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(初日・4月20日)… … … 今回は、トレイルヘッドまでバスに乗る必要がない。ティ・アナウの町から歩き始められるので、とても気楽だ。 きょう、初日のテントサイトは、この町から見て、ティ・アナウ湖の対岸の浜ブロッド・ベイだ。 湖岸を時計回りに、時に森の中に入り、時に湖面を渡る風をあびながら、のんびりとした2時間余りの散歩を楽しんだ。 ボートでやってきた家族連れが湖水浴を楽しむ横に、テント張った。 横といっても、広〜い砂浜。声は届くが、顔がわからないほどの距離である。のんびりしたもんだ。 飲料用の水は湖からすくう。日が傾くと、昼間、湖水浴をしていたはずの水がとても冷たく感じるほど、空気は冷えこんできた。 ティ・アナウの町灯りが暗闇に揺れだした。穏やかな夕暮れだ。 (2日日・4月21日)… … … きのうは2時間程度しか歩かなかったが、きょうは、ガイドブックによると10時間ほどの行程だ。 適当なテントサイトが途中ないので、きょうのうちに、大きなひとつの山を越えなければならない。 テント持参だと、予約が楽なかわりに、このように、一日の行程が非常にアンバランスになって、楽な日とハードの日の差が大きくなるのが、欠点といえば欠点だ。ルートバーン・トラックの時もそうだった。
というわけで、起床は4時40分。月明かりが異様に明るいがまだ朝の気配はない。となりのテントもゴソゴソし始めた。熱い紅茶とバンの朝食をとり、明けの明星に見つめられて、森のトレイルを歩き始めた。 月明かりと、ヘッドランプを頼りに、スイッチバックをひたすら登った。 足音や、水を飲む時にボトルをあける音が、静寂の森に不気味に響き渡る。近くで鳥が突然羽ばたくと、心臓が止まるほどだ。 歩き始めて2時間ほどで展望が開けた。 遊覧飛行でその上空を飛んだマナポウリ湖は、雲の布団をかぶっている。雲海だ。ティ・アナウ湖も同様。暗い森を歩いてきた目に、朝日が眩しい。木道に降りた霜が輝いた。 そんな朝日の中、ひとりの女性が下ってきた。ミルフォード・トラックでは人とすれ違うことがなかったからとても新鮮だ。 9時半に、ラックスモア・ハットに到着。宿泊客はすでにほとんど残っていなかった。トイレを借りる。
11時前。マウント・ラックスモアの頂上に立つ。頂上を示す三角形の骨組みが目印だ。ニュージーランドでは、頂上をめざす!というトレッキング・スタイルがないようなので、このように頂上に立つことは、とても新鮮な体験だ。当然、展望は抜群に素晴らしい。ティ・アナウ湖の雲海もとぎれがちで、遊覧船が穏やかな湖面に白い軌跡を描いている。 ここにいたるまでのトレイルには、結構な量の雪が残っていた。行きかう風も冷たい。冬が近い。
このマウント・ラックスモアからしばらくは、岩むき出しの稜線に近いところを進むので、見通しが素晴らしくいい。これから歩いて行くトレイルが、茶色い山肌に、ひっかき傷のように、細くどこまでも続いている。せっせと歩き続ける。 ハンギン・バレー・シェルターという簡素な避難小屋までくると、眼下にアイリス・バーンの谷が広がった。この谷の底に、こんやのテントサイトがあるのだが、これから、あそこまで下ると思うと…、恐怖だ。 すでに2時。到着は4時頃か。やはり、ガイドブックに書かれていた通り、出発してからちょうど10時間くらいの行程になりそうだ。 見通し通り4時にアイリス・バーン・ハットのテントサイトに着いたが、足腰はガクガク。果てた…。 しかし、夕暮れ間近、深い谷のテントサイトに日がさしてきて、なんとなく、癒されたひと時だった。 夕食は、ソーセージとタマネギとチーズが入ったラーメン、パンのチーズサンド、紅茶にドライフルーツのパインを浮かべ甘くしたもの。贅沢な晩餐だ。 日記を読み返すと、テント泊はきょうで14日目、ちょうど2週間がたったことになる。 テントの設営や撤収、メシ作りと、ひとつの暮らしのリズムができあがった。サンドフライの攻撃にも慣れてきた。が、耳が霜焼けになったように、痛がゆい。 ミルフォード・トラックのマッキノン・パスで寒風を浴びたせいだろう。 ちょうど秋分(日本の3月の彼岸)を過ぎて1か月。緯度的に見ても北海道の10月下旬くらいだろうから、テント暮らしで霜焼けになっても不思議はないはずだ…、と納得した。 (3日日・4月22日)… … … きのうは、大きな山を登って下るというバードは行程だったが、きょうは谷をひたすら歩く行程だ。距離的にみればハードだが、気持ちよく歩いていけそうだ。飽きさえしなければ…。 滝までの朝のサイド・トリップを楽しんだあと、テントを撤収し、出発したのは9時半。 トレイル脇には霜が降りているが、暑くなってフリースを脱いで歩く。 森を抜けたり、入ったり。小さな小川を幾つも渡り、小さな尾根を何度まわりこんだことか…。やはり、谷のトレイルは少々退屈である。 が、無邪気に寄ってくる小鳥が、時折、ボクの遊び相手になってくれだ。ロビンだ。ニュージーランドの野鳥は、怖いもの知らずなのか、日本にいるハトのように、すぐ近くまで寄ってくる。 動きがオチャメで、彼らを見ていると、心がなごむ。 昼前、河原におりて昼飯にするが、そこそこ暖かくなったせいか、サンドフライ地獄だ。
午後3時前、こんやのテントサイトのシャロー・ベイに着く。マナポウリ湖の岸にあるこのテントサイトは、トレイルそのものから離れているため、どこからかボートで釣りにやってきた人が数人いるだけで、本当の辺境の地といえる。風はなく、湖面は絵のように凪いでいる。 今回のニュージーランドの旅で最高のマッタリを満喫した。
雲が広がり始めた。予報通りあすは雨になるのか。ここからティ・アナウの町までは、平坦な道を半日くらい歩けばつく距離なので、あまり天気のことも気にならない。 夜、異様に蒸し暑い。遠くで犬がさかんに吠えている。こんな山奥で、飼い犬か? (4日日・4月23日)… … … ゆうべ、犬だと思っていのは鳥だった。ハクチョウのような大きな水鳥だったのだ。 早くシャワーを浴びたい! 曇り空で、気分は少々沈みがち。おまけに、きょう歩くコースも平坦で、ほとんどが森の中のようだ。 早く町に出たい。 森は森でも、ブナの森は、結構気持ちいい。岩の多いトレイルを歩いてきた目に、ブナの緑はとても優しい感じがする。さらに、地面はクッションのようにフカフカで足にやさしい。 右手に川の流れを見ながら、歩きに歩いた。 昼過ぎには、ティ・アナウ湖の水門にきて、3泊4日のケプラー・トラックは無事終了。 水門からティ・アナウの町まで歩く間に、雨が降り始めた。それは、猛烈に強い風が運んできた雨粒で、日射しもまだ十分に残っていた。 |