歴史の部屋

極東国際軍事裁判所


判決 付属書


《Aの部》


目次


付属書番号  主題                        英文頁

A−1    「ポツダム」宣言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

A−1−a  日本国政府条件付受諾・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

A−1−b  日本国政府条件付受諾に対する国務長官回答・・7

A−1−c  日本国の最後的受諾・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

A−2    降伏文書・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

A−3    「モスコー」会議協定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

A−4    極東国際軍事裁判所設置に関する特別宣言・・・・16

A−5    極東国際軍事裁判所条例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

A−6    起訴状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29


極東国際軍事裁判所判決


付属書A−1


「ポツダム」宣言 (原資料92枚目)


      1945年7月26日


「アメリカ」合衆国、「イギリス」連合王国及び中華民国の三国政府首班による宣言


(1) われら合衆国大統領、中華民国政府主席及び「グレート・ブリテン」国総理大臣は、われらの数億の国民を代表し、協議の上日本国に対し、今次の戦争を終結するの機会を与うることに意見一致せり。

(2) 合衆国、「イギリス」帝国及び中華民国の巨大なる陸、海、空軍は、西方より来れるその陸軍及び空軍によりて幾倍に増強せられ、日本国に対し最後の打撃を加うるの態勢を整えたり。右の軍事力は日本国が抵抗を終止するに至るまで同国に対し戦争を遂行せんとする全連合国の決意により支持せられかつ鼓舞せられおるものなり。

(3) 決起せる世界の自由なる人民の力に対する「ドイツ」国の無益かつ無意義なる抵抗の結果は、日本国国民に対し極めて明白なる範例を示すものなり。現在日本国に対し集結されつつある力は、抵抗せる「ナチス」に対し使用せられたる時、全「ドイツ」国人民の土地、産業及び生活様式を必然的に廃墟と化せしめたる力よりは、測り知れざるほど強大なるものなり。われらの決意により支持せらるるわれらの軍事力の最高度の使用は、日本国軍隊の不可避かつ完全なる壊滅を意味すべく、また同様不可避的に日本国本土の完全なる荒廃を意味すべし

(4) 無分別なる打算により日本帝国を滅亡の縁に至らしめたるわがままなる軍国主義的助言者により日本国が引き続き支配せらるべきかまたは日本国が理性の経路を歩むべきかを日本国が決定すべき時期は到来せり。

(5) われらの条件は左のごとし。

われらは右条件より離脱することなかるべし。右に代わる条件存在せず。われらは遅延を認めず。

(6) 無責任なる軍国主義が世界より駆逐せられざれば、平和、安全及び正義の新秩序が生じ得ざることをわれらは主張するものなるをもって、日本国国民を欺瞞し誤導して世界征服の挙に出でしめたる者の権力及び勢力は、永久に除去せられざるべからず。

(7) 右のごとき新秩序が建設せられ、かつ、日本国の戦争を惹起し遂行する能力が破砕せられたることの確証あるに至るまでは、連合国の追って指定すべき日本国領域内の諸地点は、われらがここに指示する根本的目的の達成を確保するため占領せらるべし。

(8) 「カイロ」宣言の条項は履行せらるべく、また日本国の主権は本州、北海道、九州及び四国並びにわれらの決定する諸小島に局限せらるべし。

(9) 日本国軍隊は完全に武装を解除せられたる後各自の家庭に復帰し平和的かつ生産的なる生活を営むの機会を得しめらるべし。

(10) われらは日本人を民族として奴隷化せんとし、または国民として滅亡せしめんとするの意図を有するものにあらざるも、われらの俘虜を虐待せる者を含む一切の戦争犯罪人に対しては峻厳なる正義に基づき処罰を加うべし。日本国政府は日本国国民の間における民主主義的傾向の復活強化に対する一切の傷害を除去すべし。言論、宗教及び思想の自由並びに基本的人権の尊重は確立せらるべし。

(11) 日本国はその経済を支えかつ公正なる実物賠償の取り立てを可能ならしむるがごとき産業を維持することを許さるべし。ただし日本国をして戦争のため再軍備をなすことを可能ならしむるおそれあるごとき産業はこの限りにあらず。右目的のため、原料の支配はこれを許さざるも、その入手は許可せらるべし。日本国は将来世界貿易関係への参加を許可せらるべし。

(12) 前記諸目的が達成せられ、かつ日本国国民の自由に表明せる意思に従い平和的傾向を有し、かつ責任ある政府が樹立せらるるときは、連合国の占領軍は直ちに日本国より撤収せらるべし。

(13) われらは日本国政府が直ちに全日本国軍隊の無条件降伏を宣言し、かつ右の行動における同政府の誠意につき適当かつ充分なる保証を提供せんことを同政府に要求す。

右以外に日本国に残されたる途は迅速かつ完全なる壊滅あるのみとす。

極東国際軍事裁判所判決


付属書A−1−a


日本国政府条件付受諾 (原資料95枚目)


在「ワシントン」・D・C・「スイス」公使館

                1945年8月10日


謹啓 日本国政府よりの訓令に基づき在「スイス」日本公使が「スイス」国政治局に対し左記事項を「アメリカ」合衆国に伝達することを依頼し来たりたるを通告するの光栄を有しそうろう。

『常に世界平和の大義を高揚せんと切望し、これ以上の戦争の継続によりてもたらさるる災害より人類を救わんとの御思し召しより、敵対行為の速やかなる終焉を熱望し給う天皇陛下の御命令に従い、日本政府は、数週間以前当時中立関係にありたる「ソ」連政府に対し、敵国との和平回復のための周旋を依頼せり。不幸にしてこれら和平のための努力は失敗したるをもって、日本政府は、一般的平和の回復を庶幾せらるる天皇陛下の聖旨に従いて、かつ戦争のもたらす無限の苦難を可及的速やかに終息せしめんと欲して、以下の事項を決定せり

『日本政府は、米英及び中華民国の首脳者達により、1945年7月26日「ポツダム」において発せられ、その後「ソ」連国の署名を得たる共同宣言に列挙せらるる諸条件を、該宣言が君主としての統治者たる天皇の大権を侵害するいかなる要求をも包含せざるものとの了解の下に、受諾するの用意あり

『日本政府はこの了解が保証せらるることを真実希望し、かつその旨の明白なる指示が速やかに与えられんことを熱望す』


 右「メッセージ」の通達に当たり、日本公使は日本政府と米国政府が「スイス」国を通じてその回答を送達せらるることを要請するものなる旨付言致しおりそうろう。同様の請願が「ソ」連政府並びに「イギリス」政府に対しては「スエーデン」国を通じ、中華民国に対しては「スイス」国を通じて通達中に御座そうろう。在「ベルン」中華民国公使は、「スイス」国政治局を経て、すでに前記通達を接受致しそうろう。

なお本件に関し、米国政府の回答を接受し、かつこれを本使の本国政府に通達するため、何時にても貴命に応ずべき用意あることを何卒御承知おきくだされたくそうろう。


 願わくば閣下本使の深甚なる敬意を再び御確認あらんことを


            グラスリー

            「スイス」国臨時代理公使


国務長官

 ジェームズ・F・バーンズ閣下

付属書A−1−b


日本国政府条件付受諾に対する国務長官回答


       1945年8月11日


謹啓

 8月10日付貴翰の受領を確認致し、これが回答として、「アメリカ」合衆国大統領の指示により、「アメリカ」合衆国、「イギリス」連合王国、「ソビエット」社会主義共和国連邦、中国の諸政府のために、貴政府により左記通告を日本政府宛通達せらるべく、貴下に御送付致すことを御通知申し上ぐる光栄を有しそうろう。

 『「ポツダム」宣言の諸条件を受諾し、ただち「該宣言が君主としての統治者たる天皇の大権を侵害するいかなる要求をも包含せざるものとの了解の下に」との申立を含めたる日本政府の「メッセージ」に関して、われわれの立場は左のごとし。

 『降伏の瞬間より、天皇及び日本政府の国家統治の権能は、降伏条項を実施するため適当と認むる措置を執る連合国軍最高司令官の権力化に服せしめらるるものとす。

 『天皇は「ポツダム」宣言の諸規定を実施するに必要なる降伏条項を日本政府並びに日本大本営により署名するの権限を与え、かつこれを保証することを要求せらるべく、またすべての日本の陸海空軍当局並びにその所在の何処たるを問わず、これが支配下にあるすべての部隊に対し作戦行動を中止し武器を引き渡すべき旨の天皇自らの命令を発すべく、かつ最高司令官が降伏条項の実行するに必要なりとするその他の命令を発することを要求せらるるものとす。

 『降伏と同時に、日本政府は俘虜及び一般抑留者を指令通り連合国輸送船に乗船せしめ得る安全なる場所に移送するものとす。

 『日本の最終の政治形態は、「ポツダム」宣言に従い、日本国民の自由に表明せる意志により確立さるるものとす。

 『「ポツダム」宣言に述べられたる諸目的が達成さるるまで、連合国軍は日本に駐屯するものとす』

 貴下に対し、改めて深甚なる敬意を表し申しそうろう。


「スイス」国臨時代理公使

  マックス・グラスリー殿

極東国際軍事裁判所判決


付属書A−1−c


日本国の最後的受諾 (原資料99枚目)


在「ワシントン」・D・C・「スイス」公使館

              1945年8月14日

謹啓、本使はここに8月10日の弊通牒をもって御通報申し上げおきそうろう日本政府よりの通告に対する「アメリカ」合衆国、「イギリス」連合王国、「ソビエット」社会主義共和国連邦並びに中華民国の諸政府の回答を本使の本国政府に伝達かた御依頼の8月11日の貴通牒に関し申し上ぐるの光栄を有しそうろう。

 本日20時10分(スイス時間)「スイス」国駐箚日本国公使は「スイス」国政府に下記書面を送達し来たり、四同盟国政府に対するこれが伝達かたを求め申しそうろう。

 『「アメリカ」合衆国、「グレート・ブリテン」国、「ソビエット」連邦及び中華民国の諸政府宛1945年(昭和20年)8月14日付日本国政府の通告。

 『「ポツダム」宣言の諸条項の受諾に関する8月10日の日本国政府の覚書、並びに8月11日付をもって「バーンズ」米国々務長官により送付せられたる「アメリカ」合衆国、「グレート・ブリテン」国、「ソビエット」連邦、及び中華民国の諸政府の回答に関し、日本国政府は左のごとく右四カ国政府に通告するの光栄を有し申しそうろう。

 『1、天皇は「ポツダム」宣言の諸条項の日本の受諾に関し詔勅を発布致されそうろう。

 『2、天皇は「ポツダム」宣言の諸条項を実行するに必要なる諸条項をその政府並びに大本営により署名するの権限を与えかつこれを保証するの用意を有し申しそうろう。天皇はまた、すべての日本の陸、海、空軍当局並びに所在の何処たるを問わずその支配下にあるすべての部隊にその作戦行動を停止すべき旨の命令を発し、武器を引き渡し、かつ上述の諸条項遂行のため、連合軍最高司令官より要求せらるるその他の命令を発するの用意を有し申しそうろう。』

閣下に対しここに重ねて深甚なる敬意を表し申しそうろう。


                 「スイス」国臨時代理公使

                       グラスリー


「スイス」国臨時代理公使

  グラスリー殿(←アメリカ合衆国の「国務長官 ジェームズ・F・バーンズ殿」が正しいだろう)

極東国際軍事裁判所判決


付属書A−2


降伏文書 (原資料101枚目)


 下名はここに合衆国、中華民国及び「グレート・ブリテン」国の政府の首班が1945年7月26日「ポツダム」において発し、後に「ソビエット」社会主義共和国連邦が参加したる宣言の条項を日本国天皇、日本国政府及び日本帝国大本営の命によりかつこれに代わり受諾す。右の四国は以下これを連合国と称す。

 下名はここに日本帝国大本営並びに何れの位置にあるを問わず一切の日本国軍隊及び日本国の支配下にある一切の軍隊の連合国に対する無条件降伏を布告す。

 下名はここに何れの位置にあるを問わず一切の日本国軍隊及び日本国臣民に対し敵対行為を直ちに終止すること、一切の船舶、航空機並びに軍用及び非軍用財産を保存しこれが毀損を防止すること、及び連合国最高司令官又はその指示に基づき日本国政府の諸機関が課すべき一切の要求に応ずることを命ず。

 下名はここに日本帝国大本営が何れの位置にあるを問わず一切の日本国軍隊及び日本国の支配下にある一切の軍隊の指揮官に対し自身及びその支配下にある一切の軍隊が無条件に降伏すべき旨の命令を直ちに発することを命ず。

 下名はここに一切の官庁、陸軍及び海軍の職員に対し、連合国最高司令官が本降伏実施のため適当なりと認めて自ら発し又はその委任に基づき発せしむる一切の布告、命令及び指示を遵守しかつこれを施行することを命じ並びに右職員が連合国最高司令官により又はその委任に基づき特に任務を解かれざる限り各自の地位に留まりかつ引き続き各自の非戦闘的任務を行なうことを命ず。

 下名はここに「ポツダム」宣言の条項を誠実に履行すること、並びに右宣言を実施するため、連合国最高司令官又はその他特定の連合国代表者が要求することあるべき一切の命令を発し、かつかかる一切の措置を執ることを天皇、日本国政府及びその後継者のために約す。

 下名はここに日本帝国政府及び日本帝国大本営に対し現に日本国の支配下にある一切の連合国俘虜及び被抑留者を直ちに解放すること、並びにその保護、手当、給養及び指示せられたる場所への即時輸送のための措置を執ることを命ず。

 天皇及び日本国政府の国家統治の権限は、本降伏条項を実施するため適当と認むる措置を執る連合国最高司令官に服せしめらるるものとす。

 1945年9月2日午前9時4分日本国東京湾上において署名す。


 大日本帝国天皇陛下及び日本国政府の命によりかるその名において

         重光葵


 日本帝国大本営の命によりかつその名において

         梅津美治郎


 1945年9月2日午前9時8分日本国東京湾上において合衆国、中華民国、連合王国及び「ソビエット」社会主義共和国連邦のために並びに日本国と戦争状態にある他の連合諸国家の利益のために受諾す。


 連合国最高司令官        ダグラス・マックアーサー

  合衆国代表者            C・W・ニミッツ

  中華民国代表者           徐永昌

  連合王国代表者           ブルース・フレーザー

  「ソビエット」社会主義        中将クズマ・N・ヂェレヴィヤンコ

  共和国連邦代表者

  「オーストラリア」連邦代表者    T・A・ブレーミー

  「カナダ」自治領代表者       L・ムーア・コスグレーン

  「フランス」共和国臨時       ジァック・ル・クレルク

  政府代表者

  「オランダ」王国代表者       O・E・L・ヘルフリッヒ

  「ニュージーランド」自治領代表者  レオナルド・M・イシット



  ―−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


日本国天皇の布告


『詔書

朕は昭和20年7月26日米、英、支各国政府の首班が「ポツダム」において発し後に「ソ」連邦が参加したる宣言の掲ぐる諸条項を受諾し、帝国政府及び大本営に対し連合国最高司令官が提示したる降伏文書に朕に代わり署名し、かつ連合国最高司令官の指示に基づき陸海軍に対する一般命令を発すべきことを命じたり。朕は朕が臣民に対し敵対行為を直ちに止め、武器を措き、かつ降伏文書の一切の条項並びに帝国政府及び大本営の発する一般命令を誠実に履行せむことを命ず。


  御名御璽


     昭和20年9月2日


              内閣総理大臣

              各 国務大臣』


《訳者注=判決付属書A第14頁には右布告は引用符なしで『布告』として掲載されているが、その日本文は、自明の理由に基づいて、降伏当時の日本政府が公表したままを引用符に入れて採録した。なお英文には『御名御璽』以下、各国務大臣の副署までは省略されているが、これも右と同様理由で採録した》

極東国際軍事裁判所判決


付属書A−3


「モスコー」《外相》会議協定 (原資料105枚目)


 「ソビエット」社会主義共和国連邦、「イギリス」連合王国及び「アメリカ」合衆国の各外務大臣ないし国務長官は「ベルリン」会議において再確認せられたる決定すなわち右三国外務大臣は定期的に協議すべしとの「クリミア」会議の決定に基づき1945年12月16日より12月26日に至る期間「モスコー」に会合せり。これら三国外務大臣の会合において非公式かつ瀬踏み的基礎の下に討議が行われし結果、次の諸問題に関し、協定成立を見るに至れり。

       ×××《中略》×××

5、 最高司令官は日本降伏条項の履行、同国の占領及び管理に関する一切の命令並びにこれが補充的指令を発すべし。すべての場合において実行行為は連合国側の日本における唯一の執行権力たる最高司令官の指揮の下に、かつ同司令官を通じ、遂行さるべし。最高司令官は重要なる事項に関する命令を発するに先だち《連合国対日》理事会と協議をなしかつその助言を受くべし。事態緊急なる場合最高司令官はこれら重要なる事項に決定をなすことを得るものとす。

       ×××《以下略》×××

極東国際軍事裁判所判決


付属書A−4


特別宣言書

極東国際軍事裁判所の設定 (原資料106枚目)


 枢軸諸国家の不法なる侵略戦争に反抗せる合衆国並びにこれが連合諸国家は戦争犯罪人は裁判に付せらるべきものなりとの意図の宣言を随時なし来たりたるがゆえに

 日本と戦争状態にありたる連合国の諸政府は1945年7月26日「ポツダム」において降伏条項の一としてわれらの捕虜を虐待せる者を含む一切の戦争犯罪人に対しては峻厳なる処罰を加うべきことを宣言したるがゆえに

 1945年9月2日日本東京湾において調印されたる日本の降伏文書により、日本側調印者は、天皇並びに日本政府の命に基づきかつこれを代表して、「ポツダム」における右宣言に規定されたる条項を受諾したるがゆえに

 右降伏文書により、日本国家を統治する天皇並びに日本政府の権能は、降伏条項を実施するため適当と認むる措置を執る権能を付与せられたる連合国最高司令官の権力下に服せしめらるるに至れるがゆえに

 下名は連合国により日本軍隊の全面的降伏を遂行すべき連合国最高司令官として指名せられたるがゆえに

 合衆国、「グレート・ブリテン」国及び「ソ」連邦は、1945年12月26日「モスコー」会議において、日本による降伏条項の履行につき考究したる上、中華民国の同意をも得て、最高司令官が降伏条項を実施せしむるための一切の命令を発すべきことを合意したるがゆえに

 然るがゆえにここに連合国最高司令官たる本官、「ダグラス・マックアーサー」は本官に付与されたる権限により戦争犯罪人に対し峻厳なる正義に基づき処罰を加うべき事を要求する降伏条項遂行のため左の通り命令し規定す

第1条 平和に対する罪又は平和に対する罪を含む犯罪につき訴追せられたる個人又は団体員又はその双方の資格における人々の審理のため、極東国際軍事裁判所を設置す

第2条 本裁判所の構成、管轄及び任務は本官により本日承認せられたる極東国際軍事裁判所条例中に規定せられたるところによるものとす

第3条 本命令中のいかなる事項も戦争犯罪人の審理のため日本又は日本が戦争状態にありたる連合国のいかなる領土内に設置せられ又は設置せらるべき他のいかなる国際、国内若しくは占領地法廷、委員会又はその他の裁判所の管轄をも妨ぐることなきものとす

    本、1946年1月19日 東京において

   本官の署名の下にこれを発す

               連合国最高司令官

                  陸軍元帥

               ダグラス・マックアーサー

極東国際軍事裁判所判決


付属書A−5


極東国際軍事裁判所条例


第1章 裁判所の構成 (原資料108枚目)


第1条 裁判所の設置

極東における重大戦争犯罪人の公正かつ迅速なる審理及び処罰のためここに極東国際軍事裁判所を設置す。

裁判所の常設地は東京とす。

第2条 裁判官

本裁判所は降伏文書の署名国並びに「インド」、「フィリッピン」国により申し出でられたる人名中より連合国最高司令官の任命する6名以上11名以内の裁判官をもって構成す。

第3条 上級職員及び書記局

(イ)裁判長 連合国最高司令官は裁判官中の一名を裁判長に任命す。

(ロ)書記局

(1)裁判所書記局は連合国最高司令官の任命に係る書記長の外必要員数の副書記長、書記、通事その他の職員をもって構成す。

(2)書記長は書記局の事務を編成しこれを指揮す。

(3)書記局は本裁判所に宛てられたる一切の文書を受理し、裁判所の記録を保管し、裁判所及び裁判官に対し必要なる書記事務を提供し、その他裁判所の指示する職務を遂行す。

第4条 開廷及び定足数、投票及び欠席

(イ)開廷及び定足数 裁判官6名が出廷せる時右裁判官は裁判所の正式開廷を宣すことを得。全裁判官の過半数の出席をもって定足数の成立要件とす。

(ロ)投票 有罪の認定及び刑の量定その他本裁判所のなす一切の決定並びに判決は、出席裁判官の投票の過半数をもって決す。賛否同数なる場合においては裁判長の投票をもってこれを決す。

(ハ)欠席 裁判官にして万一欠席することあるも爾後出席し得るに至りたる場合においては、その後のすべての審理に参加すべきものとす。ただし、公開の法廷においてその欠席中行なわれたる審理に通暁せざるの理由により、自己の無資格を宣言したる場合においては、この限りにあらず。

第2章 管轄及び一般規定 (原資料109枚目)


第5条 人並びに犯罪に関する管轄

本裁判所は、平和に対する罪を包含せる犯罪につき個人として又は団体員として訴追せられたる極東戦争犯罪人を審理し処罰するの権限を有す。

左に掲ぐる一又は数個の行為は個人責任あるものとし本裁判所の管轄に属する犯罪とす。

 (イ)平和に対する罪 すなわち、宣戦を布告せる又は布告せざる侵略戦争、若しくは国際法、条約、協定又は誓約に違反せる戦争の計画、準備、開始、又は遂行、若しくは右諸行為の何れかを達成するための共通の計画又は共同謀議への参加。

 (ロ)通例の戦争犯罪 すなわち、戦争の法規又は慣例の違反。

 (ハ)人道に対する罪 すなわち、戦前又は戦時中なされたる殺人、殲滅、奴隷的虐使、追放、その他の非人道的行為、若しくは犯行地の国内法違反たると否とを問わず、本裁判所の管轄に属する犯罪の遂行として又はこれに関連してなされたる政治的又は人種的理由に基づく迫害行為。

上記犯罪の何れかを犯さんとする共通の計画又は共同謀議の立案又は実行に参加せる指導者、組織者、教唆者及び共犯者は、かかる計画の遂行上なされたる一切の行為につき、その何人によりてなされたるとを問わず、責任を有す。

第6条 被告人の責任

何時たるとを問わず被告人が保有せる公務上の地位、若しくは被告人が自己の政府又は上司の命令に従い行動せる事実は、何れもそれ自体右被告人をしてその起訴せられたる犯罪に対する責任を免れしむるに足らざるものとす。ただしかかる事情は本裁判所において正義の要求上必要ありと認むる場合においては、刑の軽減のため考慮することを得。

第7条 手続規定

本裁判所は本条例の基本規定に準拠し手続規定を制定し又はこれを修正することを得。

第8条 検察官

 (イ)主席検察官 連合国最高司令官の任命に係る主席検察官は、本裁判所の管轄に属する戦争犯罪人に対する被疑事実の調査及び訴追をなすの職責を有するものとし、かつ右の最高司令官に対して適当なる法律上の助力をなすものとす。

 (ロ)参与検察官 日本と戦争状態にありし各連合国は、主席検察官を補佐するため、参与検察官1名を任命することを得。

第3章 被告人に対する公正なる審理 (原資料111枚目)


第9条 公正なる審理のための手続

被告人に対して公正なる審理を確保するため、左記の手続を遵守すべきものとす。

 (イ)起訴状 起訴状には平易、簡単かつ適切に各起訴事実の記載をなすべきものとす。

各被告人は防御のため十分なる時期において、被告人が了解し得る国語をもって記載せられたる起訴状及びその修正文並びに本条例の各写しを交付せらるべきものとす。

 (ロ)用語 審理並びにこれに関連せる手続は英語及び被告人の国語をもって行なわるべきものとす。

文書その他の書類の翻訳文は必要なる場合請求に応じ提供せらるべきものとす。

 (ハ)被告人のための弁護人 各被告人はその選択にかかる弁護人により代理せらるる権利を有す。ただし本裁判所は何時にても右弁護人を否認することを得。被告人は本裁判所の書記長にその弁護人の氏名を届け出ずべし。もし被告人が弁護人により代理せらるることなく、かつ公開の法廷において弁護人の任命を要求せしときは、本裁判所は右被告人のために弁護人を選任すべし。かかる要求なき場合においても、本裁判所は、もしかかる任命が公正なる裁判を行なうにつき必要なりと認むるときは、被告人のために弁護人を選任することを得。

 (二)防御のための証拠 被告人は自ら又は弁護人により(ただし両者によるを得ず)すべての人証を尋問する権利を含めて防御をなすの権利を有す。ただち当裁判所が定むるところの適当なる制限に従うものとす。

 (ホ)防御のための証拠の顕出 被告人は本裁判所に対し書面をもって人証又は文書の顕出を申請することを得。右申請書には人証又は文書の存在すと思料せらるる場所を記載すべし。なお右申請書には人証又は文書により立証せんとする事実並びにかかる事実と防御との関連性を記載すべし。

本裁判所が右申請を許可したる場合においては、本裁判所は右証拠の顕出を得るにつき情況上必要とする助力を与えらるべきものとす。

第10条 審理前における申請又は動議 審理の開始に先立ち本裁判所に対してなさるる動議、申請その他の請求はすべて書面をもってなさるべきものとし、かつ本裁判所の処置を仰ぐためこれを本裁判所書記長に提出すべきものとす。

第4章 裁判所の権限及び審理の執行 (原資料113枚目)


第11条 権限

本裁判所は左記の権限を有す。

 (イ)人証を召喚し、その出廷及び証言を命じ、かつこれを尋問すること。

 (ロ)各被告人を尋問し、かつ被告人が尋問に対する答弁を拒否したる場合において、右拒否に関する《訴訟関係人の》論評を許可すること。

 (ハ)文書その他の証拠資料の提出を命ずること。

 (二)各人証に対し、宣誓、誓言、又はその本国の慣習による宣言をなすべきことを命じ、かつ宣誓を執行すること。

 (ホ)本裁判所の指示する事務を遂行するための職員を任命すること、これには嘱託による証拠入手の権限を含む。

第12条 審理の執行

本裁判所は左記の事項を遵守すべし。

 (イ)審理を起訴事実により生じたる争点の迅速なる取調べに厳格に限定すること。

 (ロ)不当に審理を遅延せしむるがごとき行為を防止するため厳重なる手段を執り、かつそのいかなる種類たるとを問わず、起訴事実に関連なき争点及び陳述を排除すること。

 (ハ)審理における秩序の維持を図り、法廷における不服従行為につきこれをは署名に係るものと本裁判所において認めらるる文書。

 (2)報告書にして、国際赤十字社又はその社員、医師又は医務従事者、調査員又は情報官、その他右報告書に記載せられたる事項を直接知得せりと本裁判所に認めらるる者の署名又は発行に係るものと本裁判所において認めらるるもの。

 (3)宣誓口供書、供述書、その他署名ある陳述書。

 (4)本裁判所において起訴事実に関係ある資料を包含すと認めらるる日記、書状又は宣誓若しくは非宣誓陳述を含むその他の文書。

 (5)原本を即時提出し得ざる場合においては、文書の写し、その他原本の内容を第二次的に証明する証拠物。

 (二)裁判所に顕著なる事実 本裁判所は公知の事実、又は何れかの国家の公文書及び報告書の真実性若しくは何れかの連合国の軍事機関又はその他の機関の作製に係る調書、記録及び判定書の真実性についてはその立証を要求せざるものとす。

 (ホ)記録、証拠物及び文書 審理記録の謄本、法廷証、及び裁判所に提出せられたる文書は本裁判所の書記長に付託せられ、法廷記録の一部を構成するものとす。

第14条 裁判の場所

最初の裁判は東京においてこれを行なうべく、爾後行なわるることあるべき裁判は本裁判所の決定する場所においてこれを行なうものとす。

第15条 裁判手続の遂行

本裁判における手続は左記の過程を経べきものとす。

 (イ)起訴状は法廷において朗読せらるべし。ただし被告人全員がその省略に同意したる場合はこの限りにあらず。

 (ロ)裁判所は各被告人に対し「有罪」を認むるや又は「無罪」を主張するやを質すべし。

 (ハ)検察官並びに各被告人(代理せられ居る場合は弁護人に限り)は簡単なる冒頭陳述をなすことを得。

 (二)検察官及び弁護人は証拠の提出をなすことを得べく、裁判所は右証拠の受理いかんにつき決定すべし。

 (ホ)検察官並びに各被告人(代理せられ居る場合は弁護人に限り)は各人証及び証言をなす各被告人を尋問することを得。

 (ヘ)被告人(代理せられ居る場合は弁護人に限り)は裁判所に対し陳述をなすことを得。

 (ト)検察官は裁判所に対し陳述をなすことを得。

 (チ)裁判所は判決を下し、刑を宣告す。

第5章 判決及び刑の宣告 (原資料116枚目)


第16条 刑罰

本裁判所は有罪の認定をなしたる場合においては、被告人に対し死刑又はその他本裁判所が正当と認むる刑罰を課する権限を有す。

第17条 判決及び審査

判決は公開の法廷において宣告せらるべく、かつこれに判決理由を付すべし。裁判の記録は連合国最高司令官の処置を仰ぐため直ちに同司令官に送付せらるべし。刑は連合国最高司令官の命令に従い執行せらるべし。連合国最高司令官は何時にても刑につきこれを軽減し又はその他の変更を加うることを得。ただし刑を加重することを得ず。


  マックアーサー元帥の命令により


 《米陸軍》参謀団員・陸軍少将

      参謀長 リチャード・J・マーシャル


 《米陸軍》軍務局員・陸軍代将

      軍副官部主任 ビー・F・フィッチ

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