■Pacific Crest Trail との出会いと成功の可能性■

 日本ではそんなに知られていないパシフィック・クレスト・トレイル。知ったのはいつかなぁ…、と思い返してみてもはっきりと思い出せません。ただ、初めてアメリカ西部を旅したのが25才の時。それから何度もアメリカ西部の国立公園へと通ううちに知るようになったことは確かで、身近に感じるようになったのは2003年にジョン・ミュア・トレイルを完全踏破した時だったことは間違いありません。

 ジョン・ミュア・トレイルは、そのほとんどが、パシフィック・クレスト・トレイルと重なっていて、そこを歩いていると、「PACIFIC CREST TRAIL」という小さく控えめな看板が存在感を放っていることに気づきます。気づくばかりか、正直なところ、いつからか非常に気になってきました。「いつか、歩いてみたい」といった具合に。

 だから、ジョン・ミュア・トレイルを歩き終え、日本に戻ってからの私が「翌年はパシフィック・クレスト・トレイルを歩こう」と動き始めたのは自然のなりゆきだったといえるかもしれません。
 実は帰国前に、すでにアメリカの書店でパシフィック・クレスト・トレイルのガイドブックを買い込み、サンフランシスコの古本屋で関連の本を手に入れてたりしていて、ジョン・ミュア・トレイルを歩いている最中に、すでに私のパシフィック・クレスト・トレイルは始まっていた、ともいえます。

  「思い立ったのはいいが、実際にできるものなのか?」
 少し前の私なら、きっとそう悩んでいたと思います。しかし、去年(2003年)サラリーマンをやめ、できるかどうかわからなかったジョン・ミュア・トレイルの完全踏破を達成した今となっては、自分の考えが「できそうだからやる」のではなく「やりたいからやる」ということに価値を見い出すように変わってきているのです。
 そして、自分がどの程度できるのか、本当に追い込まれた時にどんなふうに行動するのか、という興味もあり、やるからにはどうしても達成したい、という気持があることもまた事実です。

「ジョン・ミュア・トレイルを歩けたのだから、その延長の感覚でいけばなんとかなりそうだ」。
そんな気分で思い立ったはいいのですが、「いや、それは、かなり甘い考えかもしれない」と思い始めたのには、いくつか理由があります。

 まず、行程全体が山ではないこと。これは私にとっては結構重要かもしれません。
 このような私の歩く旅の原点が山登りにあることは間違いのないことで、ジョン・ミュア・トレイルは、そんな私の欲求を充分に満たしてくれました。しかし、パシフィック・クレスト・トレイルは山ではない部分も結構あるようなのです。町もあり、フリーウエイの横を通ったり、砂漠を歩くこともあり、そんな状況に精神的に耐えられるのか…という心配が大きいのです。

 そして、もうひとつの大きな問題は一日に歩く距離です。
 このパシフィック・クレスト・トレイルをワンシーズンで歩ききることは、時間との戦いです。というのも、山岳地帯における残雪と、早い初雪がハイキングシーズンを短くしているからです。
 結論から言うと、完全踏破のためには、春に歩き出して秋にゴールするというスケジュールで行くしか選択の余地はありません。なぜなら、春にスタートすることを考えた場合、残雪の多いワシントン州から歩き始めるよりも、春の訪れが早い南のカリフォルニア州から歩き始めるほうが圧倒的に現実的です。すると、秋にワシントン州を北上することなり、初雪の前、つまり10月に入る前ころまでに歩き切ることが望ましいのです。
 ならば、春に早くスタートすればいいのでは、という考えもありますが、カリフォルニア州中部には、4000メートルを越えるシエラ・ネバダの山並があり、余り早い時期にスタートすると、冬の名残の嵐や大量の残雪に悩まされることになるのです。

 そういったわけで、4月にメキシコ国境をスタートし9月にカナダに入る、というスケジュールにおのずと落ち着いてしまうわけです。つまり長くても約6か月の行程。
 そこで、一日の行程を算出するために、単純に2650マイルを180日で割ると…、約15マイルになりますよね。1日も休みなく歩いたとしてこの数字。食料補給したり、休憩日を設けたりすれば、1日に15マイル以上歩かなければならないことは明白で、この数字が私にとって現実的な距離なのかどうか…。

 去年(2003年)、私はジョン・ミュア・トレイル全行程211マイルを完全踏破しました。要した日数は23日間で、その間に15マイル以上歩いた日はわずか1日だけ。そればかりか、10マイル以上歩いた日ですら半分以下の10日しかなかったのです。
 つまり、ジョン・ミュア・トレイルを歩いたような感覚では到底このパシフィック・クレスト・トレイルの完全踏破は達成できません。これが結論です。なんの解決もせずに、この旅を始めたら、これは無謀以外の何ものでもないでしょう!

 荷物の量を劇的に減らすとか、頭を切り替えてひたすら歩くことに専念する、といった改革が必要です。
 そういう意味で、パシフィック・クレスト・トレイルは、ジョン・ミュア・トレイルとは全く違ったジャンルの遊びである、と開き直って向かうことが、成功のカギを握っているのではないかと思います。頭を切り替えたところで、体が対応できるかどうか、という問題はありますが、それは、もうやるしかありません!

 ちなみに、HPによると、年間約300人の人が完全踏破を目指し、ゴールに到達できるのは60パーセントほどらしいです。

(2004年3月1日)


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