判決に対する声明


 去る9月15日、東京地方裁判所において新井秀雄さん(元国立感染症研究所主任研究官)に対してなされた判決はきわめて不当なものと考えます。
 まず、判決は厳重注意処分と夏季勤勉手当のカットには関係が無いとし、無効確認の訴えを却下しました。しかしながら、勤勉手当がカットされる理由としては文書による厳重注意以外に考えられません。そして、行政処分ではない「厳重注意」という処分によって不利益が生じたとしても、裁判に訴えることすら出来ないとすれば、権利回復の道すら閉ざされることになります。こうした判決は断じて認めるわけにはいきません。
 また、判決は、感染研が主張する施設等の安全対策を認め、「具体的な危険はない」と述べています。しかし、新井さんは当然感染研の安全対策を十分検討し、それでもバイオハザード(細菌やウィルスが施設から漏れ出しておこる感染事故)が起きる可能性があるため、その危険性を主張してきたのであり、裁判所は新井さんの主張をまともに検討したとは思えません。とりわけ問題なのは、新井さんの主張がさも施設の欠陥のみを指摘しているかのように論理を斬り縮めている点にもあります。多くの災害は施設の欠陥・人為的ミス等の複合的な要素で起きるのであり、新井さんが様々な事例を紹介しているのもこうした認識によるものです。だからこそ、安全対策の最も重要な要素は施設の立地であり、病原体等実験施設は人家から出来るだけ離す必要性を述べているのです。しかし、判決は立地の問題について全く触れていません。
そして驚くべきことに、感染研当局が病原体等の漏出の危険性を明確に否定しているので、新井さんが「危険性がある」と信じるには根拠がない、と判決は述べています。感染研の危険性については、差し止め訴訟において英国の科学者2名が「移転を考慮すべき」と結論付けたように、現在まで議論があることがらです。まして、ことは生命に関わる重大な問題です。こうした問題がある時に、施設管理者が言う「安全性」は正しく、管理当局に対する反論・疑問が許されないという論理は、言論弾圧を肯定する論理であり断じて認めるわけにはいきません。
 差し止め訴訟における倉田氏の「署名偽造」事件について、新井さんは厳しく批判しました。その根底には他人の署名を偽造するような行為は科学者に対する信頼失墜を招くという憂慮があり、さらに裁判所ひいては国民を欺いた行為に対する純粋な怒りからでした。しかしながら、判決は署名偽造が発覚してから倉田氏が突然始めた弁明をそのまま認め、新井さんの批判には理由がないとしています。このような判決は、今後裁判所で争われる様々な科学的鑑定の信用性を疑わせることにもつながり、裁判所自らを貶める判決だと言わざるをえません。
 判決は新井さんが感染研の危険性を指摘したことは、感染研の社会的評価を低下させ、信用を毀損したとしています。しかし、よくよく考えてみれば、感染研が1988年、建設に反対する住民等を機動隊を使って排除し、建設を強行した時点から、自ら社会的評価を低下させる行いを続けてきたことが忘れられています。奇しくも、地域住民の方々は率直に対話を続けてきた新井さんのような方が感染研にいたからこそ、細い信用の糸を持ち続けてきたのです。
 表現の自由は、民主的な社会を作っていくためにも、最も尊重されるべきものです。まして、生命の安全に関わる事柄について、私たちは様々な情報を知る権利があります。「新井秀雄さんを支える会」は、言論弾圧を肯定したこの度の判決を弾劾し、今後も新井秀雄さんの控訴審を支援し続けていく所存です。

2005年9月26日
新井秀雄さんを支える会


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