Tanzanight

『Long way Home』 エピローグ

エピローグ

 「……………。」

 誰もいない部屋からベランダに出て、俺は放り出されていた片方だけのスリッパを手に取った。

 部屋に入ったときから、どこか空気が違うのは分かっていた。

 この部屋にはもう何度も入っているから香澄が居ない時だって初めてでは無いのだが、今日のこの部屋にある雰囲気は、いつものものではなかった。

 単に片付いている部屋というだけではなくて、誰かが住む前の、あるいは皆が引っ越してしまったあとの、家具が何も置いていない一室のような空気。それがこの部屋にも漂っていた。

 手に取ったスリッパを見る。その上に載っているのは、一枚の白く透ける羽根。

 その羽根をそっと手にとってみた。それはとても軽くて、手のひらが透けて見えるほどに澄んでいる。

 あまりに重さがなくて、目を離すとそこに本当にあるのかさえ分からなくなるようなその羽根を持ったまま、俺は空を見上げた。

 「やれやれ。またひとり、迷子が増えたか……。」

 空にはところどころに白い雲が浮かび、暖かな春の風が吹いている。

 その下に広がる周りの風景は春の陽気に満たされて、まるでそれがあるがままの幸せのような空気にあふれていた。そのまぶしすぎる光景を、俺は目を細めて眺める。

 「まったく、アイツも気が利かんなぁ〜。ヒントくらい置いて行ってくれてもいいだろうに……。」

 指先で羽根をクルクル回してみる。

 すると、どこかで嗅いだ覚えがある匂いがした気がして、なぜか口元が緩んだような複雑な表情になった。

 「これが…、ヒントってことか?」

 羽根はクルクル回り続ける。指先の羽根は、回すたびに風にしなって春の光の中で踊っていた。

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                                         〜fin〜

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