待合室 2


 楽譜 その1 どの版を使用すべきか(国内版)

メダカ : 若芽先生、今日のテーマは楽譜ということですが。 

若 芽 : うん。楽譜については、いろいろ難しいんだ。メダカは楽譜を買う時にどうしているの?

メダカ : どうしているって、楽器屋さんの楽譜売り場へ行って買いますが。

若 芽 : たとえば「ソナチネアルバム」を買いに行ったとしよう。

メダカ : はい。

若 芽 : 何版を買うつもり?

メダカ : え? 何版って? そう言えば副題に「どの版を使用すべきか」とありますが、「版」っていったいなんなんですか?

若 芽 : 「版」っていうのは「出版社」のことかなあ。校訂者の名前で○○版と言うことも多い。楽譜は出版社、あるいは校訂者によってみんな少しずつ違うんだ。日本の出版社には「全音」とか「音楽乃友社」とか「春秋社」とか……、とにかくここに書けないくらいある。ここに書けないくらいあるから、後は省略な。

メダカ : そんなに出版社があるとは知りませんでした。「全音」は知ってますけど。

若 芽 : ピアノの楽譜は「全音」が一番種類を多く出しているからな。(と思う)

メダカ : ではさっきの「ソナチネアルバム」の「版」は?

若 芽 : 「ソナチネアルバム」はいろんな版がある。「全音」と「音友」(音楽乃友社)の楽譜はだいたいの楽譜売り場にはあると思うけど、他の版にも興味のある人は、お店の人に聞いてください。

メダカ : で、どれがいいんですか?

若 芽 : 若芽は「ソナチネアルバム」だったらどれでもいいと思うよ。楽譜の見やすさとか装丁とかで、気に入ったものを使ったら? あ、あと、解説とかが気に入ったものでもいいよ。妙に丁寧な弾き方の説明がある版もあるし。

メダカ : え? じゃあ、版なんて関係ないってことですか? 

若 芽 : ところが、そうじゃない。実は先生によっては、「版」に異常にこだわる人もいる。「○○」は何々版を使いなさい、と言うらしい。だから、まず、楽譜を買う時には今付いている先生にお伺いを立てる。「先生、何版を買えばいいでしょうか」というようにな。

メダカ : なるほど。難しいですねえ。でも、若芽先生は何でもいいんですよね。

若 芽 : そんなこと言ったか? 

メダカ : さっき言ったじゃないですか。どれでもいいって。

若 芽 : メダカ、人の話はちゃんと聞きなさいといつも言っているだろう。若芽は「ソナチネアルバム」だったらどれでもいいよ、と言ったんだ。まあ、実際に変に見にくい楽譜を持ってこられたら逆上するかもしれないがな。

メダカ : じゃあ、先生にもこだわりがあるんですね。

若 芽 : もちろん若芽にも楽譜に対するこだわりくらいある。ただ「異常に」はないぞ。

メダカ : はいはい、わかりましたから、次に進んでください。

若 芽 : 「ソナチネ」には特にこだわりはないけど(ちなみに、若芽は生徒には「音友」を使わせているが)、「ツェルニー40番練習曲」にはある。若芽の先生は、この練習曲の楽譜は「音友」を使うようにとおっしゃった。ここからが大事で、なぜ「音友」がいいかと言うと、指使いが正しく書いてあるからなんだそうだ。ツェルニーは練習曲にツェルニー自身が指番号を書いているらしい。全部の練習曲に、かどうかはよくわからんけど。

メダカ : 他の出版社はそうなっていないんですか?

若 芽 : 一番一般的だと思われる「全音」の楽譜には2種類の指使いが書いてある部分が多い。

メダカ : あ、ほんとだ。

若 芽 : 2種類の指使いが書いてあったら、弾く人はどっちの指使いでもいいと思うだろ?

メダカ : ええ、思うと思います。

若 芽 : でもツェルニーは「この指使いで弾いて欲しい」、つまりこの指の練習をして欲しいと思って指番号を書いているんだから、その通りに弾ける「音友」の楽譜がいい、と若芽の先生はおっしゃるのだ。

メダカ : はあ。なるほど。

若 芽 : ツェルニー自身に聞いたわけではないから、ほんとのところはわからないがな。

メダカ : そりゃそうですね。

若 芽 : なんにしても、生徒に「この版がいいよ」と言うからには、きちんとした理由も一緒に述べるべきだろう。いや、別に「この版の装丁が好きだから」でもいいんだけど。

メダカ : じゃあ、「ツェルニー40番」は「音友」がいいんですね。

若 芽 : これは若芽と若芽の先生の好みだから宣伝しているわけじゃない(音友に義理はないし)。これをお読みの皆さんはあくまで自分と自分の先生の好みを優先して下さい。それに、最近はチェックしてないから直っているかもしれないけど、「音友」の「ツェルニー40番」の「40番」には、左手にミスプリがあったしな。(使う場合は注意するように。)音友といえども、むやみに信用してはいかんよ。

メダカ : 楽譜のミスは困りますよね。

若 芽 : ほんとにな。真面目に楽譜を読む人ほど迷惑する。

メダカ : では、どの版がいいのかよくわからなくなったところで、今回は終わりです。次回は作曲家別に考えてみましょう。お楽しみに。


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