20:雨で停滞
〜デナリ・トレッキング2日日〜
(6月6日)


 ゆうべから雨が降り始めた。
 雨はさほど強くはない。テントを張った場所は、ゆるやかな傾斜がテントひと張り分だけ平らになっている場所で、少し窪みになっている。雨が強くなれば浸水を気にしなければならないが、この程度の雨なら大丈夫だろう。

 雨は午前9時過ぎにやんだ。そして辺りは明るくなり始めた。低い雲が全天を覆っているが、雨と強い風のせいか見通しがとてもいい。鳥のさえずりも聞こえている。食事のために外へ出た。
 このように天気が崩れた時のウイルダネスでは、食事も天気のペースにあわせることが求められる。というのも、ウイルダネスにおける食事は、テントの中や近くですることができない。匂いにつられてグリズリーが寄ってくるからだ。おのずと食事は、外でとることになるのだが、高い木が一本もないツンドラでは、天気が崩れれば傘をさして食事をすることになる。実際、そんなことはしれいられない。このため、食事は雨のやみ間をついて手際よく済ませなければならないのだ。

 きのう川から汲んでおいた灰色の水は、氷河が削った細かい不純物が沈澱して、きのうよりも透き通って見える。たっぷりの湯でオートミールをつくり、残った湯で歯を磨いた。
 当然、食事の後始末をしなければならないのだが、この方法にも、厳格な規則がある。
 ゴミを埋めることは許されないし、洗った水なども普通に流すことはできない。コヘルなどを洗った水は、テントから充分に離れたところで、思いきり空に向かってばらまくのだ。1か所に流すよりも、匂いが発散して、クマに届きにくいという理由からだ。ゴミは、食料とともにベア・キャニスターに入れておく。

 きょうは、停滞することに決めた。ここでもう一泊しよう。天気が回復していれば、ムース・クリークを越えて、マウント・ガレンを登るつもりでいたが、風が強いうえに雲が低い。天気が崩れれば、山では雪になる恐れもある。
 食後はのんびりとテントのまわりを徘徊し、 20枚ほどの花の写真を2時間余りかけて撮影した。雪解け直後で、辺りは見渡す限りの冬枯れのツンドラだが、足元では小さな高山植物があちこちで花を咲かせていた。



 午後も、小雨が降ったりやんだりするリズムにあわせて、テントの中に入ったり、ツンドラを歩き回ったりして、時間をやりすごした。
 ムース・クリークの氷の上に動くもの見つけた。望遠レンズで覗くと、2頭のカリブーが徘徊している様子が見えた。レンズの中をゆく2頭のひづめの雪をかく音が聞こえてきそうなくらい辺りは静かだった。

 しかし、この静かな大地も、夕方からは雷や雨で賑わい出した。幸い雷がテントの近くにやってくることはなかったが、テントの中に響く雨の音がイライラをつのらせた。雨は弱まることなく続き、夕食をとるチャンスがないまま時間が経過していった。
 食事ができないくらいで済めばいいが、浸水が気になる。暗くなる前にベア・キャニスターのところへ傘をさして歩いてゆき、その日の夕食とした。体から食べ物の匂いが少しでもとれるようにと思い、あたり歩き回ってからテントに戻った。

 雨の日のテントの中は、何もすることがない。おまけに明るいから眠ろうという気すら起こってこない。「暗くなる前に」と思って、食事代わりのおやつを食べたが、雨の午後8時を過ぎてもちっとも暗くなるような気配がない。
 だらだらと日記を書く。日本に帰ってから行きたいところをリストアップする。そんなことを繰り返してゆく。あしたはなんとしても晴れて欲しい。テントを叩く雨のあとは、さらにボクにイライラをつのらせる。


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