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きょうは、ホゼから、ウイルダネス・センターにメッセージが届く日だ。そして、あすはサンフランシスコに戻ることになる。つまり、きょうはヨセミテ・バレーで丸々一日過ごせる最後の日、ということになるのだ。 おととい、ウイルダネスから戻ってきた時には、ジョン・ミュア・トレイルのバーチャル・トリップでもしながら、マッタリとした残りのヨセミテ・ライフを楽しもうと思っていたが、いざ、二日連続となると、少々もったいない気もしてくる。せっかく初夏の日射しがサンサンと降り注ぐヨセミテにいるのだから。 バーチャル・トリップなんて、いつでもどこでもできる! あ、バーチャル・トリップというのは、ガイドブックと地図を見ながら下調べをすることで、1か月半先の挑戦に向けての準備のことである。 そんなわけで、きのうの続きのバーチャル・トリップは、きょうは取りやめにして、日帰りの軽いトレッキングに出かけることにした。ただ、このヨセミテ・バレーから出かけるとなると、ほとんどがスイッチバックを登って谷から抜け出して行くトレイルをたどることになるので、心の準備がないと、気分がのってこないことも事実だ。しかし、行く! 雲ひとつない朝。冷えたテントサイト。地図を眺めた。 ヨセミテ・フォール、ネバダ・フォール、そして、フォー・マイル・トレイルと、すべて歩いた。残るは、ミラー・レイクを越えて、さらに奥へのびているトレイルだ。 テナヤ・クリークに沿い1マイルほど行ったあとスイッチバックにとりつき、スノー・クリークに出る。その先、ハイ・シエラへ出たトレイルは、テナヤ・レイクへと続いている。が、日帰りで行けるのは、スイッチバックの終点あたりまでだろう。 ゆっくり出て、ゆっくり帰ってくれば、午後3時くらい。その後、ウイルダネス・センターにホゼからの伝言をとりに行く。時間があったら、シャワーでも浴びよう。
蚊の多いトレイルだ。シャトルバスに乗り、ミラー・レイクまで歩くと、朝ということもあってか、人はまるで見当たらない。そのかわりに、蚊が群がってくる。森のトレイルに射し込む日射しに輝く蚊を見ていると、それだけで暑く、痒くなってくる。雪解け水で浸水したトレイルを迂回するため森に分け入ると、それは一段とひどくなった。 そんな中、心をなごませてくれるのが、黄緑色の若葉だ。エバークリーンの深い緑とは対照的な命の躍動を感じる緑である。 こんな感じで、当時の日記、というかメモを見ながら、歩き始めたトレイルのことを書いていたのだが、何時に出発した、とか、どれくら歩いたとか、といった記述がまったくない。メモを読み進むと、こうあった。 「メモをとるため立ち止まると、いっせいに蚊が群がってくる」 この蚊を攻撃から逃れるために、立ち止まることもなく、森のトレイルを歩き、スイッチバックを駆け上がったのだと、今、思い出した。 メモをとれるくらい蚊が少なくなったのは、スイッチバックを登り始めて15分ほどたって、小さなクリークを横切る所まで来た時だった。ほっとひと安心。かせいだ高度は約600フィート、200メートル弱といったところ。9時40分。 スイッチバックは延々と続く。おまけに南向きの斜面であるため、高くなった太陽は容赦なくこの斜面を登るヤワなバックパッカーを攻撃してくる。蚊がいなくなったと思ったら、今度は太陽だ。逆行に輝くハーフ・ドームは、これまで見たこともないようなアングルでボクの視界に入ってきた。新鮮な迫力。 この先、ボクが登るべきスイッチバックに、まだ終わりは見えず、さらに高度を上げて行かなければならない。つまり、テナヤ・キャニオンを挟んだハーフ・ドームの絶景は、まだまずこのあと迫力を増してくるはずだ。 スイッチバックのトレイルは、ボクのそんな期待にしっかりと応えてくれた。午前11時15分。スイッチバックをちょうど2時間歩いてたどりついた台地は、抜群の見通しだ。ゆるやかな花崗岩の斜面は、野球場が入りそうな広さで、大きな木も岩の隙間にわずかに生える程度。テナヤ・キャニオンから一気に高度を上げるハーフ・ドームの迫力は、ヨセミテで見る最高の風景かもしれない。
ここにくるまでに出会った人は、わずかに1人だけ。ガイドブックなどには、単なるハイ・シエラへの通り道的な扱いしかされていないせいか、極端に人が少ないのだ。事実、ボクもここを訪れるのは、ヨセミテ・バレーの中では最後になってしまった。しかし、ここはかなりのオススメポイントだ。静寂のウイルダネスを満喫したいものには、文句なくオススメだ。 すぐ後ろから、スノー・クリークの激流の音が聞こえていて、水も十分にある。手元にある地図を見ると、この平らな所は、キャンプ禁止区域から外れていて、テントを張ることもできそうだ。今度来たときは、ぜひここでキャンプをしよう! と、本気で思うほどに素晴らしい所だ。 昼を回って谷に下る頃、斜面は陽炎が立つほど暑くなっていたが、スイッチバックは1本のクリークを何度も横切っていて、肌を冷やす水にはことかかない。良くできたトレイルである。 ヨセミテ・バレーに戻り、コークを飲みながらトレッキングの余韻に浸り、4時半、ウイルダネス・センターで、ホゼの伝言を受け取った。 「あす午後2時、ウイルダネス・センターの前で会おう」というメッセージだった。 |