【CHAPTER2−01】



救護院 → 養花場 → 救護院 → 大聖堂中庭 → 中央ホワイエ →



教会暦25年 第610節
  セントラル教会領
      10時52分



《救護院》


 意識レベル、生体活性反応ともに低下…
 このままでは、まもなく限界値を越えます

 再生治療室を確保しておけ
 万が一死んでも
 すぐ蘇生処理をほどこせるように…

 脳幹部のダメージが激しい…
 加えられた打撃が撃針のジャックを
 破壊してしまっている

 …大変だ。
 脳幹部から大量の情動制御ホルモンが
 放出されはじめました。このままでは…

 とにかく、破損部の修復を急げ。
 何としても彼女を死なせてはならない。
 これは… これは教皇自らのご指示だ

 だめです!
 自意識がウェルニッケ領域を
 閉鎖しはじめた

 くそっ!
 思念波動の活性値が低下!

 (マインド・アルマ消滅)

 思念パターン、フラット!

 (マインド・ダークエッグ消滅)

 表層記憶が…
 分解しはじめています!

アルーア
 やめて

 お願い、やめて


 お前のせいでわしは
 ここから出してくれ
 どうしてただ殺してくれなかった
 死なせてくれ

アルーア
 死んでるわ

 あなたたちの精神は
 もうとっくに滅んでいるのよ


 ならば、なぜ…
 どうして俺たちはここに

アルーア
 幻像よ

 私の心が生み出した

 原罪の陽炎

 それが あなたたち


 違う
 お前は俺たちを
 その心を
 生きながら喰ったんだ
 だから
 だから
 だから
 まだ
 俺たちはまだ


 「思念圧さらに低下…」

 「自意識と深層思念の結合が
 起こりはじめています」

 「…このままでは自我が崩壊する。
 やむをえん、抵抗剤を脳幹に投与しろ」

 「とりあえず脳を仮死状態にして
 自意識の活動を抑制するんだ」

 「早くしないか!」

アルーア
 ………

 寒い

 まるで体の中が凍りついたように

 寒くてたまらない

 寒い


 お前さまのタオが一つところに
 もの凄い、勢いでね
 お気をつけ
 ヒャハハハハハハハハハハハハハハ
 心が飛び込んでくるぜえ
 興味深いよ まったく
 それほどに人々の心を喰らいながら
 なぜ君は自我を保てるのか?
 興味深い
 受け取れ、アルーア
 これはお前のもんだよ!
 お姉ちゃん
 お願いだよ
 ボクたちを終わらせて

脳外科医
 「…」

 「…目が覚めたようだな。
 ここは救護院の再生治療室だよ」

 「君はトンネルでの戦闘により脳に大きな
 ダメージを負って、いままでずっとここで
 集中治療を受けていた」

 「この8日間というもの、ずっと仮死状態
 だったが…」

 「いまの気分はどうだい?
 何かおかしいと思うところはあるかね?」

 「脳電位スキャンによると、前回バックアップ
 された思念パターンとの相違は、16%だ」

 「記憶実質の消滅は最小限に食い止めたが…
 問題はウェルニッケ領域のダメージだ…」

 「ここは思念の具現化…
 つまりマインドに関連があるといわれているん
 でね」

 「率直に言って、損傷の程度からすると…
 マインドは消滅して、記憶に戻ってしまった
 可能性が高い…」

 「何しろ、マインド使いの脳なのでね。
 私たちにもわかりかねる要素が多いんだよ」

 「とにかく、できることはすべてやった。
 もう退院してもらって結構だ」

 「とりあえず、中央ホワイエに行くがいい。
 回復したら立ち寄らせるようにと、指示が出て
 いるんでね」

 (救護院を出る)



《養花場》



アルーア
 (※ボイスに会う前)

 真っ赤な花が
 咲き乱れている




 たまらんのう…
 ワシぁ花が大好きじゃ
 とくにこの花びらの
 ふるふるしたとこなんざ
 何とも言えんわのう
 ことさら今日みたいな
 お日さんのポカポカした日は
 たまらんのう…

アルーア
 (※ボイスに会った後)

 これは…
 ボイス司祭の思念

 悦びに満ち満ちている

 花を慈しむ心と
 マインドを憎む心…

 どちらも同じくらい
 激しく、そして強い思い

 なるほど…

 彼にとってマインドとは
 教会という花につく
 汚らわしい虫という訳か

 だからあれほどまでに
 強い嫌悪をしめすんだ



《救護院》

脳外科医
 「どうした? 頭が痛むのかね?
 まったく、あれほどしばらく様子を見るように
 と言っておいたのに…」

 「とにかく横になりたまえ…
 脳電位の再調整をおこなう」

 『 精神回復
  マインド再生』

 「くれぐれも無理をしないようにな…」



《大聖堂中庭》








マローネ
 …そういえばここ数日
 コンラートの姿を見ておらんな

 ヤツめ…
 最近何やら後ろめたそうに
 しておったが…

 まさかミナミの怪しげな店などに
 入り浸っておるのではあるまいな?

 くっくっく…
 高位司祭という身でありながら
 まったく困ったもんだのう

アルーア
 ラーベン大司教が
 言っておられた

 最近、司祭階級の俗化が
 目にあまると…

 ミナミ・セントラルの
 繁華街ならまだしも
 刺激を求めて異端の地へと
 踏み入る者までいるらしい

 司祭階級に対して
 ものを言える立場ではないけど
 …ほどほどにして欲しいものね

 あまり度が過ぎると
 また私にミッションが下される

 ミッションとはいえ
 司祭を手にかけるのは…
 あまり気持ちのいいものでは
 ないもの









アルーア
 (ダイブ時)

 高位司祭の深層思念へ
 ダイブすることは
 禁じられている








ジェシカ
 アルーア様だ…

 近寄ってはいけないと
 お母様に言われたけど…
 そんなにこわそうじゃないわ

 …っていうか…どこか

 アルーア様、かなしそう…

アルーア
 哀しそう?
 私が?…

 何かに哀しいなんて思ったのは
 ずいぶん子供の頃だけ…

 その時、泣いたような気も
 するけど、その涙の感覚さえ
 いまはもう覚えていない

 それなのにどうして
 私が哀しそうだなんて…









 綺麗な人
 でもおっかない
 頭の中をいぢり回されるって
 そんなのいや
 怖い
 怖いわ

アルーア
 あなたの思っているとおりよ

 私は心の中に
 手を差し込み

 そしてそれをむりやり
 ひきずりだす

 私にそんなことをさせる
 ようなことは

 しないでね









ロバート
 いまバザールやスラムでは
 幼な子が相次いで行方不明に
 なっているらしいな

 子を失った親たちの哀しみが
 分からん訳ではないが…

 やはりこれも…
 日頃の信心が足りないせいだろう

 まったく…
 自業自得というものだ

アルーア
 (※ミッションを受ける前)

 子供たちが行方不明に?

 そういえば一年前にも
 ミナミで同じような事件が
 あった

 ハーメルンの惨劇
 確かそう呼ばれていたはずだ

 あの時は二十名あまりの
 子供たちがさらわれて
 結局行方は分からずじまい
 だったけど…

 まあ、どうにせよ
 これはアイラたちの…
 通常のシスターズの仕事だ

 私のミッションではない…

使


アルーア
 不思議な人
 いつもどんな時でも
 心が暖かい光で溢れている

 彼の心の奥深くあの光の先を
 見てみたい気はするけど…
 一度踏み込んだら最後帰って
 来れなくなるかも

使



 カミサマ ミタ
 ホシ ミタイナ
 ソラ ミタイナ
 カミサマ イッタ
 ココロ ヒラケ
 オレ キオク キエタ
 デモ シアワセ
 ミンナ ワラッテル

アルーア
 初めてわかったわ…
 幼き者の心を持つ者にこそ
 神の門は開かれている

 古い聖典のこの言葉は
 彼のような人にふさわしい









アルーア
 子供達を見ていていつも思う

 他人の痛みが分からない限り
 その行いには常に一定の残酷さ
 がつきまとうのだ、と…

 もし相手の心から直接
 痛みや苦しみ、憎悪とか
 哀しみが飛び込んでくれば

 いったい何人の人間が
 それに耐え切れるだろう…











 きゃはははは
 あはははは
 引きずりまわせ
 倒しちゃえ
 きゃははは
 こっちだこっち
 あはははは
 あははははは





使い子
 (※ミッションを受ける前)

 「申し訳ございません、アルーア様」

 「お体がもとのように戻られるまで、
 アルーア様に外出はひかえていただくようにと
 大司教様からお言葉をいただいております」

 「わたくしごときが…
 ほんとうに申し訳ございません。アルーア様」

アルーア
 この子は
 使い子(つかいご)か…

 彼女たちこそ完全に聖別され
 た存在だ、と
 司祭たちはたたえる

 彼女たちは教会内で生まれ…
 生まれながらにして使い子と
 して育てられ…

 司祭やそのほかの神聖階級に
 仕えるため、その一生を
 教会の中のみで過ごす

 わずかに門からもれ見える
 光以外は、外の世界を一度も
 見ることなく育ち…

 やがてそのまま、
 教会の土へと帰ってゆく

 …その過酷な生き方こそ
 もっとも神の祝福を受けた聖者
 である証なのだ、
 そう、彼らは言うけど…



《中央ホワイエ》

ラーベン
 「おお!
 よく戻ってきてくれました、アルーア」

 「よもや我ら教会の裁きの剣であるあなたを
 失ってしまうことになりはしないかと…」

 「教皇様も大変心配しておられました」

アルーア
 彼はラーベン大司教

 教皇様の忠実な手足となって
 この教会領を取りしきり…

 また、私の後見人として
 おさない頃から私の世話を
 してくれてもいる

 迷える者たちの
 心やさしき父として
 すべての信者から愛される

 まるで天から遣わされたかの
 ような神の使徒…

ラーベン
 「救護院院長の話によれば…
 脳に与えられたダメージのほとんどは修復できた
 そうですが…」

 「まあ、しばらくは休んでいてください。
 マインド使いの思考はデリケートだ。
 何分、無理は禁物ですからね」

 「とにかく、しばらくは休養してください」

 「何か用があれば、いつもの通りデータデッキ
 で連絡しますから…」




ラーベン
 「おお、アルーア!
 教皇様はただいまお取り込み中でしてな。
 どうにも手が放せぬのですよ…」

 「申し訳ない…」



《CHAPTER2−02》



或る記録の残滓