あとがき
喜多子は、咲子さんに、博物学同好会でやっていることを聞いていた。そして余計、判らなくなった。
「『お菓子の種類と商品寿命』?」
とりあえず、オウム返し。
「中等部の頃から会全体でやっているテーマの一つで、大変な難敵ですのよ」
「……たいへんなの?」
「お菓子の新製品を全部食べるんです。毎年、どれだけの商品が発売されるかご存じ?」
「食べるのがたいへんなの?」
「太ってしまいますわっ」
すごい説得力だった。
「それに外食産業のメニューも興味深いテーマとして収集したり、食べにいったりしますから」
「──食べ物ばっかりなの?」
「移入動植物についてとか、人間による鉱物の移動とそれによる分布の変化とか、各個人でそれぞれに研究しているテーマは幅広いですよ。私は各言語間で翻訳された書物の数や比率から文化の交流について眺めてみようかと思ってます」
つまり、研究対象は何でもありで、学問のジャンルにとらわれず、ジャンルの枠を飛び越えたものが博物学らしかった。とりあえず、納得はしていないが。
「幸子さまは細分化が進んでいる今の科学では捉えられない広い領域を境界を意識せずに扱えるのが博物学だっておっしゃってます。ですから、喜多子さんが興味を持ったものが研究テーマなんですよ」
「最近、枝毛がひどいの」
「トリートメントはお使いになって?」
「朝、起きるのがつらい」
「三十分早く就寝なさっては?」
「CDが音跳びするの」
「レンズのクリーニングで直る場合はありますけど、長く使ったものでしたらそろそろ寿命とお考えになったほうがよろしいですわよ」
「通学のバスが混む」
「一本早いのに乗ると違うと思います」
「お姉さまがまたリリアンかわら版に載ってた」
「あれ、実は新入生勧誘の為の宣伝活動の一環で、狙ってやっていることなんですよ」
「お母さんがリリアンかわら版すごく好きで、私にも載れって」
そして、二時間後。
話し合いの結果、博物学同好会での喜多子のテーマ決定、保留。
なんというか、書けなくなる時期と締め切りが重なるのはきついなぁ(泣)。
ちなみに、書けなくなる時期は年間二百日程あるのですが。
そんな主催者。