたので、キラも微笑み返した。
「ありがとう、アスラン」
「あらあら?お二人ともこんなところにいましたの」
「ラクス!」
 ラクスが機嫌よくどこかから現れたのでキラはラクスの傍へと駆け寄っていく。しかしアスランの顔はむしろこわばっていた。
「ラクス、ごめんね。君が乗っているのに僕のせいでこんな面倒に巻き込んじゃって」
「あら、いいのですわ。わたくしはまったく気にしておりませんもの」
 にこやかに微笑むラクスにアスランは渋面を浮かべてゆっくりと歩み寄る。
「ラクス、あなたが言っていた『未確認飛行物体』は結局見つからなかったんだが…」
「まあ、そうでしたの。残念ですわ」
 現在ミネルバは平和の大使ラクス・クラインをプラントへと護送中の身であった。ラクスは地球軍とプラント間で行われた会議に参加したばかりである。そしてその帰り道にミネルバの窓の外を眺めていたラクスが未確認の物体を見たと騒ぎ、その騒ぎが大事になり急遽キラとアスランが偵察型ジンで確認に行かされたのだ。その途中であの墜落事故へと繋がったのである。アスランは疑わしい視線を隠そうともせずラクスを見やった。
「ラクス、本当に未確認の物体が外を飛んでいるのを見たのか?俺たちの乗っていたジンで追いつけないものなんてそうそうないはずだが…それもあんな辺鄙な場所で何が飛んでいるというんだ」
「確かに何もなかったよね。僕も頑張って探したけど」
 アスランの言葉にキラも同様の疑問を浮かべる。しかしラクスは穏やかに微笑んだままだった。
「あら、わたくしは窓辺にいた時に『未確認の物体を見ましたわー』と騒ぎましたけれども、その物体が窓の外を飛んでいたとは一言も言っておりませんもの。それにわたくしが見ますに…」
 ラクスはくすくすと手で口を抑えて楽しそうに微笑んだ。
「あなたたちは今回の任務で未確認だった『何か』をしっかりと見付けてきたのではありませんか?」
「え?」
「は…?」
 キラとアスランは二人同時に疑問符を浮かべたがラクスはますます楽しそうに笑うだけだった。
「色々と偶然が重なりましたが、恋に偶然はつきものですわね。偶然の神様はお二人の味方ですわ。頑張ってくださいな、キラ、アスラン」
 言うだけ言ってラクスは軽やかに去っていく。キラとアスランは判然としないまま目を合わせた。そして徐々にラクスの言葉の真意が理解できてきて、二人の顔が同時に赤くなり二人はまた気恥ずかしそうに目を逸らした。ミネルバの廊下に二人の心臓の音が重なっていた。






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フィ○ガー5さんの某名曲とタイトルがかぶってしまいました。でもそんな感じをイメージして書きました(笑)
サバイバルでの対処法はディ○カバリーチャンネルの「サ○イバルゲーム」という実践番組を参考にさせていただきました。とても面白い番組です!