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逃げない科学者、闘うオヤジ

 住宅地に住民の了解もないまま、大量に細菌やウィルスを扱う国立予防衛生研究所
(予研)※が建設された。当然起こった反対運動に、一人の予研所員が参加した。新井
氏はいわゆる内部告発者である。
 題材がスーパー・スキャンダラスなわりに、鑑賞後の印象は超クール。予研の危険
性、問題のアウトラインなどの説明はあるものの、「予研vs地元住民」的な二項対立
論では描かれていないせいだ。
 作品の中心は驚くなかれ、「予研問題」より新井、芝田、本庄の各氏、三人の科学
者に向けられる。素材を追わず、人間を追った点に私は、ちょっと妙な感じを受けた。
 職場にとどまり細菌研究を続けながら、反対運動に参加するという自己矛盾を抱え
る新井氏はもとより、「自宅の裏に予研ができちゃった」芝田氏、「名誉所員」の立
場にありながら反対運動に連なる本庄氏。ともにこんな面倒な問題うっちゃって逃げ
ちゃえば、悠々自適な老後をおくれる大学教授のエリートだ。
 私から見れば高齢な三氏が、なぜ現場放棄せず、しんどい道を選ぶのか? しかも
この三氏、反対運動家らしからぬ(?)クレバーな冷静さをかねそなえているのである。
 科学者とは問題に対して冷静沈着かつ理論的なもんだ、と考えられなくもないが、
しんどい闘いを選んでしまうあたりが、なかなか不思議なオヤジたち。「自分の足元
の問題から逃げない」「自分の信じるところに従って行動する」との発言には気骨が
感じられる。
 この問題を十年追いかけた本田監督が、最終的に新井氏にカメラを向け、問題より
人間を描く結果となったのは、新井氏をはじめとする科学者の気骨に魅了されたから
かもしれない。
 声高に叫ばず、派手さもなく、けっしてカッコよくもないけれど、彼らの闘う姿は
チャーミングに見えた。
(※予研は1997年に国立感染症研究所(感染研)に名称変更された)

                                 今野由己(専業主婦)


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