■シエラの暮らしのこと■

■シエラネバダ
シエラ」とは「急で荒々しい山並み」という意味で、そこに「ネバダ」がくっついた「シエラネバダ」は「雪の山並み」という意味。スペイン(語を使う)人の間で使われている言葉です。
 しかしここでは、ある特定の「山並み」のことをいっています。それは、アメリカ西部のカリフォルニア州にある「シエラネバダ山脈」です。

 ちなみに「シエラ」という言葉がすでに「山脈」という意味を含んでいるので、「シエラネバダ山脈」という表現(訳)よりも「シエラネバダ」と表現したほうがいいかもしれません。


■「暮らし」の意味
シエラの暮らし」とは「シエラネバダ」における「暮らし」のこと。
 といいたいところですが、一般にイメージされる「暮らし」ではなく、私が2003年の夏に「シエラネバダ」を旅したときの様子を本にまとめた、そのタイトルなのです。

 テントや食料など、山の中を旅するために必要なものすべてを背負って歩いた38日間。とちゅう町におりたり、買い物をしたりすることはありましたが、標高4000メートル級の峠をいくつも越え、ブラックベアなどの野生動物におびえ、山小屋もない山を、これだけ長期間に渡って旅する(歩く)ことは、当時の私にとっては大きな冒険でありチャレンジでした。
 そのチャレンジにおける「精神的プレッシャー」や「不安」を最小限にするために生まれたのが「暮らし」という発想です。

 この世の中に暮らしているかぎり、「楽」もあれば「苦」もあるわけで、思い通りにいかないことも数多くあります。そんななか、楽しいことは思いきり楽しみ、困難なことをなんとか解決しながら暮らしている、というのが現実ではないでしょうか。
 そんな普段の暮らしのように、このチャレンジに挑もう、と考えたわけです。

 そこまでしてなぜ、シエラネバダを旅しなければならないのか…。その問いに答えるのが、ジョン・ミュア・トレイルです。


■ジョン・ミュア・トレイル (John Muir Trail)
 ジョン・ミュア・トレイルは、シエラネバダを南北に貫いているトレイル…、つまり山道なのですが、その長さが半端ではありません! なんと、211マイル、約340キロに及びます!
 日本に置き換えてイメージすると、東京と名古屋の間に北アルプスが横たわっているとして、その山の中に一本の山道があるような感じです。

 しかし、北アルプスにある山道とは決定的な違いがあります。それは一部の例外を除いて、
(1)山小屋がない
(2)キャンプ場がない
(3)トレイルが山頂を通らない
などで、つまり、自然のままのトレイルなのです!

「自然のまま」とはいうものの、実は厳格な管理下に置かれているという側面もあります。

 というと「自然なの、それとも違うの?」と疑問の声があがりそうですが、放ったらかしにしたままの自然の行きつく先は、人間に好き放題に荒らされた瀕死の自然であることを、目にしたことのある人もいるでしょうし、そうでなくても感覚的にそう認識している人も、少なくないのではないでしょうか。

 それを克服したのがジョン・ミュア・トレイルなのです!


■人間は自然の一部という発想
 わかりやすくいうと「自然を自然のままの状態で楽しもう!」という発想がこのジョン・ミュア・トレイル にはあります。そして、大切なのは、自然を自然のままに維持するために、ここでは人間も管理されるということです。

 自然を楽しもうという人にとって、「管理」されることに抵抗を感じる人も多いと思いますが、実践することは難しいことではありません。大切なのは、人間は自然の一部という発想です。

 ジョン・ミュア・トレイルを歩くハイカーは、トレイルヘッド(登山口)などで、事前に許可をとらなければなりません。「自然を自然のままの状態」で維持するために人数制限が設けられているためで、定員オーバーなら歩くことはできません。
 また歩き始めてからもたくさんの規則を遵守しなければなりません。しかし、規則の大部分は「人間も花も野生動物も同じ立場」という発想にたてば、あたり前のことばかりです。

 それらを理解したハイカー達に愛されているのが、このジョン・ミュア・トレイルなのです。
 大自然のスケールと美しさはもちろん、自然と人間との共存が見事に達成されている貴重なトレイルといえます。


■予定外の「シエラの暮らし」
 この旅の目的は、ジョン・ミュア・トレイルの全行程211マイル、約340キロを完全踏破にあったのですが、それを23日間で歩き切ることができました。そしてこの23日間で、完全にシエラネバダの虜になり、そんな気持ちを抑えきれず、すぐにまたシエラネバダに戻ることになりました。

 シエラネバダには、ジョン・ミュア・トレイルの他にもたくさんのトレイルがあり、今回の旅で歩いた距離は、予定していた211マイルの2倍近い383マイル、合計38日間の放浪となりました。

 拙著「シエラの暮らし」はその全行程の記録です。本には書ききれなかったことや、載せきれなかった写真をこの web-site で公開します!


 


 

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