b133 アンコールの遺跡 今川幸雄・川瀬生郎・山田基久 霞ヶ関出版 6903
 だいぶ前にタイ・バンコクの王宮を見学した。そのときの王宮内に展示されているアンコールワットのミニチュアの説明では、一時期、タイ(その当時はシャム王国)の領土であったアンコールワットは、その後、クメール王国(いまのカンボジア)に奪還されたが、タイはその帰属の正当性を主張している・・・であった。その後、アンコールワットはカンボジアに帰属することで合意された、と聞いた。その帰属をめぐって戦争が起きるくらいアンコールワットは貴重な遺産である。ちなみに、アンコールワットはシャムリアップ市にあるが、シャム(=いまのタイ)がリアップ(=退散した土地)の意味である。
 その後しばらくして、バンコクに駐在していた友人のK君を訪ねたとき、休暇でアンコールワットを見てきた、とてもよかった、遺跡の売店でこの本を手に入れたのでアジアの建築文化に興味のある私に進呈するといって表題の本をくれた。昭和44年・霞ヶ関出版とあるが紙質もよくないし、写真も不鮮明である。海賊版かも知れないが、本文はしっかりしている。
 2006年11月、チャンス到来、アンコールワットを訪ねることができたので、この本をじっくり読んだ。ついでながら、アンコールワットの売店にはこの本がまだ売られていた。紙質も不鮮明な写真も同じで海賊版のようであるが、それにしても40年近くも売られ続けている名著といえよう。著者の今川氏は早稲田大政経学部卒、カンボジア大使館勤務、川瀬氏は東大文学部卒、カンボジア・ユーカントール高校講師を経てインドネシア・パジャジャラン大教授、山田氏は日仏学院卒、ユーカントール高校講師を経て、フランス航空勤務と、カンボジア駐在経験のある国際人で、そうした経験が本書の信頼度を高めていると思う。
 この本の1章カンボジアおよびカンボジア人、2章カンボジアの歴史、3章アンコールを理解するために、4章アンコールへの道は、40年前の情勢であることを引き算しても、アンコールワットの世界遺産たる価値を理解するための基礎となる。p35にカンボジア人の住居の紹介があるが、これは2006年11月の訪問時に調査した民家とほぼ同じで調査家屋が伝統住居であることを裏付けてくれるとともに、カンボジアの民家にかかわる習俗にも言及していてかれらの生活スタイルの理解を助けてくれる。
 5章はアンコールワット、6章アンコールトム、7章小まわりルート、8章大まわりルート、9章パンティヤイ・スレイとパンティヤイ・サムレ、10章ロルーオスの遺跡群で、アンコールワット周辺にある遺跡を網羅している。さらに付章で、遺跡の彫刻を理解するためには欠かせないラーマヤナ物語と叙事詩マハーバーラタを簡単に紹介し、巻末には用語解説もつけられていて、至れり尽くせりの内容である。まさに海賊版として40年近くも人気を誇る名著である。海賊版であるから購読はすすめにくいが、アンコールワット訪問はおすすめしたい。もちろん、ヒンズー教と仏教の相克はアンコールワットの見所である。(0611読)