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暗闇の中、遠くにお花畑が見えた。 ああ、これってもしかして臨死体験ってやつじゃないか? じゃあ、このままあのお花畑を越えてしまえば死んでしまうんだろうか? そう考えていると目が覚めた。 ああ、またお花畑を越えることができなかった。 私は草の上に横たわっていた。 ぼんやりと先ほどの臨死体験を思い浮かべる。お花畑のむこうで誰かが手招きをしていた。こんなときに手招きをするのはきっと身内なんだろうけど、私はもうあまりに遠すぎて身内の顔も名前も思い出せなくなっていた。 「気が付いたか?」 ぼんやりと空を眺めていると突然視界の真ん中に目の大きな10歳くらいの黒髪の男の子が顔を現した。 私の意識は朦朧としていた。 少年は私がどうしてそこにいるのか事情を説明してくれた。それによると、私が背後の崖から落ちてくるところを彼が助けてくれたという。 (助けた? このガキが? ひとりで?) 私は怪訝に思い少年の顔をまじまじと見つめた。身内の顔は忘れても一生忘れることのできないその顔に私は見覚えがあった。 「おまえは……! サン=オース!!」 私は飛び起きざまに少年の両腕を両手でつかんだ。 「なんだよ!」 少年は驚いて私を振りほどこうとした。 ここでこいつを逃がすわけにはいかない私はさらに力を込めて少年を自分の方に引き寄せた。 「逃がすか! 私を元にもどせ!」 「わけがわかんねーよ!」 少年に思い切り突き飛ばされて私は草の上に尻餅をついた。 「サン=オースはオレのじいちゃんだ。もう随分前に死んだぜ」 私は目の前が真っ暗になっていった。それと同時に暗闇のむこうのお花畑が思い出された。お花畑の向こうで手招きしていたのは他でもないサン=オースではないか。 草の上に両手をついてへたりこんだまま固まってしまった私の前に少年がしゃがんで話しかけてきた。 「おまえ、じいちゃんと何があったんだ? 子供の頃のじいちゃんとオレを間違えるなんて見かけどおりの年じゃないよな」 そうだ。私はこの少年と同じぐらいの年の頃、サン=オースに不老不死の呪いをかけられた。 サン=オースは不老不死の術を操る不老長寿の魔法使い。私に呪いをかけた当時も10歳くらいの少年の姿はしていたがかなりな高齢だったらしい。 何をしでかしたのかはすでに覚えていない。だが何かサン=オースの逆鱗に触れるようなことをやらかしたのだろう。その時には呪いをかけられたことすら気が付いていなかった。 数十年後にふと自分の身体が時を刻んでいないことに気が付き、原因を探るのにさらに数年かかり、その後知人がまわりからすべて消え去り、大地が形を変えてしまうくらい長い間、私はサン=オースを探し続けた。私にこんな呪いをかけた張本人が死んでるはずはないと思い込んでいたのだ。 私がサン=オースを探し続けていた時間を考えると、彼の孫だというこの少年もきっと見かけどおりの年ではないのだろう。 ひょっとすると呪いの解き方を知っているかもしれない。 私は少年にサン=オースとの経緯を話し、呪いの解き方について聞いてみた。だが少年は私を奈落の底に突き落とす。 「呪いのかけ方も解き方も知ってるけど。解く事ができるのはかけた本人だけだ」 深い絶望とともに怒りが込み上げてきた。 この先、この少年がこの世を去り、この国が最後を迎え、この世界が全て消えてしまっても私だけは消えることができない。 そんな目に合わなければならないほどの罪を私が犯したというのだろうか。たとえそうだとしても、一介の魔法使いごときにそんな目に合わされなければならないいわれがどこにあるのか。 しかも自分はちゃっかり死んでて、あざ笑うかのごとくお花畑の向こうで手招きしている。 私は怒りにまかせて少年につかみかかった。 「おまえのじじいのせいで!!」 途端に目の前の少年の顔と、その後ろの景色が歪んだ。身体から力が抜けてゆく。つかんでいた少年から手が離れた。世界が徐々に暗転していく。またお花畑に向かうのか? だったら今度こそ渡ってやる。 意識が途切れる間際に少年が口の端で笑う姿が見えたような気がした。 (完) |
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