まるで海に映る空のようにきれいな水色の髪。
海のように大きく包んでくれる優しい腕。
オレは、二つの海に恋をした。





【ふたつの海】





船が出た。
彼女のいる地が遠ざかる。
期待はしていなかった。いや、しないようにしていた。
思考から全て追い出すように、追い出せるように、待ち伏せていた海軍に囲まれる。
正直、助かったと思った。

これで、考えなくて済む・・・

自虐的な笑みを唇に乗せ、すぐに元の表情に戻す。笑ってるヒマなんてなかった。
敵だったはずの野郎が囮になって、オレ達は彼女の元へ向かう。
彼女がいるはずの、待っているはずの岬へ。
だけど彼女は思った通りの答えを出した。
オレ達も、思った通りの別れを告げた。

王女様との別れは、一言も交わさずに終わってしまった。

船の中は沈んでいた。
口々に「さみしーーー・・・」とめそめそするオレ達に、なぜか一人平気な顔をしたゾロが喝を入れる。

「そんなに別れたくなきゃ力づくで連れてくりゃよかったんだ。」

バカが。それができてたら苦労しねえよ。
そう心の中で毒づいたが、単なる八つ当たりに過ぎないのはわかっていた。

・・・一番めそめそしているのはオレだ。

「好きなだけ泣いてろ。」

捨て台詞のように言い残されたそれは、オレの中に大きく波紋を広げて行く。

だがおとなしくめそめそしていられないのがこの船だ。
突然現れて仲間になったミステリアスな美女。
ありえない、空から落ちて来た船。
そして・・・本気で死ぬかと思った空島行き。

目まぐるしく回る日常が追われるように過ぎて、ようやくオレ達は本来の海に帰って来た。
どんなに恐ろしいと言われるグランドラインにだって、平穏な島はある。
そんな島にたどり着くたびに、オレは理不尽な理由をつけられてナミさんのお供として連れて行かれた。
そう、町があったのが不運。
それも、ある程度の大きさの町が。ある程度に店のある町が。

あの小さな船の自室に、これだけの服やらなにやらをどうやって詰め込んでいるのだろう。
オレは一抱えもある荷物を持たされて歩きながら不思議に思っていた。
前を歩くナミさんはまだ買う気満々なのか、店を物色しながら歩いている。

ようやくひと仕事終えた気分で船に戻ると、のんきな野郎共が晩飯を待ち構えている。
毎度お供をさせられるたびに、大飯喰らいの野郎共から飯が遅いと文句を言われた。
ナミさんに逆らえるヤツなんていやしねぇから、文句を言われるのは専らオレだ。

・・・気が知れねえ。

よくあれだけの別れをした彼女を忘れて、のんきに飯なんか食っていられるもんだ。

女性のお供をするのは光栄だったが、オレにもこの船のコックとしての責任がある。
買い出しにだって行くし、飯の用意にも手を抜けない。
だからそれをわかっているはずのナミさんは、いつもはルフィやチョッパーを連れ歩いていたはずだった。
なのにここのところはずっとオレばかりをお供に選んでいる。

船に戻った時に待ち構えていたのは腹を空かせた船長だった。
情けない顔をして、オレ達の方を恨みがましく見つめていた。

「腹減った・・・」

起き上がる気力もないのか甲板に直に倒れこんで見上げるその顔は、とても船長だとは思えないほどのアホ面を晒していた。

「荷物置いたら作るから、もうちょっと待ってろ。」

そう声をかけると、まるで絶望の淵から蘇るかのようにぱあっと笑顔を見せた。

ったく、人の気も知らねぇで。

町中歩かされてクタクタだった。
全く、さすがのオレでもナミさんの毎度の買物には付き合いきれなかった。
考えるヒマもなくあっちの店へ、こっちの店へと連れ込まれるのだから。
とっとと夕食の用意でもしたい気分だった。
オレはナミさんの後について部屋へ行き、荷物を降ろす。
するといつもは当たり前のような顔をしているナミさんが、オレに向かって楽しげに笑いかけてきた。

「ちょっとは元気出てきたじゃない。」
「!!」

オレは動揺を隠せず、その場に立ち尽くす。
別にオレとビビちゃんとの間になにがあったわけじゃない。
ただ、オレの気持ちは・・・確かにあの時、彼女にあった。

「ま、しばらくはあたしのお供で忙しいから、落ち込むヒマなんてないからね。」

それを見透かされていたのかどうかはわからないが、少なからず落ち込んでいたことは見抜かれていたようだった。

「全く・・・ナミさんには敵わないな・・・」

ははっ、とオレはうつむいて空笑いをする。
長い前髪が顔を隠してくれるのがありがたかった。

「今日は、ナミさんの大好物を作るよ。」

前髪と自分の手で表情を隠しながら、お礼の代わりにそう言って部屋をあとにする。

「とびっきりのをね。」

背中を向ける時、前髪と指の隙間からにっと笑った唇だけが見えた。

「みかん、たっぷり使っていいからね。」

大事なみかんの使用許可が出ることはあったが、そんなにたくさん使っていいと言われたのは初めてだった。
言われたと同時にポンと叩かれた肩が、いつまでもその重みを感じている。
叩かれた肩が、まるで情けないぐらいに彼女の優しさを受け止めたように思えた。

「では、豪勢に参りましょう。腕がなるよ。」

オレはそううそぶくと、後ろ手でひらひらと手を振った。
顔は、見せないまま部屋を出た。
・・・見せられなかった。

ソースを作りながら、オレはあらためてナミさんに感謝していた。
そう。忙しくて、本当に落ち込むヒマなどなかったことに思い至ったのだ。
そして落ち込むヒマができそうな時には、彼女が忙しくさせてくれていたのだ。
一体いくつの島でそんな気配りをさせてしまっていたのだろう。
この、無数に島のある海で。

・・・次の島からは、喜んでお供させていただくことにしよう。

ソースが焦げないようゆっくりとかき混ぜながら、オレはそんなことを考えていた。

夕食ができあがる頃にはもう、オレは顔を上げていた。
普段通りのオレを演じ、普段よりもちょっと豪勢な食事を並べる。
大事なみかんの特製のソースは、自分で言うのもなんだが絶品だった。
ナミさんにも満足してもらえたようで、オレはひと安心する。

サービスついでに、隠していた上等のワインを1本。
ナミさんとロビンちゃんに繊細なグラスを渡して、深い色の液体を注いだ。
野郎共は不公平だなんだと文句を言っていたが、どうせ味なんてわかりゃしねえんだからとエールを渡すと勝手に飲み始めた。
要するに飲めりゃいいんだ、こいつらは。

飲み始めるともうそこは宴会だった。
テーブルだろうが床だろうがお構いなしで騒ぎ出すのはいつものメンバー。
理由もなく騒ぎ出し、歌い出し、踊り出す3人。
その隅で瓶ごと酒をあおってるのが1人。
その隣で、騒ぐバカどもを優雅に微笑んで見つめているのが1人。
そして1人、テーブルでグラスを傾けるナミさん。

オレはナミさんのグラスにワインを注ぐと、他の奴らには聞こえないように耳元で囁いた。

「ご満足いただけましたか?」

てっきりいつものように余裕の笑みを返してくれると思ったのに、彼女は乱暴にグラスを離すといきなり耳を両手で押さえた。
驚いて顔を見ると、ナミさんは顔を真っ赤にしてオレを睨みつけていた。

はっきり言ってナミさんはザルだ。
こんなワイン如きで酔うはずもない。

オレはおかしくなって、少し意地悪に言ってみた。

「耳、感じるの・・・?」

「言うな!」

おかしくて笑うオレに、ナミさんのグーが飛んできた。
普段見られない一面を見られた気がして、オレはあえてそれを顔面に受ける。

楽しかった。

久々に、オレは心から笑っていた。
あの岬から離れた時からずっと、ほんのひとかけら引っかかっていたことが和らいでいくような気がした。
あの気持ちはウソではなかったけれど、これでよかったんだと思えるようになっていた。



喜んでナミさんのお供させていただくことにしたオレは、次の町でも一緒に買物に付き合った。
ナミさんと一緒にいれば余計なことは考える暇はなかったし、何より嬉しかった。
彼女に振り回されることが、彼女なりの優しさだとわかったから。

船に戻ると、ウソップとチョッパーが待ち構えていた。
ウソップはにやにやといやらしい笑いを浮かべて近づいて来て、からかうように言った。

「最近、おまえら仲いいじゃねえか。」

ウソップになにを吹き込まれたのか、チョッパーまでキラキラと目を輝かせてこっちを見上げていた。

「なにを期待してるのか知らねぇが、別にそんなんじゃねぇ。」

そう答えようとしたオレを遮るように、ナミさんが先に口を開いた。

「別にいいでしょ。」

それを聞いて調子に乗ったウソップは、「このこの」とひじでオレをつついてはからかう仕草を見せる。
オレはウソップをギロリとひと睨みしてやり過ごす。

ったく・・・人の気も知らねぇで。

だがオレは、ウソップの言葉を否定しないナミさんの方が気になっていた。
あんな風に言ったらウソップは誤解したまま、ますます調子に乗るだろう。
そんなことはナミさんだって百も承知のはずなのに。

オレはナミさんの後について荷物を部屋まで運ぶと、その疑問を口にした。

「ナミさん・・・なんでさっき、あんな言い方したんだよ。
あれじゃまるで『誤解して下さい』って言ってるようなもんだろ?」

だけどナミさんはまるでこともなげに答える。

「ああ・・・だってあんなの、何言ったって同じよ。」

・・・確かに。
心の中でオレは頷く。
あんな状態では例え否定したとしても、すればするほどからかってくるのが目に見えるようだった。
オレはあのガキくささにうんざりする。

だが待てよ。ということは・・・

「ナミさんは誤解されても構わないと思ってるって、自惚れてもいいのかな。」

ナミさんはまるで一瞬、耳を疑ったかのように勢いよく振り向いた。

「な、なにバカなこと言ってんの?それより早く荷物持って来てよ。」

ひどく動揺した様子のナミさんは、必死で平静を装うように言い放つ。
その様子が少しおかしくて、オレはまた調子に乗って悪戯心を起こす。

「ねぇ・・・」

オレは小さく笑って、耳元で囁いた。

「オレと、誤解されるようなことしようか。」

「なっ・・・!」

ナミさんはまたとっさに耳を押さえた。
顔が赤くなっていくのがわかる。

耳が弱いのはわかっていたから、今度は試しに軽く噛んでみた。
オレがクスクスとおかしそうに小声で笑っていると、ナミさんはオレを睨みつけていた。
真っ赤な顔で睨みつけているナミさんを見て、オレはようやくいつもの調子が戻っている自分に気づく。

「耳、感じるの?」

オレは悪びれもせず、同じことを聞く。
にんまりと唇を歪めて、堪えるように笑いながら。
ナミさんは悔しそうに顔を歪めて、やっぱりグーで顔を殴ってきた。
オレは避けもせず、甘んじてそれを受ける。
悔しさに唇を噛みしめているナミさんが、思いのほかかわいらしく見えた。
これではウソップじゃなくたって、からかいたくもなる。

唸るようにオレを睨みつけていたナミさんは、だけどすぐに呆れたような笑顔を見せた。
仕方のない子供を見るように、一人頷く。

「ま、それでこそサンジ君よね。」

うんうんと自分だけ納得したように腕を組み、何度も頷いている。

「・・・そんなに酷かったかな、オレ。」

簡単に見透かされていたことを恥じるように小さく呟く。
一応、隠してたつもりだったんだけど、な・・・

「自分だけ、一番不幸な顔してた。」

そう言ったナミさんの笑顔が少し寂しそうだったのは気のせいだろうか。

「ははっ、そりゃ酷いな。」

乾いた笑いが漏れた。
それはナミさんの言いぐさと、そんな顔をしていた自分と、両方が。

オレってそんなに未練がましかったっけ・・・

自己嫌悪に陥いる。
が、そんなヒマを与える隙もなく、額をぴしりと指で弾かれた。
額を押さえて思わず顔を上げると、笑顔のナミさんと目が合った。

「ほら、また。」

きょとんと目を見開いたまま動けないオレと、まだ指を構えているナミさん。
また同じ顔をしたら額を弾く気満々の顔をしている。
オレはおかしくなって吹き出した。
オレが笑い出すと、ナミさんもつられたように笑い出す。
二人はどちらからともなく、声を上げてお互いに笑い合っていた。



夜、オレはナミさんのためにキッチンに立っていた。
うるさい野郎共が寝静まるのを待って、ナミさんをこっそり呼び出したのだ。
買出しの途中で見つけた、オレンジのリキュール。
迷わず手を伸ばし、ナミさんへのお礼のためにこっそり仕入れた1本。
それをとっておきのカクテルに仕立て上げ、2つのグラスに注いだ。
おしゃれなバーカウンターとはいかないが、オレ達はテーブルに並んで座る。
ランプの灯りが、ほの暗いキッチンをやわらかく照らしていた。

オレはお礼を言う代わりに乾杯をして、2人でグラスを傾けた。

「うん、おいしい。」

そう言って笑うナミさんを、オレは満足気に見つめていた。
ナミさんの笑顔を、もっと見ていたいと思った。
だから楽しそうに話す彼女の話を、オレは黙って聞いていた。
だがお姫様にはそれがご不満だったようで、オレは上目遣いで睨まれた。

「なによ、サンジ君もなんか喋ってよ。」

不満そうに唇を尖らせるところなんかも愛らしい。
まるでオレを誘ってるのかと思わせる。

「口説き文句だったらいつでも。」

ちょっと気取った口調で言うと、ますますナミさんは不機嫌そうな顔になった。

「・・・せっかく元気になったのに、全く変わらないのね。」

ぽつりと言ったナミさんの言葉はため息混じり。
グラスを置き、視線をオレに向けたまま、きっぱりと、はっきりとした声で言った。

「ねぇ、はっきり言わなきゃわからない?」

オレは面と向かって見つめられて、心臓が高鳴るのを感じていた。
それはいつかと同じ、忘れようとしていたものと同じ鼓動。

「あたしは、世界一不幸な顔をした人を幸せにしてあげたかったんだけど。」

言われると同時に体が動いていた。
それがオレのことを示すのだと理解する前に、体が反応していた。
抱きすくめた体は思いのほか細く、これ以上力を入れれば折れてしまいそうだった。
触れた唇は熱く、確かな反応を返していた。
文句を言おうと開いた唇から、オレは無造作に侵入する。
細い腕で形だけの抵抗を返す彼女の唇は、だけど侵入したオレを拒んだりはしなかった。

唇を離し、体を後ろから抱き締める。
右に、左に、甘く耳を弄ぶ。

「ちょ、ちょっと、まっ・・・!」

ナミさんはオレの唇から逃げるように、顔をそらした。
オレは逃げた耳を更に追う。

「なに・・・?」

オレは耳から唇を離さないまま、彼女の体を前に倒す。
手を伸ばすと、タイトなミニスカートから想像通りの下着が現れていた。

「もうちょっと、ほら、順序ってものが・・・!」

倒されながらも文句を言うナミさんの顔は上気したように赤い。
だけど言葉とは裏腹に、触れたそこは顕著に反応を示していた。

「そりゃ、やめろって言われたらやめるけど・・・ねぇ?」

触れた下着はまるでその役目を果たしているのか疑問に思うような紐状のもの。
それは下着の線が出ないようになっているものだとわかっていても、男心をくすぐらずにはいられない。

「!!」

下着という名の紐を横にずらすだけで彼女の敏感な場所に触れられる。

うわ、脱がしやす・・・っ!

ついそう言いそうになるのを抑えて、オレは彼女に触れた。
もう、既にオレを迎え入れる準備を始めているソコは、オレの指すら歓迎するように纏わりつく。
ナミさんはテーブルに突っ伏したまま、必死に声を抑えていた。

「こんなになってるのに・・・説得力ないよ、ナミさん?」

「!!」

一瞬ナミさんが振り向いて睨みつけたが、指を敏感な部分に移動させると、喘ぐように背中を反らした。
オレは後ろから覆い被さるように、また唇で耳を弄ぶ。
だが彼女は苦しそうに耐えているだけ。
息づかいは荒くても、喘ぐ声は聞こえてこない。
声を出さないように耐えている彼女の声が聞きたくて、オレは反対の手で乳房の淡い先に触れた。
ビクリと体が動くと同時に、微かに聞こえた声。
オレはようやく満足して、もう既にオレを迎える準備の整ったソコに指を沈めた。

「ん・・・っ!」

「もう・・・いいでしょ?」

簡単に迎え入れたソコから指を抜き、オレは確認するように尋ねた。
返事はなかったが、小さく洩れた声が肯定していた。

オレは服の下ではちきれそうだった自分を取り出し、彼女に沈み込んだ。

「あっ、あっ、あっ・・・!」

ゆっくりと侵入するごとに、彼女の声が小さく響く。
だがそれでも声を抑えようとする彼女がたまらなかった。
オレが奥まで入りきると、ナミさんは背中を反らして体を震わせる。
締めつけるような彼女の中に、オレもうっかり声が出そうになる。

「動くよ・・・?」

言って、オレはゆっくりと動き出す。

「だ、ダメ・・・っ」

小さく拒んだ声。
だけどその身体はオレを迎え入れて、確かな反応を返していた。
始めはゆっくりと、そして段々と激しく出入りするオレを、彼女は微かな声と息づかいで迎え入れていた。

肌の触れ合う音。
オレと彼女の息づかい。
そして、甘く切ない喘ぎ声。
全てがオレを奮い立たせる。

もう、止まらねぇ・・・!

ひときわ激しく動き出すと、ナミさんも観念したように声を我慢するのを止めた。
オレの動きに合わせて彼女の声が大きくなる。
そうして最後に深く突き入れたとき、彼女は大きく背中を反らして最後の艶声を上げた。
オレは何度か身体を震わせると、脱力したように彼女に多い被さる。

激しい息づかいだけがキッチンに響いていた。

豊かな胸と細い腰に抱きついていたオレは、幸せを抱き締めている気分だった。
なのに、その幸せが発した言葉はきつい一言。

「・・・重い。」

まだ荒い息で喋るナミさんは、恨みがましい目でこっちを見ていた。

「いつまで、抱きついてんのよ・・・」

「あ、ああ・・・」

オレは慌てて体を起こして抜こうとしたとき、ガチャリとイヤな音がした。

「・・・・・」
「・・・・・」

ドアを開けたままの体勢のロビンちゃんと、目が合った。

「あら、失礼。」

パタン。

笑顔で、静かに、冷静に、ドアは閉められた。

そのあとのキッチンでの大惨事は思い出したくもない。
ともかくオレは次の日、八つ当たりという名の大怪我で朝食を作るハメになる。

散々オレに当り散らしたナミさんは次の日、どんよりと膝を抱えてイスの上に座っていた。
オレが大怪我で朝食を作っている間、ずっとなにか恨みがましい言葉を呟いている。

「ナミさん・・・そんなに怒らないでよ。」

「別に怒ってなんか・・・」

ブツブツと文句を言っていたナミさんは、恨みがましい目でこっちを見た。
そして大きなため息をつく。

「はぁ・・・私ってば不幸な女・・・」

その言葉を聞いてオレはおかしくなる。
これじゃまるで立場が逆だ。

「大丈夫。今度はオレが、不幸な顔した女性を幸せにしてあげるよ。」

そう言うと、ほんのり頬を赤らめたナミさんがそっぽを向いた。

「ふ、ふん、だ。ちょっとやそっとじゃ幸せになんてならないんだから。」

ちょっぴり拗ねた仕草がまたかわいらしい。
そう思える自分が、ここにいた。

「いいよオレ、気は長い方だから。」

そう笑いかけると、彼女も呆れた笑いを浮かべた。

「覚悟はいいのね?」

「ナミさんこそ、オレがしつこいのは知ってるでしょ?」

そんな自虐的なことを言ってみると、ナミさんはオレの額をぴしりと弾いた。

「言ったでしょ。サンジ君を幸せにしてあげたいって。」

腰に手を当て、偉そうに仁王立ちをしている。
さっきまでの沈みようはどこへやらだ。

「もう二度と、あんな顔はさせてあげない。そんなことも言わせてあげない。」

そう言うなり、唇を塞がれた。
そしてすぐに離れると、また偉そうなポーズで立つ。

「またあんな顔になったらそんなヒマ無くしてあげる。
またそんなこと言いたくなったらその口塞いであげる。」

「ナミさん・・・」

「だから・・・ロビンの口止め用に、ちょっといいワインでも用意しといてよね。」

ナミさんはまたちょっと頬を赤くして、ぷいと離れてまたイスに座ってしまう。
そして「お腹が空いた」と朝食の催促。

「はい、ただいま。」

オレは笑って朝食の準備を再開する。

オレは彼女の笑顔が見たくて、とびっきりの朝食を作るだろう。
毎日、毎日、これからもずっと。
彼女の笑顔のために、なんでもするだろう。

水色の髪が思い出に変わった頃。
オレは、大きく包み込むように優しい、だけどちょっと気まぐれな海に恋をした。





【End】





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