Wizards and Sisters.

 

 

 

 

『リリアン瓦版特集!
 あなたにとってのスールとはなんですか?』

 取材:山口真美(新聞部部長)

 

 

 島津由乃さんの場合。

 

「お姉さまの意味? 決まってるじゃない」

 黄薔薇のつぼみ、こともなげ。
 なんでそんな当たり前の事聞くの、って顔。
 質問した方としてはわからないから聞いているわけで…って言い訳も通用しそうな気が、この人にはでも確かにあんまりしないのよねえ。

「お姉さまなら私のお姉さま。他の誰にも渡さないし、譲らない。私だけのものよ、令ちゃんはっ!」
「……別にお姉さまで無くても由乃さんの場合、令さまは自分のものじゃないの?」
「だからと言って、他の誰かに譲るなんてもっての他だわ。真美さんだって嫌でしょう? 三奈子さまが他の人のお姉さまだったりしたら」
「うーん……」

 所有欲。それは確かに存在してよい。
 けれど、何か引っかかる。……そうか、それは簡単なことだ。

「じゃあ、江利子さまはいいの?」
「えっ?」
「江利子さまは令さまのお姉さまで、令さまをある意味所有しているわ。それはいいの?」
「……良く無いけれど……」

 見事なまでに不満って顔をして、由乃さん。
 解ってはいたけれど(クラスが同じになる前まではすっかり騙されていたけれど)、この人は本当に黄薔薇さまを自分だけのものにしておきたい人なんだなあ。
 お姉さまは大切な人だけれど、知り合ったのは高等部からで、かつ自分のものだけにしておきたいなんていう欲求は無い真美には、それはなかなか理解できない感覚。

 でも、その辺の違いを知りたいと思って始めた取材だから。
 この世のものとは思えないくらい強烈な苦虫を噛み潰している由乃さんを取材する価値は、山ほどあるわけで。
 普段ならリリアン瓦版のトップ記事にしたい顔は、今回はだから添え物となる。……もったいないけれど。

「でも仕方ないわ。私だってお姉さまという飾りで令ちゃんを束縛しているのだから。自分が使っている権利を人には認めないというのは、さすがにわがままに過ぎるもの。……残念だけれど、悔しいけれどっ!」
「なるほど、なるほど。さすが由乃さん。らしくて結構」
「馬鹿にして無い?」
「まさかまさか、とんでもない」

 ただ、呆れてるだけだって。
 ともあれ、由乃さんの気持ちというのはこうなると解りやすくて助かる。
 その後、簡単にお互いのスール制度論についての理解の違いを確認しあった後、真美はメモにそっと文字を書き添える。

『島津由乃:所有欲、束縛欲。ただし好きの度合いは私とは桁違い』

 多分、リリアンの姉妹たちにも多く見られるモデルケースだと思う。
 由乃さんのそれは、良くあるのに特殊という、やっぱり極めて特殊な事例には違いないと思うけれど。

 

 

 

 藤堂志摩子さんの場合。

 

「お姉さまの意味? ……私の場合は過去形になってしまうけれど、いいかしら」
「もちろんよ」

 白薔薇さま、少し考える。
 思い出しているのだろう、きっと。

「私にとってお姉さまは、私自身だった。お姉さまにとっても、きっとそうね」
「……うーん、ごめん。もう少し解りやすくお願い」
「そうよね、ごめんなさい。さすがに解りづらいわね。……けれど、上手に説明するのも難しいのだけれど」

 フィーリングとしては解る気がする。
 けれど、多分根本的なところでは決して分かり合えない。
 それでもお互い頑張って努力すれば、ある程度は歩み寄れるはず。

「鏡、かしら」
「鏡……」
「ええ。私はお姉さまを見ていると、自分を見ているようだった。弱いところも強いところも、全てわかった。けれど、鏡の向こうだから全部反対…違うところもたくさんあるのね。そして、手を合わせることは出来ても手を繋ぐことは本当は出来ない。でも、いつだって鏡は目の前にあって、側にいてくれた。……そんな人よ」

 胸の前辺りに手をかざして、裏返して。鏡というより自分自身って印象を受けるポーズとともに、志摩子さんは言う。
 申し訳ないが、ポーズ付きでもやっぱりよく解らない。
 けれど、志摩子さんにとってはそれ以上無いんだろう。

 それ以上でもなく、それ以下でもなく。
 間違いなく、とてもそして大切な人に、違いないんだろう。

「解ったわ。…多分、良く解ってはいないと思うけれど」
「ごめんなさい、上手に言葉にすることが出来なくて」
「ううん、いいのよ。姉妹とは何かがテーマだからね。そういう良く解らないって部分も含めて、姉妹なのだと思うし」

 なるほど、なんて頷く志摩子さんを片目に真美は、ささっとメモに書き込む。
 島津由乃の下、藤堂志摩子の欄。

『藤堂志摩子:鏡。自らの失われた半身。補完』

 姉妹だから、ね。
 心の中で呟きながら、隣に書かれている名前と文字にも目をやりながら。

『佐藤聖:志摩子は私。私は志摩子。鏡像?』

 やれやれ、似たもの姉妹だわ、ほんと。

「そういってもらえると助かるわ。真美さん、なんだか大人ね」
『真美ちゃん。なかなか大人になってきたね』

 ほら。
 取材後、かけてくれる声まで一緒なんだもんね。

 うらやましいって、思うのにはでも勇気が必要な二人だと思った。
 うらやましいけれど、でもそこには高い高い壁があるような、そんな二人だと。

 

 

 

 

 福沢祐巳さんの場合。

 

「私にとってのお姉さま? うーん、そうだねえ……」

 祐巳さんは予想通り、すぐに悩み始める。 
 絶対そうだろうとは思っていた。愛すべき紅薔薇のつぼみは、何に対しても一生懸命で、悩む人だから。
 ゆっくり話がしたいと言ったら指定した場所、古い温室。

 人が来ないという話だけれど、バレンタイン企画やらなんやらで意外とお世話になってる。
 実は誰もが一度は来たことがある場所なんじゃないだろうか? そういう静かだと思われているけれど実は賑やかな場所ってあるものだし。
 あとで取材してみようかな。バードウォッチング同好会や社会動向調査愛好会あたりにカウントお願いして。

 ってな感じの、堅実というよりは地味な取材内容を思いつく辺りは、いかにも真美だった。
 お姉さまである築山三奈子さまなら、温室での逢瀬あたりに興味を移すに決まっているし。

「難しいなあ。なんて言葉にしたらいいんだろう? ちゃんとしたものは心の中にあるんだけれど、言葉にするのは難しいなあ。うーんと、うーん……」
「祐巳さんの場合、あまり考えないで思いついた通りしゃべっちゃうのがいいと思うんだけれど?」

 別にバカにしてるわけじゃない。そういうタイプの人間というのはいるものだ。
 悩むよりは、勢いが大切なタイプとでも言おうか。言葉にしているうちに明確な何かが見つかってゆきそうな人に、祐巳さんは見える。音にして、耳にフィードバックして、それを重ねて行くうちに本当の答えが見つけられる、そんな人に。

 けれど祐巳さん、ちょっとだけ警戒顔。
 疑ってるわけじゃないけれど、って前置きしてから。

「お姉さまのことで何か言うと、記事にされちゃいそうで怖いんだよね」
「そんな事はしないつもりだけれど……でもま、あんまり面白かったらしちゃうかもね」
「新聞記者だもんね。そして私が一番ぽろっとへましそうだから」
「それは言えてる」

 真美も苦笑いで頷くしかない。確かに祐巳さんにはそういうところがあって、自分にもそういう癖はある。
 しかし困ったな、これだと祐巳さんの性格ではなかなか答えは出てこないかもしれない。うーん……って腕組みしかけた時に、祐巳さんのほうから提案一つ。

「例えばどんな言葉ならいいのかな? 真美さんにとっての三奈子さまはどうなるの?」
「それが解らないからみんなに聞いて回っていると言うのが、真実かしら」
「なるほど…じゃあ頑張って考えるね」

 申し訳ないけれど、そういうことなのだ。
 自分でも良く解らないから、聞いて回っている。由乃さん、志摩子さんはなかなか明確な答えを出してくれた。助かった。

 けれど今、目の前で悩んでいる祐巳さんも同じように助けてくれているのだと、ふと思う。
 悩むのは。
 自分のお姉さまの位置づけについて悩めるのは自分だけじゃないんだって、解るから。

 だからやっぱり、ありがとうなんだって思った。

 色とりどりの花が咲く、古い温室に静かな時間が訪れる。
 お互いの小さな腕時計では、時の刻む音なんて聞こえたりはしないけれど。
 隙間風で揺れたり、太陽の加減で色を変えたりする花々がそれを確かに教えてくれている気がする。

 お互いが、同じテーマで悩む時間。
 悪くない、穏やかな時間。

「――夏休みにね、お姉さまとお昼寝したことがあるの」
「…ん」

 祐巳さんは、目を閉じて首をちょっとかしげて。
 なかなかにかわいらしいポーズから、ゆっくりと言葉を紡いでゆく。
 彼女は確かに普通って感じの容貌だけれど、ところどころにとてもはっとさせられる時がある。なぜだろう? とある友人なら間違いなくシャッター切ってるような、そんなポーズ。

「別荘でのお話なんだけれどね。色々あって、明日は帰るっていう日に、二人で」
「あの日か……」
「真美さん、知ってるの?」
「うん、ちょっとね」

 さすがに覗きに行って断念したとは言えない。
 蔦子さんと一緒に、けれど悔しがって仕方ないから軽井沢でソフトクリーム食べたんだったっけ。真美の、お姉さまとはあまり無い夏休みの思い出のうちの一つである。

 悔しくて、残念で、学校に戻ったらきっとお姉さまに文句を言われるなって思ったけれど。
 それでもとても楽しかった、夏の日の避暑地のお話。
 その日の、祐巳さんのお話。

「その日まで、なかなか私、お姉さまとしっくり行かなくて。もどかしい思いとか、寂しい気持ちとか、一杯抱えていたんだけれど……。その前の日にふっと力が抜けて、上手く行くようになった。ご褒美みたいにその日は、ごろごろしたの」
「うん」

 祐巳さんはゆっくり、ゆっくりと話をする。
 決して急がない。慌てない。
 感じた幸せをでも、剥き身でぶつけてくれているような気がする。
 幸せ、って音がしているから。

「お話をして、二人で眠って。先に起きてお姉さまの寝顔を見て。目を覚ましたお姉さまにちょっと叱られて。……そんな時にね、ああ、姉妹だなって思ったの」

 抽象的な説明じゃなくてごめんね、って祐巳さんは笑った。 
 謝らないで、笑った。

 だから、それでいいよって真美も笑った。
 どんな言葉より良く解る、祐巳さんにとっての祥子さまだと思った。

「私にとってお姉さまは、一緒にお昼寝をしたい人って言うべきな気がする。のんびりと、だらだらと。建設的なことを何にもしないで、ただぼんやりと。側にいて、側にいられて。喧嘩して、笑って。……そんな時間を過ごしたいと思う人かな、お姉さまって」
「そうなんだ……素敵なお姉さまね」

 きっと祥子さまに聞いたら、全然違う答えが返ってきそうな気がする。
 でも同時に、全く同じ例が引き合いに出されそうな気もした。

 そういう姉妹なんだろう、きっと。
 そういう、きっと。

「うんっ。私の自慢のお姉さまだよ!」

 そういう、祐巳さんなんだから。だって……。

『福沢祐巳:お昼寝』

 メモに書いた言葉は、たった三つの言葉だけ。
 けれど、きっとぴったりな言葉だけ。
 これを見れば、思い出す。……というより、きっと感覚として追体験出来る。

 祐巳さんが、祥子さまをどう思っているのか。
 三つの言葉が、いつも。どんな未来でも教えてくれるって、真美は思うのだった。
 そういうきっと友達で、祐巳さんはあってくれて。

 これからもずっと、あってくれるのだろう、きっと。
 絶対。

 

 

 

 

§

 

 

 

 

「それで。どうしてそもそも真美さんは、こんな取材を始めたの?」

 そして時間は午後五時半。夕闇が世界とリリアンと、まだ学校に残っている数人を照らす黄昏時。
 部室で取材ノートをチェックしていると、訪ねてきたのは蔦子さん。こっそり、例えば由乃さんの怒り心頭我がまま顔などを撮影していたようで、ご満悦って顔してる。でもまあ、別に腹も立たないけれど。
 同じクラスになってから、真美と蔦子さんは随分仲良しになった。守秘義務とやらのために、部室内部ですら内緒話にすら気を使っていた日々が懐かしい。

 今思えば、情報の中立性、プライバシーの権利などを考えるのであれば、あの頃お姉さまが夢中になっていた怪しげな記事たちは一度蔦子さんに聞いてもらっていた方が良かったような気も、しないではない。
 自分もフィルターになっていたつもりだけれど、やはり押しなべて新聞部員。ついつい野次馬根性は顔を出す。お姉さま独特の話術に負けて結局乗せられてしまったことも少なくは無い。ああ、悲しきライター精神かな。

 ま、そんな内省的な気分はひとまず置いておこう。
 ある意味お姉さまも妹もいない人の意見というのは貴重であるし。それに。

 それになんとなく、取材目的はそういう人に話したいなって、思っていたから。
 楽しくて、一生懸命スールやってる人に話すのは、ちょっと恥ずかしい気がしていたから。

「うん。……ふっとね、解らなくなったの」
「なにが?」

 蔦子さんには、話そう。
 カメラから相変わらず手を離さない――もしかしたらそれこそが彼女の姉妹なのかもしれない――友人に、相談してみようって、決めた。

「お姉さまってなんなのかなあ、って」
「あら。三奈子さまとなにかあったの?」

 こんなことを言うと、ちょっと心配そうな顔をしてくれるくらい。
 それくらいのジャーナリズム部仲間では、あれている。
 だから、素直に話が出来る。そんな蔦子さんに何かあったのかといわれれば……あったような気がしないでもない。
 けれどきっと、とてもとても些細に違いない、何かについて。

 それは、多分特別な何かではない。
 さっきおいておいた、内省的な気分ってやつのうちの、置いておけなかった一つなのだろうから。

「新聞部と言う立場、祐巳さんや由乃さんと同じクラスという立場で、私は山百合会と大分親しく接してきたつもりよ。他の皆が憧れとか尊敬とかいうフィルターを通す中、普通の女子高生として彼女たちを見られたのはそのお陰だと思っている」
「私もそれは同じだなあ」
「そんな裸眼で皆を見ていて、取材していて、思ったの。山百合会って言っても普通の人たちで、普通の女子高生で。……けれど、生徒会ってだけの胸をはれるくらいの、素敵な姉妹たちには違いないな、って」
「ふむ、なるほど」

 何か、どこかに特別なシーンがあったわけではない。
 ただ、見ていてぼんやりと感じたのだ。ああ、この人たちは素敵だなって。
 お互いのことが好きで、尊敬しあっていて。
 それでいてべったりではない、ちゃんとした姉妹をやっているな、って。

 蔦子さんももちろん、納得してくれる。
 見ていれば、解る。みんな、素敵な姉であり、妹であれているって。

「そこでふと、翻ったの、自分たちを。私と、お姉さま」
「真美さんと三奈子さま、か。……ねえ、私は詳しいことは知らないんだけれどさ。真美さんたちってどんな姉妹なの?」

 自分には姉も妹もいないし、余計良く解らないって、蔦子さんは苦笑い。
 この人は、確かにそういうの似合わないかも。
 けれど、突然あっさり妹とか作ってくれそうな、そんな気もする子ではある。それは是非取材してみたい、いつか。『リリアンの静止画姫、ついに姉妹宣言?』みたいな。……静止画姫ってなんだ、しかし? 自分のネーミングセンスに突っ込みいれてるようでは、新聞部員としては微妙だと首を捻る真美。

「姉妹って言うより、実は師匠と弟子に近いの、新聞部の場合」
「ああ……解る気がする。うちの部もそういうところあるし。……真美さんの場合、でも反面教師でもありそうだけれどね」
「ふふ、それもあるわね。けれど、文章とか校正とかはお姉さまに教えてもらった部分も小さくないのよ? だから、やっぱり師匠なの。姉妹って感じはしない事もあるわ」

 それじゃあもったいないんじゃないかな。
 山百合会を取材していて、ある時ふっと思ったのだ。
 お姉さまのことは好きだけれど、でも例えば由乃さんのような強烈な所有欲は無い。
 志摩子さんのような、鏡というまでの気持ちは全く無い。
 祐巳さんのような、尊敬と母性本能……これが一番近いかもしれないけれど、やっぱりちょっと違う気がする。

 師匠と、弟子。
 それはあくまで、共通の仕事や目的、目標を持つ者の間に共有される感情、構築される関係。
 姉妹、リリアンにおける姉妹。それとは明らかに異質なものであるような、そんな気がしたのだ。

 寂しいかも、って。
 思って、しまったのだ。

「なーるほどねえ。良くは解らないけれど、なんとなくは解る気がする」

 部室、お姉さま専用の椅子に腰掛けて腕組みしながら、蔦子さんは難しい顔で何度も頷く。
 カメラは彼女の、膝の上。大切そうに大切そうに、何度も表面をなでている。
 そんな仕草までなんとなくうらやましいと思う自分は、やっぱりちょっとブルーなのだろうと真美は思う。

「私も真美さんも、いわゆる普通のリリアンって感じじゃないからね。普通の姉妹からは、離れたところにいる」
「それが嫌だというわけではないのよ。お姉さまのことは好きだし、新聞だって好きで作っている。それにむしろ……」
「うん、そうだね」

 短い髪をふわりと靡かせて、蔦子さんは頷く。
 真美の言いたいことを、ほぼ完全に先取りしながら。

「むしろ、普通のリリアン生徒とは違うから、だからこそ姉妹ってものが良く見えるのはある。私だったら写真が撮れるし、真美さんなら記事に出来る、と」
「そう思う。だから、こういう自分が嫌いなわけじゃない。お姉さまに不満だって無い。けれど……」
「けれど、普通の姉妹みたいな自分たちを想像してみたくもなる、と。ま、良くある話だよ、多分」

 他に例を聞いたことなんて無いけれど、なんて無責任に蔦子さんはけたけた笑う。
 無責任って言葉にしてみたら、自分にお姉さまのことを相談するような同級生なんて真美さん位だってもっと笑われてしまった。
 うーん、納得。
 しかし、やれやれ。

「ちょっと違うかもしれないけれどさ、例えば祥子さまにだってあることだよ。あの強烈お嬢様の家じゃなく、一般家庭に生まれていたらどんな自分だったかな、ってさ。誰にでもあることだよ、隣の芝生は常に青い」
「まあね……蔦子さんにはでも、そーゆーのないの?」
「ある。けれど、私は滅多に人に言わないし気に病まない。それだけの違いだよ」
「そっか」

 いつか、何かを誰かに言いたい日がやってきたら自分に話して欲しい。
 それが自分のわがままだとは知っているけれど、真美は素直に思った。
 友人って感じが、するじゃない? そうでなければ確かめられないような友人では無いけれど。

 それでも、なんとなくそういう仲間でいたいのだ。この、リリアン公認で今にマリア様にも認められそうなカメラちゃんとは。
 わがままじゃないよって笑顔を見せてくれた気がして、ちょっと嬉しかった。

「ともあれ真美さんは、ふっと自分たちの姉妹体制について疑問を持った。普通の姉妹ってどんなものなのか調べてみたくなって、だから取材してる。…っと、こんな感じかな?」
「そうね」
「取材の成果は?」
「あるけれど……でも自分とは遠いなあって思うわ。由乃さんの話を自分に置き換えてみたら、笑ってしまうもの」
「あはは、あの二人はリリアンでも指折りの極端な姉妹だからねえ。仲良しには違いないけれど」

 確かに。
 その辺は真美も、無責任に同意して無責任に笑える。

 でも、笑っていても何も解決しない。
 結局人の話は人の話でしかなく。個々人によって全く違うということが、解っただけなのだ。

「取材しても、それは参考にしかならないのよね。結局全然違うのだから、姉妹なんて。答えなんて全然解らないわ」
「当たり前だけれど、でもそれは有益な結論じゃないの」
「そうかなあ?」

 全然解決にならないと思っていた真美は、異論を唱える。
 蔦子さんはそうではないと思っているようで、あっさりと結論を一つ導き出す。

「つまり、取材の成果。本人に聞くしかないっ」
「……えっ。えっ!」
「真美さん、というわけで三奈子さまに突撃ー」
「だ、だめよっ。そんな事聞けるわけ無いじゃないっ!」

 確かに、取材結果として出てきた結論はそれかもしれない。
 けれど出来るくらいなら最初からこんな取材やってないわけで。

『お姉さま。お姉さまにとって真美はなんですか?』

 なーんて、聞けるはずが無いじゃないか! 恥ずかしいったらありゃしない。想像するだけで、顔から火が出そうだ。
 しかしもちろん、そんな面白いネタや真美を見逃してくれる蔦子さんでもないわけで。

「それなら、私が聞いてみるよ」
「え……えっ?」

 ある意味、予想通り。
 なんていっても蔦子さんだもの。悪気なんて欠片も無いけれど、行動力は抜群。おまけに微妙に機微に鈍いところもある。……うーむ、良く考えるとなかなか厄介なキャラである。

 って、それどころではない。
 止めなければ……と真美が思った時はすでに遅し。蔦子さんはカメラ抱えてぱたぱたと部室の外へ。お姉さまを探しに出て行ってしまっていた。
 な、なんて気の早い…っていうか追いかけなければっ。

「ちょっと蔦子さんっ!」

 しかし焦っている時ほど人間不器用さが表面に出てくるわけで。
 新聞部、十個なんて全然無いはずの椅子に何度も躓いて思い切り出遅れてしまう。ああ恨めしい、ゼロと誤差が無いであろう自分の運動神経。

「あ、三奈子さま。丁度良いところへっ」
「どうしたの、蔦子さん? …って、袖を引っ張らないで、袖をっ」
「まあまあ。何も言わずに写真部部室へどうぞどうぞっ。多少壁は薄いですが」
「なに言ってるの、あなたはっ?」

 ああ、お姉さま。なんてちょうど悪いところへ……。
 扉までたどり着いた頃に、がたんと隣の部屋の扉が閉まる音。ああ、遅かりしかな……。
 しかしそこで、蔦子さんのセリフが耳にリフレインしてくる。『多少壁は薄いから……』ってフレーズはそうか、メッセージ。

「盗み聞きできるって事ね、蔦子さん……」

 もちろん、真美も迷った。
 ほんの少しだけだけれど、迷って。そして、すぐに決める。
 壁に耳あり、障子に目ありの実践開始。

 ……って、この壁本当に薄いのねえ。
 如何に今まで新聞部のネタを写真部に聞かれていたか。想像するとぞっとする。

「お伺いしたいことがあるのです、宜しいでしょうか?」
「突然ねえ。まあ内容によっては無条件で。内容によっては条件付で…」
「三奈子さまにとってスールとはなんですか?」
「聞いちゃいないわね、この子……」

 さすが蔦子さん。お姉さま相手に考えたり言い訳させたり、条件提示させる暇を与えたら負けだ。
 あの人は基本的には打算的で頭も回るけれど、意外と勢いに弱い。だから自分は、あの人になかなか勝てないのには違いないのだけれど。蔦子さんなら勝てる。多分。

「例えば由乃さんにとっては所有でしょうし、独占でしょう。志摩子さんなら鏡とか、そんな感じで」
「ふむふむ、なるほど……なかなか着眼点としては面白いし、その推理も当たっていそうね」

 そりゃ当たってるさ。自分のリサーチの結果だもの。蔦子さん、取材ネタ取ったわね……。
 やっぱり写真部の新聞部部室入室は制限かけないといけないかな、と思う今日この頃である。
 だからと言って、耳を離すことなんて出来ない。お姉さまにとって自分がなんなのか。気にならないほど、強く冷たい自分ではあれない。

 お姉さま、やっぱり勢いに押されて興味を持ち始めてもいるみたいだし。

「答えてあげてもいいけれど、一つ条件が。どうして蔦子さん、突然そんな事を?」

 さすが、しかしお姉さま。
 興味しんしんって顔が浮かんでくる声で、蔦子さんに切り返す。ニュースソースを確かめる、記事の動機を確かめる。部長としても優秀だったあの人の一面を思い出した。
 さあ、蔦子さん。お手並み拝見。

「はい。実は一人、妹にしようかどうか迷っている一年生がいるんです」
「ほほう、それはなかなか興味深いわね」

 えっ! し、知らなかったそんな事。い、一体どこのだれだれだれ?
 ……って、そうきたか、蔦子さん。上手い手だ。さすが。

「それで、姉妹の先達である三奈子さまにアドバイスをいただけたらな、と」
「ふーん。ちなみにそれ、誰?」
「秘密です。というか私のスールになんて興味ないのでは?」
「そんな事無いわよ。リリアンのパパラッチ武嶋蔦子のロマンスなら、気になってる人も多いんじゃないかしら?」

 リリアンのパパラッチ……あながち間違ってもいないだけになかなか悪く無いネーミングである気もする。
 あの手合いと比べたらしかし、蔦子さんはずっとずっとお行儀がいいし倫理観にも溢れているけれど。
 ……いや、溢れてはいないか。ちょっと言いすぎ。

 壁の向こう。蔦子さん、苦笑いが聞こえてきそうな声でお姉さまに返事をする。

「それはまあ、ありえないと思いますけれど。でも、真美さんには内緒ですよ。幾らなんでも、記事にされちゃ困りますから」
「ええ、任せておいて。山百合会関連のスクープゲットに失敗し続けているんだもの、『リリアンの静止画姫、ついに姉妹宣言?』みたいな記事にしそうだからね、あの子」

 上手く切り抜けた。さすが蔦子さん。…しかしお姉さま、変なところ鋭い。でもスクープゲット失敗してるわけじゃなく、慎重に事を進めているだけなんだけれどなあ……。
 ともあれ、お姉さまがこういう軽口を叩くということは乗ってきているということだ。真美の耳も、壁により強くあてがわれる。

「それじゃ、お答えしましょう。私たちは特殊な姉妹だと思うから、参考にはならないかもしれないけれど」
「姉妹なんて、誰だって特殊ですよ。特殊を無理やり平均化したのが、普通って信じられている何かなだけで」
「あ、それはうまいこと言うわね。その通りかもしれない」

 蔦子さんらしい意見だ。
 けれど誰だって自分たちは特殊なんじゃないか、普通とは違うんじゃないかと思うもの。
 上手く行かないときは、それを言い訳にして。
 幸せな時は、そうやって自分たちをちょっとしたヒロインにしたい。

 そんな我がまま勝手な論理に動かされるのが、リリアンの姉妹の普通なのかもしれない。

「そうねえ……私にとって真美は、夢かな」
「夢、ですか?」

 特殊、とお姉さまは評価した。
 そんな真美たちのうちの、姉からした妹への評価はそれだった。

 夢。
 夢……なんだろう、それ?
 蔦子さんにもわからなかったようで、リアクションが素だった。してやったりみたいに喜んでいるお姉さまの顔が目に浮かぶ。

 けれど、そんなに調子に乗ったりはせず。
 落ち着いて、優しく静かな声で、ええ、って。
 築山三奈子は頷いて、続ける。

 自分たち評を。

「真美に言ったらきっと怒るけれど、私にとって彼女は娘みたいなものなの。どこか見ていて安心できないのよね。のんびりしているし、スクープに対する姿勢も甘いし。多少の捏造が無くてスクープなんて取れないのに」
「それはまた極端な意見だと思いますけれど……」

 全くだ。
 というか面倒見ているのはこっちだってば。いつも犯罪まがいの記事を書いたり、恫喝まがいの手段でつぼみの妹たちを脅かしたり。
 さすがに年下だから娘とは思えないけれど、手のかかる姉というかやんちゃな妹というか、そんなイメージを持ったりはする。安心できないのは、間違いない。

 ……姉妹揃って、お互いに同じような感想を持っているということなのかも、知れないけれど。

「娘と夢。結びつかないことは無いですけれど、少しギャップがある気もしますね」
「娘にかける夢って事なんだけれど、もう少し説明が必要かしら。…蔦子さん、私たちが姉妹になった時期っていつだかご存知?」
「いいえ、正確には知らないです。去年の早い時期だったとは思いますけれど。私が新聞部を意識し始めた頃にはもう、真美さんは三奈子さまの傍らにいましたから」
「ええ、そうなの。あれは……ゴールデンウィーク明けくらいだったかしら」

 その通り。
 壁に耳ありな真美は、壁を挟んでうんうんと二度ほど頷く。

 あれは、休み明け直後。
 お姉さまと真美が、二人でこつこつと記事を書いていた部室での出来事だった。
 急にふっと手を伸ばしてお姉さまは、今は真美の胸で揺れているロザリオを差し出したのだ。

「妹になりなさい、って。有無を言わせない感じで」
「へえ……ちょっと三奈子さまのカラーとは違う気もしますね」
「なんとしてもこの子を妹に、って思ったから。そうなったら私、強いわよ」

 押しには弱いけれど、押しは強い。
 お姉さまはそういう意味では、バランスが取れているのかもしれない。

 ちなみに真美は、押しに弱く理論に強い。
 どっちにも強いのが蔦子さん。そういう人ほど、かえって姉妹を持たないものなのかもしれないけれど。

「どうして真美さんに、そこまで?」
「好きだから。気に入ったから。顔が好みだから。元気がいいから。……まあ、色々な理由はあったけれど、一番はさっき言った通りよ」
「夢?」
「そう、夢」

 夢、夢。
 象徴的な言葉から、なかなか先に進まない。
 さらにお姉さまは、ちらっと横道へ。

「ねえ、蔦子さん。私と真美の記事、どっちが上手いと思う?」
「……技量という点で言えば、互角ですね」
「じゃあ、どちらの記事を読みたいと思うかしら」
「それは三奈子さまです。間違いなく」

 聞こえていると解っているくせに、はっきり言ったな友人め。
 ……ま、確かにその通りだから仕方ないのだけれど。
 自慢じゃないけれど自分だってそう思うだろう。二つの新聞、見出しやトピックを見ても、お姉さまの記事を選び取ると思う。

 お姉さまには、人が読みたいと思う記事を書ける才能があった。
 真美には、そういう目端はない。真っ直ぐ、正等派の記事を書いてしまう癖がある。性格だろう、きっと。

「そうよね。私の書くものの方が、扱っている内容が過激だわ。ぱっと見、面白い。けれどその分、プライバシー的に問題がある事もあるのよね」
「自覚してたんですか、あなたは……」
「まあね。ただ単に知る権利を優先させただけよ……私の中の」

 ああ、お姉さま。
 あなたはやっぱりお姉さまなのですね、って感じだ。自らの欲求に忠実であってこそ、お姉さまである。

「けれど、それはやっぱり反則なのよ。人に迷惑をかけず、それでいて面白い記事を書くこと。それがジャーナリズムの本義だわ」
「確かに」
「そしていつか、真美は私を超える。人と争わないで、魅力溢れる記事が書けるようになるわ。あの子なら、きっと」

 息が、止まるかと思った。
 お姉さまの言葉、嘘なんじゃないかと何度も耳を疑った。
 壁に押し付ける力を、より強く。薄い薄い壁が、破れてしまいそうなくらい。

「真美さんの能力、評価しておられるんですね」
「もちろんよ。だから、あの子は私の夢。……喧嘩して、意見を言い合って。でも一致なんてしなくて。……それでもいいの。私はあの子に、本物のジャーナリストになって欲しい。私にはちょっと無理だから、あの子に」
「だから、夢ですか」
「ええ。自分では届かない夢を託す夢だから、凄い夢よね。でも……」

 あ、笑った。
 お姉さまが笑ったのが、解った。

 どうしてだろう、根拠は無いけれど。でも。
 それって姉妹なのかもしれないって、漠然と感じる。

「でも、大切で大好きな妹にそれを託せるのだから、きっと私は幸せなのだと思うわ。真美は私にとって、出来の良い娘みたいなもの。親ばかみたいな気持ちで、でも心を鬼にして文句を言ってる。……そんな時間が、私にとっては凄く幸せなのよ……」

 そして、温かい言葉。
 言葉だけじゃない。声も、気持ちも、暖かい。

 お姉さまが、伝わってくる。
 お姉さまが、聞こえてくる。

 答えに、近づく。
 お姉さまの、言葉どれかが答えだと思った。
 どれだろう……見つけてあげなければ。

 頑張ってくれた蔦子さんに報いるため。
 お姉さまの気持ちに報いるため。
 そして、何より。

 お姉さまが見込んでくれている、自分の新聞記者としての才能にかけて。

「なるほど。夢、理解しました。そのこと、真美さんに言ってあげないんですか?」
「言わないわ、そういう子じゃないと思うけれど、誉めて調子に乗られても困るし。恥ずかしいし。それに……」
「それに?」

 真美が答えを探す間、三奈子はちょっとだけ蔦子をじらす。
 じらし方も、そして出てきた答えも凄く、お姉さまらしいもので、真美は小さく笑った。

「それに、勝てないって認める事、私大嫌いなのよね」
「……ははっ! 確かに確かにっ。それも凄く納得ですわ」

 認めたくない、大嫌い。
 ネガティブな言葉が、凄く楽しそうに、幸せそうに聞こえる。
 ……ああ、そうか。解った。
 壁の向こうで目を閉じて、真美は一度二度と頷いた。

 答え、見つけた。

「さて、それじゃ私はそろそろ部室に行くわ。また夢を鍛えてあげないといけないから」
「はい、解りました。ありがとうございます、三奈子さま」
「妹さんになるかもしれないどなたかに、宜しくね」

 椅子を引く音。
 立ち上がる音。

 お姉さまの、動く音。
 蔦子さんがその合間に、こんこんって扉を叩く。
 真美が聞いていると、間違いなく知っている部室と部室の間を。

『こんなものでいかがかしら、真美さん?』

 蔦子さんの声が、聞こえてきた気がした。
 十分すぎるよって、頷く私もいた。

 だって、やっと。

 やっと、気付いた。
 やっと、理解した。

「そうよね……」

 一番大切なこと、忘れていた。

 人がどうこうじゃない。
 自分が姉妹に求めるものってなんなのか。
 それを明確に言葉に出来る人なんて、むしろ少ないはずだ。山百合会は、そういう意味で特殊なんだ。

 一緒にいて、同じ時間を過ごしていて楽しいか。
 幸せって感じられるか。

 それだけだ。
 姉妹なんて、きっとそれだけのこと。

 それだけで。
 きっとそれだけで、十分過ぎるに決まっているのだから……。

「こんこん」

 口に出して、薄い壁を叩いて返事をして、真美はそんな事を考えていた。
 親友へのありがとうを、こんこんって音しか立ててくれない壁に託しながら、ずっと。

 幸せを抱きしめながら、ずっと。

 

 

 

 

 

 ほんの、十秒足らず。
 隣の部屋から出て、こちらの部屋にお姉さまがやってくるまでの時間。僅か。

 その間どれほど真美がドキドキしたか、きっと想像も出来ないだろう。
 凄かった。本当に、凄かった。
 思わず、開いたドアに突進しそうな自分を抑えるのに、苦労するくらいに。

「お姉さまっ!」
「あ、あら。どうしたの、真美。元気いいじゃない?」

 ちょっとだけ照れくさそうに。
 けれど、いつも通りに微笑むお姉さまに、心の中でたくさんの言葉をつづる。

 ええ、そりゃあもう。
 元気だって出ますよっ。
 だって、私はあなたの希望の星ですから。

 だって、そして。
 なんと言っても、私は。
 なんと言っても、あなたは。

「はいっ!」

 お互いを幸せに出来る、魔法を知ってるのですから。

「そうなの、結構結構。じゃあ元気を使って、一つ記事を書きましょうか。武嶋蔦子、ついにロザリオ授受か!?」
「ええ、私も噂は聞いていました。行きましょう!」

 隣の部屋から、およそ淑女らしからぬ奇声と椅子が数個転げ落ちる音が聞こえた気がするけれど、気にしない。
 今は、幸せだから気にしない。ごめんね、蔦子さん。
 でも、と真美はニコニコ微笑みながら自己弁護。

 だって。

「見出し、何にしようかしら。さっきのやつだといかにもよねえ」
「じゃあ……リリアンのパパラッチ、三次元の思い人現る! とかでどうでしょう?」

 もう一度、派手に転げる隣の騒音に、小さくごめんって言いながら。
 でも、呟く。心の中で、もう一度。

 だって。

 山口真美は、お姉さまの妹だから。
 大好きな、お姉さまの妹で。そして。

「それいい! いいわよ、真美っ。さすが私の妹だわ!」

 山口真美も、リリアン女生徒だから。
 普通に、こんな風に笑える時間を抱きしめていたい。

「はいっ、ありがとうございますっ!」

 ただの、二年生だから。
 だから今、こんなにも嬉しいから……。

 お姉さまと、蔦子さんの記事について話をしながら、ぼんやりと真美は思う。
 さっきまで考えていた記事。あなたにとってのお姉さまとは?
 これに、自分の意見をなんて書こうか。

 由乃さん、志摩子さん、祐巳さん。
 その脇に添える、自分の小さな意見をなんと書こうか。考えていた。

 魔法使い?
 お姉さまは、自分に魔法を使ってくれる人?

 正しいけれど。
 それは本当にその通りなんだけれど。
 でも、恥ずかしくて書けないな、ちょっと。 

 蔦子さんの尾行方法についてお姉さまが拳を握り締めつつ語りだした辺りで、真美は決める。
 この記事はしばらく、お蔵入り。
 でも、ほんのしばらくだけ。

 いつか。
 いつか必ず発行する。決めた。
 だって。

 だってこれを、真美は。 
 お姉さまの夢の、最初の一歩にすると決めたのだから。

 いつか、いつか。
 あなたにとって、スールとはなんですか?
 こんな記事がリリアン瓦版の一面を飾る、そのいつかが。

 きっと。

 真美とお姉さまにとっての、特別な一日になるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Wizards and Sisters.
『Wizards = Sisters』
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