27:フェアバンクスの日々
(6月13日〜15日)


◆(6月13日)◆


 ゆっくり眠っていようと思っても、6月中旬の北緯65度のフェアバンクスに夜はやってこない。明るい時間に眠り続ける、というのは、なかなか難しいものである。というわけで、けさも起きたのは5時40分だ。トイレの窓は常に開け放たれていて、かなり冷えている。窓の外に見える丸い温度計は華氏60度をさしている。だいたい摂氏15度くらいか。

 テレビをつけると、グレゴリーペックの死を報じている。同時に、阪神中日戦のファンの暴動が流されていて、思わずベットから立ち上がり見入ってしまった。

 9時前。30分ほど歩いてダウンタウンのビジターセンターにやってきた。きのう、ボクをフェアバンクスに運んでくれたバンが、ビジターセンター前でピックアップしている。
 ポストカードを一枚買った。

 ニュージーランドでも感じたことだが、こういった小さな町のポストカードの写真はとても美しい。1枚づつ買えるところもありがたい。気に入った写真を探し好きな枚数買えるというしくみが日本にはない新鮮さで、ボクは海外で何度も何度もポストカードを買った。そして、トレッキングの休憩時間や食事のあとなどに、気軽な気持で日本にいる友人、知人に葉書を書いた。メールやインターネットでのコミュニケーションが多かったサラリーマン時代にはなかった心地よさである。

 そこからチナ川を北へ渡って、アラスカ鉄道の駅にやってきた。チケットを買うためだ。
 アラスカ鉄道はとても有名で、乗ってみたいとは思っていたが、なにせ高い。そのため、ボクはアンカレッジまでの帰りも、バンを利用しようと思っていたのだが、きのうホステルで会ったハセガワくんが、「ぜひ、乗って下さい。高いですがそれだけの価値はあります」と強く勧めていたので、簡単に心が動き、今、ここに立っている。次にいつやってこれるかわからないし、と自分を納得させ、$175のチケットを手にした。これは同じ区間のバンの料金のほぼ倍にあたる。

 それから西をめざした。アラスカ大学フェアバンクス校に行くためだ。が、これはかなり無謀だったようだ。
 長いだけでなく、途中、道が途絶え、工事現場に迷い込んだり川をまたいだり、ウイルダネスと同じようなスタイルで歩いたのだ。
 途中BEAVER SPORTSというアウトドアショップでナルゲンボトルをお土産用に買い、Gulliver's Booksで、値引きされた本を買い、アラスカ大学の博物館に着く頃には、ボクは完全に疲れ果てていた。

 この日のボクはさらに歩いてホステルに戻り、合計20キロほどのトレッキングをこなしたようだ。  途中、スーパーで、ブロッコリーやアスパラ、ソーセージといった新鮮な食材を買い込み、戻ったホステルでこれでもか!というくらいの量の夕食をとり、一日を終えた。

 ちなみに、フェアバンクスにもちゃんとバスは走っているので、その気になれば、こんなに歩く必要はない。


◆(6月14日)◆


 けさは、きのうよりも早い5時20分に目が覚めた。もちろん目覚ましやアラームなどはない。これほど早起きする必要はないのだから当然である。ベットの上で、しばらくラジオを聞いたあと、7時半にはダウンタウンに向かって歩き出した。きょうはダウンタウンの公園で、きのう買った本Two in the Far Northでも読もうと思う。英語だから、すみからすみまで読めるはずなどないが、雰囲気だけでも味わおう。

 途中、5th Ave.のバス停では、ライラックが花盛り。札幌に比べると半月程度の遅れで、夏へ向かう季節が巡っているようだ。
 ダウンタウンでは、大部分の通りを封鎖して路上バスケット大会をやっている。公園のすみではジャズバントの生演奏が行われている。いいかんじの土曜日だ。
 その生バントのひとりが、よってきて「きのうまで京都にいたんだ」と言う。今の京都といえば、梅雨の真っただ中で、アラスカ人にとっては最も不快な季節ではないか。そんなふうに彼に言うと、顔をしかめていた。

 快晴のフェアバンクス。暑くなり日陰に入ったり寒くて日向に出たり、そんな繰り返しで一日が終わろうとしている。Two in the Far Northは挫折して、途中、ジョン・ミュア・トレイルのバーチャル・トリップをする。
 帰りに寄ったスーパーの書店で、定価$75のナショナル・パークの写真集がなんと$15ドルで売っていた。また荷物が増えてしまった。

 ホステルに戻ると、ホワイトホースに向かったハセガワくんに代わって、別の日本人がやってきていた。山梨県に住む夫婦で、このあとレンタカーで、どこまでも北をめざすという。もうアラスカは常連さんらしく、quiet timeまで延々と話がはずんでしまった。


◆(6月15日)◆


 きのうまでよりも少し遅い6時20分起床。きょうはフェアバンクスで過ごす最後の日だ。あすは、アンカレッジの向かうアラスカ鉄道の7時15分のチェックインに間に合うようにここを出なければならないので、のんびり過ごせる朝はきょうが最後になる。

 朝の静かのホステルのキッチンから外を眺めてぼんやりする。
 庭の白樺の幹には、温度計が縛りつけられていて、新緑の緑がキラキラと輝きながら揺れている。風車がのんびり回っている。ここの夏は最高だ!と言っていたおじいちゃんオーナーは、まだ静かに眠っている。
 オーロラの季節にも来てみたいなぁ、なんて、キッチンの壁に貼ってある小さなオーロラの写真を見ながら思う。

 きょうはパイオニア・パークで過ごした。遊園地のようなところではあるが、入場料はなく、日本の感覚的でゆくと大きな公園のような感じだ。アトラクションには金がいるが、広い芝生の上で、ゴロッとしているぶんには何らお金は必要ない。園内には開拓時代に大河を溯った蒸気船がおいてあって、そこに入ってみればかつての時代に思いを馳せることができる。
 園内にあったAlaskaland Pioneer Air Museum という飛行機の博物館に入ってみた。
 アラスカの生活には欠かすことのできないブッシュパイロットの歴史や航空機の歴史などもありなかなか興味深い。本物の飛行機も展示してあり、飛行機好きにはたまらないのではないだろうか。
 広い園内で、のんびりとした日曜日を過ごした。

 ホステルに戻ってびっくり。山梨から来ていたナカジマ夫妻からのメッセージが置いてあった。ありがたい。夕食の準備をしながら、早速ポストカードを書いた。
 その日の夕食は、あまりもの何でもかんでも腹に詰め込んだ。さらに、あす、アラスカ鉄道の中で食べるためにサンドイッチを山ほど作った。乗り物の中では、食べ物はあっても高いだろうから、少しでも節約するためだ。


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happy trail