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訴状


東京都(※管理者注;プライバシー保護のため住所省略)
原告 新井 秀雄
〒100−0013 東京都千代田区霞ヶ関1−1−1
被告 国
上記代表者法務大臣 高村 正彦
〒162−0052 東京都新宿区戸山1−23−1国立感染症研究所内
被告 竹田 美文
〒162−0052 東京都新宿区戸山1−23−1国立感染症研究所内
被告 倉田  毅
2001年1月25日
(送達場所)
〒100−0006 東京都千代田区有楽町1−6−8 松井ビル6階
旬報法律事務所
原告訴訟代理人
弁護士 島田 修一
同   野澤 裕昭
東京地方裁判所 民事部 御中
処分無効確認請求事件
訴訟物の価格 金595万円
貼用印紙額  金3万7600円
請求の趣旨
一 被告国の原告に対する別紙処分目録記載の処分が無効であることを確認する。
二 被告らは、原告に対し、各自金500万円を支払え。
三 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決ならびに第2項につき仮執行の宣言を求める。
請求の原因
一  当事者
1 原告は、1966年3月北海道大学獣医学部獣医学科を卒業後、同年4月、被告国に採用され、国立予防衛生研究所(現「国立感染症研究所」、以下「感染研」という)に入所した。以降、細菌部に所属して百日咳、溶血連鎖球菌等の研究に従事してきたが、現在、細菌部の主任研究官の地位にある。
2 厚生労働省の外局である感染研は、病原体等(病原微生物、遺伝子組み替え体、生物産生毒性物質、寄生虫、有害昆虫等。以下「病原体等」という)、年間数万匹の各種実験動物、放射性物質、有害化学物質等を利用した各種感染症や遺伝子組み替えなどの研究・実験を行うわが国最大の病原体等研究施設である。
 被告竹田美文(以下「被告竹田」という)は、99年4月から感染研所長、被告倉田毅(以下「被告倉田」という)は99年4月から感染研副所長の地位にそれぞれある者である。
二 本件処分
 被告国は、01年1月4日、国立感染症研究所長竹田美文名で、文書で、原告に対し以下の処分をした。(以下、「本件処分」という)。 「あなたは、『週刊文春』平成12年11月2日号(平成12年10月25日発売)で掲載されたあなたの発言及びあなたの著書である『科学者として』(平成12年11月10日幻冬社より発行)において、当研究所の研究内容や運営実態を歪曲し、幹部職員を事実に反して誹謗中傷する内容を発表したことは、当研究所の信用を著しく傷つけ、公務の円滑な遂行に支障を来すものであり、誠に遺憾である。よって、今後かかることのないよう厳重に注意する。」(甲1)
三 本件の経過
1 感染研は品川区上大崎で業務を遂行していたが、79年ごろ、新宿区戸山1丁目23番地の旧国立身体障害者センター跡地に新庁舎を建築して移転し、同所で病原体等の実験等をすることを決定した。しかし移転予定地は新宿区内でも有数の住宅密集地で、周辺には早稲田大学を始めとする学校や身障者センター等の公共施設が数多く存在し、しかも移転先の周辺は大地震時の緊急避難場所に指定されている地域であることから、危険な病原体等を扱う実験施設としてはきわめて不適切な場所であった。そのため、感染研の移転と実験に対しては、周辺住民はもとより新宿区長、新宿区議会、早稲田大学等が強く反対した。
しかし、厚生省・感染研当局は、こうした住民らの反対、不安の声を無視し、88年12月、機動隊を導入して抗議する住民を実力で排除し、建設工事を強行した。これに対し89年3月、多数の住民が立ち上がり、国を被告として感染研の移転と病原体等実験の差し止めを求める訴訟を東京地方裁判所に提起した(民事25部に係属)。同訴訟は、11年間に及ぶ慎重審理の末、00年7月25日に結審した(判決期日は追って指定となっている)。結審時の原告数は281名である(甲2)。
2 原告は、長年にわたって病原体等の研究に携わってきた経験と知見から感染研が保有する膨大な病原体等や有害物質、実験動物等を利用して住宅密集地で病原体等実験を行うことは、周辺地域に対する生物災害、環境汚染の危険が否定できないと考えていた。そのため、住民側の要望に応えて同訴訟では原告申請の証人として証言も行った。
3 原告は、前記訴訟での審理の進展とともに、住宅密集地での病原体等実験の危険性についての確信を一層強めるに至った。そして、審理が終結した頃、幻冬舎の依頼を受け、住宅密集地での病原体等実験の危険性、訴訟のなかで明らかとなった被告倉田の文書偽造事件、および科学者としての自己の信条等を公にするために出版する決意をした。
00年11月10日、原告は『科学者として』を幻冬舎から出版した(甲3。以下「本件出版」という)。同書には、現在の立地条件における感染研の危険性、感染研幹部の偽造問題に対する批判、研究者としての心理的葛藤等が綴られている。
4 また、原告は、本件出版に先立って『週刊文春』の取材を受け、その記事が同年10月25日に発売された同誌(11月2日号)に掲載された(甲4。以下「本件記事」という)。
5 本件出版直後の同年11月27日、原告は感染研所長室に呼ばれた。そこには被告竹田、被告倉田、荒木仁司総務部長、総務課長、人事課長、人事係長の6名がいた。
被告竹田は原告に対し『週刊文春』の記事のコピーを示し、赤線を引いた箇所の説明を要求した。原告は、記者が本件出版の紹介記事を書くと言うので取材に応じたことを説明し、赤線箇所に関する意見を述べた。
6 01年1月4日、原告は再度、所長室に呼ばれた。このときも前記6名がいたが、被告竹田は本件処分を読み上げたうえ処分書を原告に交付した。原告は突然の処分通告に驚き、受け取りを拒否した。これを見た荒木総務部長が内容証明郵便で自宅に送ると言うので、原告はその場で処分書を受領した。そして総務部長は原告に対し、本件処分に基づき、01年6月支給予定の勤勉手当を5%カットすると通告した。
7 同月10日、原告は総務部長に対し、本件処分理由は抽象的なので具体的理由を明らかにした文書の交付を要求した。同月12日、総務部長はその義務はないと拒否したうえ、「倉田副所長は原告を名誉毀損で訴えることもできるが、今回はそうしないで厳重注意処分にした」と言うのであった。
四  本件処分の無効
1 本件処分は、原告の科学者としての知見と良心に基づいた正当な言論活動に対する干渉、弾圧であり、処分書でいう「歪曲」「誹謗中傷」は事実無根である。よって、本件処分は正当な指導監督権の行使にあたらず無効である。
2 総務部長は、前記のとおり勤勉手当を5%カットすると通告したが、同手当は本俸、調整手当、役職段階手当の合計額に期間率(原告の場合は中途採用ではないので1)と100分の60を乗じた額である(ボーナスの一部で、原告の00年6月の同手当は524、550円である)。したがって、本件処分を無効としなければ原告は01年6月支給の勤勉手当を5%喪失する不利益を受けるから処分の無効を訴える利益がある。
五  損害賠償
1 本件処分は国家公務員である原告に対する制裁的行為であり、公権力の行使である。したがって、指導監督権にもとづく処分を行う場合は被処分者の名誉、信用を著しく傷つけることとなるから、処分権者は被処分者のかかる法的利益を侵害しない注意義務を負うものである。しかし本件処分に正当な理由がないこと前述のとおりであり、原告は「事実を歪曲」する人物、幹部を「誹謗中傷」する人物、との汚名を着せられたのである。
よって、被告国には国家賠償法1条の責任がある。
2 被告竹田及び同倉田は、原告が本件出版及び本件記事において、住宅密集地での病原体実験の危険性を世論に訴え、被告倉田の偽造事件をも取り上げたことに敵意を抱き、共謀のうえ、原告に対する報復措置として本件処分を実行したものである。多数の住民が住宅密集地での病原体等実験の危険性を主張して前記訴訟を提起したことを初め、新宿区長、新宿区議会、早稲田大学、原告と同じ病原体研究者、さらには前記訴訟において感染研が招請した外国人科学者の査察報告書が実は査察を受けた感染研自身によって作成されたという信じられない偽造事件が発覚し(作成実行者が被告倉田であり、同被告は当時、感染病理部長の地位にあった)、その文書が前記訴訟において国から証拠として提出されたのである。したがって、原告が本件出版及び本件記事を通して、住宅密集地での病原体実験の危険性を警告し、併せて偽造問題を批判したことは、原告の科学者としての立場からの正当な言論表現活動である。
しかし、被告竹田と同倉田は、感染研所長および副所長の立場を利用し、感染研の権威と体面を守るため、さらには偽造事件の実行者という科学者としてあるまじき行為を厳しく批判されたことを逆恨みし、その指導監督権を乱用して本処分をなしたものである。偽造の実行者である被告倉田に対しては処分を下さず(逆に副所長に昇格)、科学者の良心に従った行動をした原告に対しては処分をするという所業は、理不尽きわまりないものである。
よって、両被告は共謀のうえ、原告の言論活動を弾圧し、名誉と信用を著しく侵害し、汚名をも着せつけたから、民法709条、719条の共同不法行為が成立する。
3 原告は被告らの本件処分により名誉感情を著しく害され、その名誉と信用を著しく侵害された。その精神的苦痛は金銭に換算すれば500万円を下らない。  
よって、原告は被告らに対し、請求の趣旨記載の請求を求める。
以上


証拠方法
甲第1号証 厳重注意書
甲第2号証 『バイオハザード裁判』
甲第3号証 『科学者として』
甲第4号証 『週刊文春』
添付書類
甲号証  各2通
訴状委任状 1通


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