卒業


 もうすぐ春です。 春はお祝い事がたくさんあります。 卒業や入学もその1つ。 私、氷室キヌはあと2ヶ月で六道女学院霊能科を卒業します。 そうそう、私や一文字さんや弓さんは今年にGS試験を受けて合格したんです。 六女の霊能科は3年生になるとGS試験を受けても良いんですよ。

 「おキヌちゃん! おはよう!」

 「氷室さん、おはよう」

 「あっ! 一文字さん! 弓さん! おはようございます!」

 学校の門を潜ろうとした私に一文字さんと弓さんが声を掛けてくれました。

 「あたしらももうすぐ卒業だな」

 「高校3年間なんてけっこう短かったですわね」

 「でも・・・・・・・・・いろんな事がありましたよね」

 昇降口に向かって歩いていく間のお話し、それも今日が最後。 私が青く晴れ渡った空を見上げながら言った一言に合わせて一文字さんと弓さんも何かを思い出すように空を見上げました。

 「ぷっクククククク」

 「どうしたんですの? いきなり笑い出すなんて・・・・・・・・・」

 「お、覚えてるか? おキヌちゃんが転校してきた日のこと、ククク、弓ったらようイキナリおキヌちゃんに絡むんだもんなぁ、ククク、いやぁあんときゃ焦ったぜ」

 「何を言ってるんですの!? 私は氷室さんに絡んだりしていませんわ!」

 「でもよう、弓も丸くなったよなぁ。 刺々しさが無くなったっつうか・・・偉ぶらなくなったつうか・・・」

 「ふ、ふん。 いつまでも子どもみたいにしていられませんわ」

 「老け込んだか?」

 「きーー!! 誰がよ!!」

 フフフ、言い争っていても2人とも笑顔です。 2人とも親友と呼べるくらい仲が良くなりました。 私も含めて仲良し三人組ですね。

 ・・・・・・・・・この当たり前の生活があと2ヶ月で終わりです。 クラス対抗の霊能戦、臨海学校、文化祭、体育祭、そしていつも変わらない楽しい生活・・・・・・・・・それがあとたった2ヶ月で終わってしまいます。

 卒業したらみんなバラバラです。 みんな目標がゴーストスイーパーなので、仕事で一緒になる事があるかもしれません。 だけど、今みたいに毎日顔を合わせることが出来ないと思うと、やっぱり淋しいです。

 一文字さんはエミさんの事務所で見習いをするみたいです。 タイガーさんが居るからかな? でもエミさんもタイガーさんも近接戦闘型ではないのでちょうど良いかもしれないですね。 弓さんは雪之丞さんの事務所に行きます。 何でも見習い時代は家ではなく他の事務所で修行するのが家の掟だとか何とか・・・雪之丞さんも今は立派なゴーストスイーパーです。 免許の取得と見習いの為に美神さんの事務所に来たときはびっくりしました。 結構すんなりOKになって・・・時給は・・・・・・雪之丞さんの名誉のため言えません(汗)

 私は・・・・・・美神さんはバイトをしながら大学に行っても良いと言ってくれました。 でも私は早く一人前のゴーストスイーパーになろうと思います。 そうすれば横島さんともまた一緒に仕事が出来ると思うから。

 横島さんはもう美神除霊事務所にはいません。 高校の卒業祝いに美神さんが本免許を渡しました。 小竜姫様が卒業祝いに横島さんの事務所を購入しました。 今はもう横島除霊事務所の所長です。 かなり繁盛しているみたいです。 美神さんが本免許渡すんじゃなかったと嘆いているのを思い出します。

 私が親しかった人はみんなそれぞれ違う所に行ってしまいます。 それが“卒業”するってこと何でしょうか? 卒業式にはお義父さんも、お義母さん、早苗お姉ちゃんもお祝いに来てくれると言ってます。 とても嬉しいけど、私は学校なんて初めてだから、こんな淋しい思いをするなら卒業したくないって思っちゃいます。

 「おキヌちゃん、何考え込んでんだよ?」

 「具合でも悪いんですの?」

 「え? あ、ううん。 なんでもないの。 ただ・・・・・・・・・ほんとにあと2ヶ月で卒業なんだなって思って・・・・・・」

 「そうですわね。 あと2ヶ月でここともお別れですわね」

 やっぱりお別れなんですよね・・・・・・こことも、みんなとも・・・・・・

 「そうだなぁ。 でもあたしらは変わんないんじゃないか?」

 「え?」

 「まぁ毎日は会えねぇかも知んないけど、あたしらが親友なのは変わんないしな。 それに会いたきゃいつだって会えるし、遊びにも行けるだろ? 別に外国行くわけじゃねぇし、みんな東京にいるんだしよ」

 「あなたよくそんな照れくさい事ポンポン言えますわね・・・」

 「だってそうだろ?」

 「まぁ、そうですわね。 働く場所が違っても私たちはずっと親友ですわ」

 そうか、そうなんですね。 私たちの関係までがなくなるわけじゃないんだ。 私たちはずっと友だち・・・ううん、ずっと親友のままなんですよね!

 「あたしは将来一流のGSになってガンガン稼いで、霊障で困ってる人たちを助けて回るんだ!」

 「それじゃ霊障で困ってる人はみんな、次はお金に困っちゃうじゃない」

 「うっ!?」

 「まぁ挫折しないようにする事ですわね。 私は家を継いで護っていかなくてはなりませんから」

 「はは〜ん。 誰かさんが婿さんに来てくれればいいけどなぁ〜?」

 「な、なに言ってるんですの!!? 私はそんな・・・一文字さんだってタイガーさんに見捨てられないように気をつけるんですわね」

 「タ、タイガーは関係ねぇだろ!」

 ふふ、そうなんですね。 卒業ってこういう事なんですね。 夢の為に踏み出す第一歩なんですね。 私はまだ一文字さんや弓さんみたいにちゃんとした夢は無いけれど、横島さんとまた仕事が出来るように頑張りますね。










・・・・・・・・・・・・・・・2ヵ月後

 「卒業生代表、氷室キヌ」

 「はい!」

 「答辞。 私は1年の2学期にこの六道女学院霊能科に転校してきました。 初めはクラスに溶け込めずにいた私にも友だちができ、心の優しさに触れる事が出来ました」

 一文字さん。 あなたの心の優しさが私はとても嬉しかった。 ありがとうございました。

 「時には衝突する事もありました」

 初めてのクラス対抗戦覚えていますか? 弓さんと一文字さんの衝突。 私は何も出来ずにいたけれど、2人が心を感じあってくれて、私とてもうれしかったです。

 「苦しい事、悲しい事、楽しい事、嬉しい事、様々な事がこの3年間にありました」

 臨海学校の時は大変でしたね。 一気に悪霊が押し詰めてきて・・・だけどみんなで力を合わせることが出来ましたよね。

 「私たちは、この学び舎で過ごした日々を胸に、今日、新しい第一歩を踏み出します。 これまで支えてくれたお父さん、お母さん、先生方、ありがとうございました」

 お義父さん、お義母さん、早苗お姉ちゃん、美神さん、一文字さん、弓さん、鬼道先生、シロちゃん、タマモちゃん・・・・・・横島さん。 ありがとう。 ありがとう。 江戸時代に生きた私の16年より、幽霊として過ごした300年より、とても幸せな、とても楽しい3年間を私にくれて・・・本当にありがとう。

 「卒業生代表・・・・・・氷室キヌ」









あとがき

時期はずれですが、卒業をテーマにした作品です。 おキヌちゃん中心で弓さんと一文字さんが出ていますが、他のキャラはゼロ。 おキヌちゃんの一人称小説ですが、楽しんで呼んでもらえたら嬉しいです。 生き返って、人生初の卒業。 心の葛藤があったらこんな感じかなと思って書いてみました。 今後も是非よろしくお願いします。

鱧天

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