14:タイオガ・パスへ
(5月31日)


 4月の大雪の影響で、異例の6月7日までずれ込むと発表されていたタイオガ・パスの夏季オープンが、きょう5月31日になるという。HPに、その残雪状況が逐次報じられていたハイ・シエラをゆくこの観光道路も、懸命の除雪作業と5月の異常とも思える暑さで一気に春を迎えたようだ。
 4月の大雪も異常なら、5月の暑さも予想外。自然は、ボクら人間が思うシナリオにはなかなか従ってはくれない頑固者だ。

 ホゼとの約束は昼過ぎ。早起きする必要なんてないのだが、最後のヨセミテ。谷底に日が射しこんで来る前からボクはカメラを持って、森の中とか、メドウとか、アスファルトの上を歩きまわった。昼間の気温は軽く30℃を越えるのに、朝は指先がかじかむほどの寒さだ。暖かいコーヒーがとてもありがたい。

 テントを撤収して、荷物をすべてザックに詰め込み、キャンプ場を出た。そして、約束までの時間、本を読んだり、ジョン・ミュア・トレイルのバーチャル・トリップをして過ごした。
 木陰のベンチのテーブルには、積もるほどの花粉が黄緑色に広がっている。気づくと、帽子やガイドブックや地図の隙間など、いたるところに花粉が入り込んでザラザラしている。たぶん、木か何かの花粉なのだろうが、砂ぼこりのように舞い上がっていて、谷の風景も霞んで見えるほどだ。

 ホゼが、汗をダラダラと流しながら、やってきた。なんだ、それ?ってたずねると、駐車場から走ってきたのだという。
 ヨセミテ・バレーでは、日帰り客用の駐車場と、情報が集まるビジターセンターとの間に距離があるためシャトルバスも走っているのだが、そこをホゼは走ってきたというわけだ。新しい靴を買ったから、と、ジョギング好きのホゼは、足元を指差しながら、汗を笑顔で光らせる

 クマを1頭だけ見たこと、そしてその足跡が雪の上にたくさんあったこと、残雪が多くて水浸しのトレイルを歩いたこと、などなどを話し、タイオガ・パスがきょうオープンだ、というと、ホゼは、「じゃ、ドライブだ!」と、こたえた。

 閉め切ってした時間はほんの数十分程度のはずなのに、車の中は灼熱地獄。ボクらはヨセミテ・バレーを出ると、折り返すように分岐しているタイオガ・パスへ続くオープンしたてのタイオガ・ロードをたどった。針葉樹の森の中を一気に高度をあげ、見通しが開けると、雪のハイ・シエラだ。広々とした道路は、突然のオープンのせいか、週末にもかかわらず車が少ない。

 最初に立ち寄ったのは、オルムステッド・ポイント。路肩を広げたような駐車場からハイ・シエラが見渡せる。南のほうに遠く見えるのはハーフ・ドームだ。ハイ・シエラの広がりを実感した。そして、何よりも風が心地いい。
 きのうまで、昼間は猛烈な暑さに悩まされていたのに、今は、その灼熱の谷を抜け出し、春の風が吹きぬけるハイ・シエラにいる。

 そして、次に訪れたテナヤ・レイクは、湖面の3分の1程度がまだ雪や氷に覆われたままだ。開いた湖面が雪を頂いた山々を映して美しい。

 ひとけのないトゥオルム・メドウを通りすぎ、この道路の最高点であるタイオガ・パスは、まだ春浅いといった風景で、風は冷たい。ボクらは記念写真を撮って来た道を戻った。

 サンフランシスコへ戻る途中、オークデイルというカーボーイの町でステーキをご馳走になった。これまで、何度もアメリカ西部を旅しているが、テントサイトやファスト・フード以外で食べるメシは初めてのこと。このステーキも感激だったが、フリーウエイから見る地平線に沈む太陽には、さらに感激した。

 ホゼは、平然とハンドルを握っていて、特に感激している様子がないところを見ると、日常のことなのだろうか。
 ボクは、この夕陽を一生忘れることはないだろう。


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happy trail