8:フォー・マイル・トレイルを行く
(5月25日)


 朝5時過ぎには、テントから出てウイルダネス・センターに向かった。早起きも、もう苦にならないくらいに身についてきている。
 寝汗を予想して、シュラフにもぐらず、インナーのシーツだけで夜を過ごしたせいか、少々ひんやりもしたが、山のキャンプ場は、このくらいのひんやり感でちょうどいい。

 空を見る。けさは、これまで迎えた朝ようなピーカンの空とはちょっと違っていて、カメの甲羅の模様をした薄い雲が広がっている。日の出の頃には、それがパステル調のピンクに染まり、美しくもあったが、少々不気味でもあった。
 きのう遠くで聞こえていた雷鳴が気になっていて、雲に今後の天気の変化の前兆を見つけ出そうとしていたボクの目に、それは、今後の荒天を告げているようにも感じられた。が、あまり心配しないようにしよう。悲観的になると、ただでさえパワーのいるウイルダネスの暮らしが、辛いものになってしまう。
 早朝の森の中を歩いていると、たいくつで、こんなことばかりを考えてしまうのだ。

 ウイルダネス・センターにはすでに先客がいて、ボクは2番目。となりのポストオフィスで、ゆうべ書いたポストカードを投函してから列に続いた。
 ウイルダネス・パーミット取得のさいのレンジャーとのやり取りも、もうなれたもので、言葉が満足に通じなくても問題ない。無事に、ヨセミテ・フォール頂上へのウイルダネス・パーミットをゲットした。出発はあすだ。

 始まったばかりの一日を、きょうもヨセミテ・バレーでのんびりと過ごそう、と、いったんは思ったが、そんなことしたら、ストアで食料をしこたま買い込んで、食う、寝る、の繰り返しになりそうだったので、フォー・マイル・トレイルを歩くことにした。
 このトレイルは、ヨセミテ・バレーとグレイシャー・ポイントというヨセミテ国立公園の大展望台を結ぶ標高差およそ1000メートルのトレイルだ。北斜面につけられたスイッチバックであるがゆえ、今の時期でさえ半分より上は凍結か所があり、途中でクローズになっている、とレンジャーが言っていた。行けるところまで、のんびりと行くことを決め、テントサイトで洗濯をしたあと、のんびりと歩き始めた。

 途中、マーセッド・リバーが溢れたメドウのトレイルを裸足になって越え、そのあとも足が乾くまで裸足でアスファルトの上を歩いた。初夏の日射しを浴びたヨセミテ・バレーは、光る水と緑で満ちていたが、ほどなく、その輝きがあせてきた。雲が広がり始めたのだ。

 スイッチバックを登る頃には、完全に日射しがなくなり、眼下のヨセミテ・バレーの対岸にそびえているエル・キャピタンもイマイチぱっとしない。しかし足取りに乱れは現れない。重いザックを背負ってハーフ・ドームを往復した直後だけに、たとえ延々と続くスイッチバックでも、日帰り装備の今回は比較にならないほど身軽なのだ。1時間半もかからずに、「closed」の看板に行く手をふさがれ、そこからヨセミテ・バレーを挟んだ向こうにハーフ・ドームの迫力ある風景を楽しんだ。
 このハーフ・ドーム、どこから見ても迫力満点だ。

 くもり空のせいで、写真を撮る気にもなれず、早々にそこを下り始めが、とたんに雲が切れ、日射しが戻ってきた。もうちょっと、のんびりしていれば良かったと思っても、もう一度登り返すなんて気は当然起こるはずもなく、午後3時すぎ、トレイルヘッドへと戻った。
 日曜日ということもあってか、バレー内の道路は大渋滞と違法駐車の列。そこには、日本の観光地とほとんど変わらない姿があった。

 夕方、テントサイトに戻ると、「warning!」の紙があるではないか! 何かヤバイことをしてしまったか。その警告書を見ると、
(1)ベア・ボックスが開いたままだ!
(2)焚き火の木を集めるな!
という2点。(1)はボクのうっかりミス。今後厳重に注意せねば。(2)は、はじめからあったものでボクが集めて燃やしたわけではない!

 翌日に備えて、というより、晩飯を食うと、することもなく、きょうも早く寝た。


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happy trail