
日曜日。日射しが戻ってきた。3日ぶりなのに、もう何週間も見ていなかったような懐かしい眩しさだ。マッキンリー、最高! 空にはまだ雲が多いが、5時45分、朝日が射したアラスカ・レンジを見て、思わず走ってテントに戻った。カメラを構え、ファインダーを覗く。辺りにはまだきのうの雪が残っているが、日射しが当たると、わずかな「夏」の暖かさを感じた。感謝。 8時。撤収を終え、3日ぶりに歩き始めた。向かう先は西だ。 ツンドラの中の小さな池の湖面にマッキンリーの雪が白く輝いた。 パークロードから1マイルほど離れて、それをと平行に歩き続けた。
残雪の中で、無視して通り過ぎることができないほどの可憐が高山植物が健気に風にゆれ、クマの足跡に恐怖を覚える。テントの中で天気ばかりを気にしていたきのうまでとは違う。ウイルダネスは素晴らしい。初日に、北に向かって横切ったパークロードを、今度は南に向かって越えた。歩き始めてから3時間がたとうとしていた。
見渡す限りなだらかなツンドラの斜面も、いざ歩いてみると、小さな険しいアップダウンの連続であることがわかる。いつか訪れたことのある釧路湿原で見た谷地坊主とか、谷地まなこ。これと同種のものがツンドラを構成している主役だ。雪だるまのような谷地坊主を、川に散りばめられた飛び石のように伝おうとするが、何せ草のかたまりであるから不安定極まりない。小さなブッシュが密集していて、それが足元で落とし穴のように、ボクを待ち受けていることもある。何度も転んだ。水の中にも転んだ。ドロドロだ。それを数え切れないほど乗り越えて、3日前に歩いた河原に出た。正午…。このあと午後は、マッキンリー・リバーの河原を、西に向かって歩けるだけ歩くだけだ。
地図と周辺の景色を見比べながら、ブッシュを掻き分け、皮膚が切れそうなほどの川の中をザブザブと渡り、底なし沼のような砂地に恐怖を覚え、西へ向かった。氷河を源とする流れが日射しに不気味に輝き、視覚からも強烈な寒さが体の中に入り込んでくる。夕方6時。ようやく、その日の行程を終えた。 歩いている最中、時折、北を通るパークロードを走るシャトルバスが見えていた。ということは、バスからもこちらが見えていたはず。ルールに定められている通り、ボクはパークロードから見えないような木の陰を探してテントを張った。 川は、本流を離れ淀みに入って落ち着くと、泥などの不純物を沈殿させながら、透明度を増してゆくようだ。きょうの飯は真っ白に仕上がった。 靴も、靴下も、手がちぎれそうな冷たい水でザブザブと洗ってすっきりした。見晴らしのいい河原で過ごす午後。昼間の長さを有難く感じる。最高の贅沢。
夕方9時前。半透明の高積雲を通して、やわらかな日射しが射し込んできた。洗濯物を乾かすには頼りない日射しだが、きのうまでの天気を思うと、これでも100パーセントの大満足だ。ありがとう、太陽。ありがとう、風。ありがとう、デナリ。あと、何に感謝を伝えたらいいのか…。夕方10時。太陽はまだ健在だ。デナリへ来て初めて月を見た。セルフタイマーで河原に腰掛ける自分の姿を撮る。 夕方11時すぎ。北に回りこんだ太陽が、アラスカ・レンジを淡いピンク色に染めた。マッキンリーは青い闇の中に雄大に座っている。長い一日が終わろうとしていた。 |