【CHAPTER1−07】



→ 巨大な扉 →  マインドろ過システム →  実験施設 →  巨大な扉の前



《巨大な扉》

アルーア
 廃墟のビルの中に
 こんな施設が…。




アルーア
 (※ダイブ前)

 怨みと呪いの思念が
 こびりついている…。





 殺してお願い
 死ね お前なんか
 ゆるしてください なんでもします
 この人でなし
 なにするの やめて
 寒い ここは寒い
 目が 目が見えない
 私がなにをしたの
 た たのむ やめてくれー
 子供だけは助けて
 神様 助けてください
 神様はきっと見てるわ

アルーア
 ヴィって男が狂気の中で
 生きているのは確かね。

 奴の人格は生き物を殺める
 ことによって成り立っている。

 一瞬でも何かの命に触れて
 いないと自分が保てない
 愚かな男だわ。




アルーア
 (※ダイブ後)

 彼らはここに集められ、
 非人道的な実験の
 道具にされていた…。





アルーア
 (※マインドろ過器にダイブする前)

 内部からロックされて
 いるわ…。



《マインドろ過システム》

アルーア
 バイオレット…、
 あなたまでも…。

バイオレット
 列車で あいつの隣に
 あいつが座ってきた
 良い男だと思った私が
 ちょっとしたハプニングだ
 首筋に無理矢理 注射
 私 気分が悪くなって
 別の人が喋ってる
 バイオレットって女を
 殺しちまったんだ
 すまねえが代わりに
 なってもらうぜ
 私じゃない私じゃ
 私でない私が喋ってる
 特殊なブレンドだ
 魂がぶっ飛んでしまうぜ
 やめて いや
 私でない私が
 私を殺していった

アルーア
 あなたはバイオレット
 じゃないの…?

バイオレット
 あ、あああ、あたし…

 ギィ…ガァァ…コロ…シテ…

 (戦闘:バイオレット)

 く…くらいわ…ここはどこ…
 さ…さむいわ…とっても…
 あ…あ…ありがとう…

 (戦闘終了)

アルーア
 思念を送ってきた彼女は、
 私の知っているバイオレット
 ではなかった…。

 これまでに一度も会った
 ことのない女性だった。

 その彼女はこう言っていた。
 首筋に注射を打たれてから
 別の人格によって殺されたと。

 そんなことが有り得るの?








アルーア
 (※ダイブ前)

 思念の大きな流れを
 感じるわ…。








 悪魔のような人間を神
 お父さん 大好き
 あまり遠くに行かないでね
 イヤ やめて助けて
 あの湖に映る夕日は
 死というものは無なのよ
 昨日はほんと疲れた
 だから君はバカだって
 血は生きている証拠さ
 レオノーラ 君を愛してる
 苦しい 何も見えない

アルーア
 なに…いまのは…

 無数の人の思念が一度に
 私の中に入ってきた…。


 (扉の開く音)

 汚れた思念を流すんじゃねえよ!

 ドアは開いてるぜ入ってきな!








アルーア
 (※ダイブ後)

 あんなに多くの思念を
 一度に受けたことは
 これまでになにわ。








アルーア
 (※ダイブ時・2回目以降)

 ダイブするべきじゃない。
 魂が吹き飛ぶ恐れがある。



《実験施設》

ヴィ
 「へへっ、やっとおでましかよ」

アルーア
 見つけたわ、
 ヴィ・ラザフォード。

ヴィ
 「1匹は気づいていたんだがな、まさか
 2匹も転がりこんでくるとはね」

 「しかも、とびきり若い実験体ときてる。
 さぞ、楽しい実験になるだろうな、ククク」

 「少しずつ切り刻み、その反応を調べていく
 んだ。大丈夫心配するな、殺しやしねえ」

 「ちょうど、マインド使いの記憶が欲しかった
 ところだからな。大切に扱わせてもらうぜ」

 「ん? お前、いま恐怖を覚えたな?」

 「ククク、侍女団らしくねえ。マインド使いが
 感情に流されちゃいけねえよ」

 「俺が何をしているか、興味あるだろ?」

 「クククク、知りたけりゃ心を読みな」

 「それともそんな、はしたない真似は教えら
 れてません、ってか?」

 「そりゃそうだろうな。シスターに言われな
 かったかい?」

 「隣人の物に手をつけてはいけません、って」

 「へへっ、怒ったのか? 感情係数が少し
 上がったみたいだな」

アルーア
 それほど早く死にたいなら、

 望みどおり、
 心を砕かせてもらうわ。

ヴィ
 「おっと、気をつけなよ。彼女が目を覚ました
 みたいだぜ」

アルーア
 (バイオレットが現れる)

 なぜ…
 彼女は死んだはず。

ヴィ
 「らしくねえな、侍女団だろ? 奇跡って
 やつを信じねえのか?」

 「終わりの日には、死者が蘇る奇跡を」

 (戦闘:バイオレット)

 く…くらいわ…ここはどこ…
 さ…さむいわ…とっても…
 あ…あ…ありがとう…

 (戦闘終了)

 「おみごと! さすが侍女団だ。まいった」

 「試験体をマインドで倒すとは、よほど強い
 精神と心の持ち主ってわけだ」

アルーア
 こいつは彼女に何をした?

 殺す前にそれを調べさせて
 もらうわ。

 (ダイブすると様々な映像が浮かぶ)

ヴィ
 「おやおや、気分が悪そうだな。心の喰い
 すぎだぜそれは」

 「だから言っただろ? 人の物に勝手に
 手を出すなって、クククク」

アルーア
 どうしてこいつの心に
 私の記憶があるの?

 しかもこいつの心の中は
 関連性のないバラバラの
 記憶で構成されていた。

ヴィ
 「クククク、そんなに俺のことが気になる
 のかい?」

 「いいぜ教えてやろう。俺はここで神の
 代わりをしているのさ」

 「昔、神は土から人間を作ったらしいが、
 いまはそんな古臭いものは使われねえ」

 「鉄のかたまりと電子の海から、人間が
 できあがるってわけさ」

 「しかしどうもうまくいかねえ。お前も見た
 だろうが、未熟なちっぽけな心は生まれるみ
 たいだがな」

 「もっと影響力の強い記憶が必要ってことだ。
 ちょうどお前みたいな活きがよくて、強い能
 力を持っている奴の記憶が」

 「しかし俺もついてねえな。やっと良い
 コネクションを見つけたところなんだぜ」

 「気分良くセントラルに帰る途中、何やら
 マインド使いらしき匂いが、俺のまわりを
 プンプン漂っていやがったんだ」

 「それにバイオレットって女に、ちょいと
 イタズラをしちまったところだったから、
 余計にバレるわけにはいかなくなった」

 「っていうのも、殺しちまったんだ。良い女
 だった。向上心も強く、あれほど生命力のあ
 る女もなかなかいない…」

 「だから俺の子供たちに列車事故を起こさせた
 ってわけだ。簡単なことだろ」

 「これで納得したかい? ん? まだ納得で
 きねえって顔だな」

 「バイオレットは死んでいるのさ。いや永遠に
 生きていると言ったほうが正しいのかもな」

 「なぜなら俺の手元にはバイオレット自身の
 記憶を物質化したものがあるわけだからな。
 いくらでも作り上げることができる」

 「それを打ち込めば、新しい身体を持った
 バイオレットの出来あがりってことだ」

 「心配するな、お前もじきにわかるさ」

 「ここはいいぜ。きっと気に入るはずだ。
 なんて言ったって死が存在しないからな」

 (戦闘:ヴィ)

 ほうっ、俺を殺してくれるのか
 クククッ、俺の心は美味いか…?
 クククククッ、これが死か…

 (戦闘終了)

 (ヴィの肉体が崩れ去る)

アルーア
 ヴィ・ラザフォード…
 奴は何者だったの?

 心を砕かれたとはいえ、
 あれほどの急激な肉体の
 崩壊は通常有り得ない。

 まるで死があの瞬間まで
 止まっていたかのように、
 奴の身体は跡形もなく
 消えていった。

 まるで、そう…、
 奴の存在自体が幻だった
 みたいに。










アルーア
 (※ダイブ前)

 妙な感じがするわ…?
 なにかしら?










 お おまえ だましたな
 バ バカ やめろ!
 金ならいくらでもやる
 イ ヒヒヒヒヒ アハハハ
 た たのむやめろ!
 な なにをするんだ
 貴様 地獄へ落ちろ
 イ ヒヒヒヒヒ アハハハ
 お前は呪われている…
 イ ヒヒヒヒヒ アハハハ

アルーア
 いまのはジョー・ギブスの
 残留思念だった…。

 なぜこのシリンダーに
 彼の思念がこんなに
 強くこびりついている
 のかしら?












アルーア
 (※ダイブ前)

 血が乾いてない。
 最近のものだわね…。












 アンドロイドの密売だって
 新東京でのし上がるチャンス
 金と女がどっさり
 いい話じゃねえか
 あの女、もったいないな
 ヒップのラインが最高だぜ
 う〜ん チュパチュパ
 このスキンヘッド信用できるか?
 気味悪いヤツだが使えるぜ

アルーア
 ジョー・ギブスの思念だわ。

 彼はここでヴィと一緒に
 しばらくいたんだわ。

 そしてこのベッドに寝るか
 座るかしてヴィと喋っていた。



《巨大な扉の前》

機動部隊
 (※ヴィ戦後)

 「よかった、ご無事でしたか!」

アルーア
 教会の機動部隊だわ、
 どうしてここに…。

機動部隊
 「後は我々にお任せください。いま突入部隊が
 続々到着してます」

侍女団
 「異端組織の幹部、レナ・スパーリングの
 死体は確認しました。ごくろうさまです、
 アルーア様」

 「そしてヴィ・ラザフォードの死も確認しま
 した。ごくろうさまです、マハラチャニ様」

チャニ
 「私はただ、うろうろと怯えていただけで、
 全部おねえさんのおかげです」

 「だけど最悪でしたよね…」

 「普通なら、あの列車の中でターゲットを
 抹殺して終わりなのに…」

 「列車は転覆するわ、アンドロイドに殺され
 そうになるし、あげくの果てこれだもん」

 「まあ助かったからいいけど、当分夢に
 出てきそう…」

侍女団
 「今回ほど、狂的な事件は私も知りません」

 「身体を刻まれ、心を失った人間たちと、
 殺人アンドロイドたち」

 「最終的に犠牲者が、どれほどになるかは
 わかりませんけど、半端な数字でないのは
 確かです」

 「動機や目的などは、これから解明される
 と思いますが、たった一人の犯罪としては
 過去にも例がありませんね」

アルーア
 奴はあそこで人間を作って
 いたと言っていた。
 そしてそれが神の仕事だと。

 もし奴がただの狂人だった
 のなら、
 なにも悩むことなどない。

 しかし偽りであっても、
 アンドロイドに心を与える
 ほどの頭脳の持ち主だ。

 ただその真の目的はつかめ
 なかったが、

 その悪魔的な行為が必ずしも
 奴の空想が産み出したもので
 なかったことだけは、

 数多くの声無き被害者が証明
 してくれるだろう。

侍女団
 「それでは、私はこれで失礼させていた
 だきます!」

 「今日はゆっくりと身体をお休めください」

チャニ
 「ふうっ…やっと外の空気が吸えますね」

 「さあ、おねえさん行きましょう!」

アルーア
 (画面レッドアウト)

 頭が…、
 頭が…痛い…

 (ヴィにダイブした時と同じ映像が流れる)

 いまの映像は……

 しまった…
 う…うしろに…

 (後ろに振り返ると、バイオレットが立っている)

 (女性の悲鳴・打撃音の後、グチャッという音)

 (画面ブラックアウト)

 致命的な一撃だった。

 消えゆく意識の中で
 感じたのは…、

 流れていく自分の血が
 いやに温かかったこと…。


― CHAPTER1:END ―



《CHAPTER2−01》



或る記録の残滓