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ゆうべは、本当にヒヤヒヤした。ヒヤヒヤのし通しだった。 テントサイトにいたら、レンジャーの職務質問にあうからと、晩飯をさっさと済ませたあとは、真っ暗闇にもかかわらず、ホゼと二人で散歩に出かけた。キャンプ場が満員になるくらいに観光客が多いヨセミテ・バレーも、さすがに夜は出歩く人は少ない。ヘッド・ランプの明かりを頼りに、森の中や、川の岸を、中年男二人で散歩した。 川といえば、通常、雪解けのこの時期は、川の水が多くて当然なのだが、ホゼいうには、今年はとびきり多いらしい。4月に降ったハイ・シエラの大量の雪が、5月の陽気でかなりの勢いで解け始めているのだろう。本当に、川岸まで急流が迫っていて、大人のボクでも怖いくらいだから、子供なんかは簡単に流されてしまうのではないだろうか。 特に、ヘッドランプで、ぼんやりと照らし出された半径3メートルくらいの輪の中の急流を見ていると、吸い込まれてゆくような気分になる。 森がひらけた。星がきれいだ。 そんな星の下で、お互いニュージーランドで見た南半球の星空が綺麗だったこと、そこで星座が逆さまに見えたこと、飛行機や人工衛星がとても多いこと、ホゼの子供の頃のヨセミテでの思い出…なんかを語りながら、暗闇のヨセミテ・バレーを過ごした。 時折する物音にヘッド・ランプをあてると、その中をコヨーテが横切っていった。 そろそろ寝ようか、という話になって、キャンプグラウンドに戻った。そこでは、レンジャーが強烈はトーチライトをもって見回りをしている。これは、ボクらのようなものを取り締まるというよりは、ブラック・ベアの動きを監視するためのものらしい。テーブルの上などに、クマをおびき寄せる食べ物やゴミが残っていないか、といったことを見回っているのだ。 とはいうものの、ボクらはトーチライトに捉えられないように、木のかげに身を潜めて、彼らがいなくなるのを待った。ボクらにとっては、クマよりもレンジャーのほうが怖い夜だったのだ。 そして朝。ウイルダネス・パーミットをゲットするために、起きたのは午前5時だ。ウイルダネス・センターは7時半にオープンだが、それまでに行って並んで待とう!ということで、ゆうべと同じように二人で森の中を歩いた。 そこで、なんとか、あすから2泊3日のパーミットを手にすることができた。行く先はハーフ・ドームだ。これでひと安心。今夜は「堂々と」バックパッカーズ・キャンプグラウンドで過ごすことができる。そして、ホゼとはいったんお別れとなる。 「30日の午後、ホゼがウイルダネス・センターにメッセージを送る。そこでボクがメッセージを受け取る。そこで、おちあう場所を決めよう」という約束をして、ここからが、ボクの本当のひとり旅の始まりだ。 今までは、ホゼにお世話になりっぱなしで、それに甘えていた面もあり、後ろめたいような気分にもなっていたが、この先は、何から何まで自分でやらなければならない。この旅の本来の目的でもある「大型野生動物の存在に慣れる」という、ここ数日のナマヌルイ気分とは、対極の世界に入っていくと思うと、緊張が高まってゆく。 そんなあすからの暮らしを前に、昼間はヨセミテ・バレーでマッタリと過ごした。 旅も3、4日が経過すると、サイフが重くなってくる。といっても、金が増えているわけではなく、旅の始まりの頃は、地元の金の扱いに慣れていないため、ボクなんかは、買い物の支払いの時、あまり深く考えず「札を出してお釣りの小銭がたまる」という循環が出来上がってしまうのだ。このため、サイフがどんどんと膨らんでしまう。 山登りに、小銭は結構、邪魔に感じるくらい荷物になるので、ボクは、海外にいるときは、そんな小銭を全部切手に換えてしまうことにしている。そうすれば、サイフが軽くなるばかりか、ポストカードを書いたときにいつでも、投函できるという、一石二鳥だからだ。 あすに備えて、早く寝た。 「よく寝たなぁ」って思って目覚めたら、まだ明るさが残る夜の8時半だった。 |